高橋洋一さんの活動再開となる一般向けの経済評論です。序章に活動自粛の原因となった事件の顛末が記されています。温泉施設のロッカーで見つけた時計と財布を忘れ物として届けるつもりで手にしたが、マッサージ後に居眠りして度忘れし、施設を出たところで警察に事情聴取された、とのこと。書類送検後、不起訴処分。
事件前に書き上げていた原稿をアップデートした本なので、昨秋から今春にかけての麻生太郎政権の経済政策、ことに与謝野馨財務・経済財政・金融担当大臣の主張に対する、金融緩和+構造改革派の立場からの批判が中軸に据えられています。
基本的な主張は「この金融政策が日本を救う」を踏襲しており、日本経済の需要不足を解消するため大胆な金融政策を行うことが大切で、金融に手を付けず財政出動だけを行ったり、構造改革を後退させるのは間違いだ、というものです。ただし、昨秋以降の議論の盛り上がりを背景に政府紙幣に関する記述が厚いこと、様々な各論に踏み込んでいることなどから、295頁の厚さとなっています。
本書の副題には要注意。著者は2010~11年の需要不足を80兆円と見積もり、政策を総動員して75兆円を手当てせよ、と主張します。これを「不可能」とする官僚に反論するのが「官僚が隠す75兆円」の意味で、いわゆる「埋蔵金」が75兆円あるという内容ではありません。
私は著者の主張に多くの点で賛同しますが、各論に踏み込むなら根幹の論理だけでなく、根拠となる事実をもっと明示すべき。自分でデータを探し、照合しつつ読むのは一苦労です。また金融緩和の必要性や産業政策への批判といった大きな話題と、政府紙幣の是非などの各論を並列に書く構成や、議論の要約が整理されないことも残念。半年間、編集者は何をしていたのか。