携帯電話対応 HTML 文書の作成 Ver.2

概説

趣味で Web サイトを作成する場合、携帯電話対応 HTML 文書の作成におけるポイントは次の3項目に集約されます。

  1. マークアップ言語には XHTML Basic を用いること
  2. 実装状況によらず、論理構造のマークアップに手を抜かないこと
  3. CSS などの見た目を制御する技術は頭から追い出すこと

チープな端末向けの専用コンテンツが必要になる理由

大きな図書館には、弱視者向けの大活字本が用意されています。この大活字本、文字が大きいのだから誰にとっても読みやすい? それが大違い。健常者が読もうとすると、たいへんな苦痛を覚えます。1画面に表示される情報量が少ないと、長大な文書を読むのは苦痛になるのです。往年の角川ミニ文庫が、中編小説の発行媒体として成功せず、エッセイ集などの短い文章を集めた本しか売れなかった理由も、ここにあります。

最近、携帯電話への小説配信が伸びています。その背景には、最大で1画面300字以上という高精細な画面が実現された技術の進展があるのです。携帯配信の小説が本当にブレイクするためには、文庫本並みの1画面600字の実現が必要といわれます。

携帯電話向け HTML 文書が必要な理由としてよく挙げられるのは、携帯電話のファイルサイズ制限です。しかしこの制限値は、画面サイズから逆算したものです。(端末価格を度外視すれば)技術的には、当初から大きな HTML 文書に対応することは可能でした。ポイントは画面のサイズ(=同時に表現できる情報量)だとすると、PC 向けの HTML 文書と携帯電話向けの HTML 文書を別々に用意すべき理由は自明です。

とはいうものの、最終的に携帯電話が PDA 並の画面を有するようになる可能性は、低いとはいえ0ではない。過渡期の問題に過ぎない、という可能性はあります。

XHTML Basic

本来、HTML はあらゆる環境で利用できるよう設計されてきました。しかし長らく処理能力の高い端末である PC で主に利用されてきたため、HTML は多くの要求を取り入れて肥大化し、PC 以外からは利用し難いものとなってしまいました。そこで多様な端末を念頭に置いたXHTMLの共通分母として再設計されたのが XHTML Basic邦訳)です。

以下に示す通り、携帯電話専用のマークアップ言語として XHTML Basic を拡張した XHTML Mobile Profile が存在しますが、無視して構いません。現在は PC 向けと携帯電話向けの2種類の文書を作成すれば事足りますが、将来、第3、第4勢力が登場しないとも限らない。そのとき、過去ログを遡って3,4種類もの文書を追加作成するのは面倒ですよね。最初から多様な端末に対応した規格でマークアップする方がよいでしょう。

趣味の Web デザインでは、各端末毎にベストパフォーマンスを狙う必要はありません。小さな努力で最小限のラインを超えればよいのです。となれば、XHTML Basic は有力な選択肢です。

補記

サイトの寿命が短いことが予想されるケース、あるいは対象層を絞り込むケースでは、チープ端末全般ではなく携帯電話だけに的を絞ったサイトを製作する需要も大きいものと思います。とくに CGI などを駆使してインタラクティブな機能・効果を提供しようとする場合などには、様々な拡張規格を利用する必要もあろうかと思います。

ただ、私は一般論として趣味レベルの携帯電話対応 HTML 文書製作について解説しているので、チープだが息の長い手法、堅牢なやり方を提示するわけです。

携帯電話専用の規格

移動体通信関連の仕様は WAP2.0 にまとめられています。

WAP2.0 の仕様書は OMA Technical Section - Affiliates - Wireless Application Protocol Downloads から入手できます。ただし長大な規約に同意する必要があるので要注意。WAP2.0 を策定した WAP Forum は現在、OMA[詳細] 傘下の作業部会となっています。

