4つの経済危機のエピソード「1930年代の大不況」「1970年代の大インフレ」「1990年代以降の日本の大停滞」「2000年代の金融不況」について、経済学史の研究成果を整理して提示する本です。経済危機の原因と対策について理解を深めつつ、経済思想の変遷と経済学の歴史も学ぶことができます。
著者はエピソード1,2,3を各々3章構成で描きます。まず、危機発生の背景にあった政治家、経済学者、実業家らの考え方をまず紹介します。続いて、実際に危機が進行・顕在化し、対処・沈静化する過程を、学者らの議論の展開と平行して整理・紹介します。最後に、後代の学者の研究を踏まえて問題の再検討を行い、危機の教訓を導き出します。エピソード4は2章構成で、過去の危機との比較分析や、教訓を踏まえた対応策の考察がなされています。
危機の教訓は「マクロ経済学への教訓」「経済政策形成過程への教訓」「歴史を学ぶことへの教訓」としてエピローグにまとめられています。本書で繰り返し語られるのは、基本的な理論の大切さ、経済主体の持つ知識・思想が政策に及ぼす影響の大きさ、歴史に学ぶ有用性と難しさです。とくに経済主体の思想と出来事の相互作用に注目しているのが本書の特徴で、経済と人類の関係は今後も試行錯誤の段階にあることがよくわかります。
ていねいに様々な学説と議論を紹介する本書は、一般向けの経済書としては貴重な存在です。全11章の本文は285頁で終り、残りは膨大な参考文献の一覧と索引になっています。四六版ソフトカバーで装丁がちゃちな感じはしますが、構成の練られた読みやすい本なので、ぜひ多くの方に読まれることを期待します。