WAP2.0 は移動体通信の包括的な仕様なので、仕様書は分野別に細分化され、個別に準備・更新されています。一般のコンテンツ製作者は XHTML Mobile Profile の仕様書だけ読めば足りるでしょう。Wireless Application EnvironmentWML2 is deprecated in WAE2; XHTMLMP should be used for new services/applications. と強調しています。幸い WML2 と異なり XHTML Mobile Profile の仕様書はペラペラに薄い。

国内の特殊事情

国内の特殊事情についても触れておきます。国内の携帯電話専用コンテンツにおけるマークアップ言語は、NTTdocomo が i-mode で仕掛けた Compact HTML邦訳)がデファクトスタンダードとなっています。そのため、携帯電話向け HTML 文書の作成というと、ふつうは Compact HTML が解説されます。

しかし、勘違いしないこと。携帯電話に搭載されているブラウザは、HTML4.01 でマークアップした文書も、XHTML1.1 文書も読めます。対応範囲外の要素・属性は無視するだけのことです。Compact HTML の存在意義はあってないようなものなのです。ということは……そう、XHTML Basic にこだわる必然性もありません。

では、XHTML Basic で記述する意味はないのか? これは難しい質問だと思う。

NTTdocomo をはじめとする各社は現在、WAP2.0 への賛同を表明し、XHTML Mobile Profile への対応を進めつつあります。現時点ではいずれも不十分な段階にとどまっていますが、最終的にはまずまずの対応となるでしょう。そうなれば、XHTML Basic で記述された文書は、ブラウザによる解釈が全面的に保証されます。(追記:2006年1月現在、新機種に搭載されているブラウザは合格点を出せるレベルとなっています)

ブラウザに無視される可能性のある記述を省き、無駄のない文書を作成したいなら、XHTML Basic はよい選択肢です。しかし、多少の無駄は気にしないのであれば、もっとリッチな言語を利用してもかまいません。

多環境対応のポイント

端的には、以下の4項目に尽きます。

  1. 文字コードは Shift_JIS とする
  2. 論理構造のみマークアップする
  3. CSS は使わない
  4. ファイルサイズは 9KB 以内にする

文字コードには注意してください。euc-jp 対応端末は少なく、UTF-8 に対応している端末も多くありません。一方、Shift_JIS には全ての端末が対応しています。よって、Shift_JIS を用いるべきです。

マークアップと CSS については、見た目の制御を考えるなとまとめられます。現在流通している携帯電話の画面に表示される文字数は、約30~400字であり、じつに10倍の開きがあります。これはパソコンからの閲覧を前提としたウェブサイト製作とまったく異なる点であり、絶対に忘れてはいけないポイントです。携帯電話は大きくならず、高齢者の視力も改善しないので、この制約は将来も解消されません。

文字サイズを最大に設定した場合には、border や配色の変更など CSS による装飾はたいてい逆効果となります。ない方がマシなのです。将来、各社の CSS 対応状況は次第によくなってきます。しかし今後も、携帯電話向けコンテンツに製作者が CSS を用意することを勧めません

また逆に、現在の対応状況によらず、論理構造に基づくマークアップは徹底すべきです。XHTML Mobile Profile では、物理マークアップは排除されています。NTTdocomo の端末も、追って対応するでしょう。NTTdocomo が対応してから、過去ログに遡ってマークアップを追加するのは手間です。XHTML Basic を使うと決めたのなら、端末の対応状況を気にせず、淡々とマークアップしてください。

未対応の要素(HTML)は、単に無視されます。だから、決定的に閲覧に支障が生じることはありません。CSS や物理マークアップが厄介なのは、少なからぬケースにおいて、中途半端な対応が致命的問題を起こすことです。PC 向けブラウザと比較して、携帯電話のブラウザはユーザの制御できる余地が少ない。問題が起きたとき、ユーザ側の対処は望めません。したがって、製作者は見た目への干渉に慎重であるべきです。

ファイルサイズの制限は、まだ無視できません。5KB を目標に、最大でも 10KB に収めることを心がけるべきです。この制約はきついでしょうが、「携帯電話の画面は小さい」ことをお忘れなく。

補注、あるいは書き添えたいこと

有用な解説・リンク集

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