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レトランゼ
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ビール
大人になっても、変わらない
 恥を忍んで書くけれども、
 「ビールってどこがうまいの?」
 子供のときから今に至るまで変わらない疑問だ。これは全く解らない。それこそ金を払って飲む奴の気が知れない。こんなこといってると国民の7割を敵にまわしそうだけど、他の酒ならいざ知らずビールの味だけは徹頭徹尾わからない。
 僕が日頃飲んでいるサワーやカクテルだったらベースの味が解るから、飲めるし理解も出来る。ところがビールはもう「ビール」としか 形容できない味だし、しかもそれがただ苦いだけときては云うことなしである。当然、各ビールごとの味の差も解らないし、サワーより度数が低くても早く酔っ払う。
 子供の頃、級友が「ビールってうまいよね」とか吹くのを聞いて「は、大人ぶりたいんだ、こいつは」と軽侮して相手にしなかったけど、中学高校とビールを日常的に嗜む者が増えてきて、無法地帯の大学生ともなればビール好きが完全与党である。
 小さい頃、「大人になればビールもCMみたいにおいしく飲めるんだろうな」と漠然と思っていたが、何の自己革命も起こらぬまま馬齢を重ね、ついに二十歳の日を迎えてしまった。
 僕は成人した日、子供の頃から思い浮かべていたことをした。
 晩飯にビールをつけてみたのだ。
 プルトップをあけ、飲んでみる。
 やっぱり苦く、まずかった。

発泡酒
どこが違うの?
 なんだか各社とも税制上の理由か発泡酒が人気のようだね。要は麦芽を使ってるか否かとかそういう問題なんでしょ? それだけで税金が随分軽減され、消費者に還元されて受ける。こう書くと随分情けない話だが、流行なんてそんなものである。
 さらに情けないのがこの発泡酒ブーム。各ビール会社が競合社の発泡酒シェアを奪い合うのではなく、自社のビール部門の収益を激減させて、成り立っているというのである。その余波で内紛寸前の会社もあるとか、週刊誌は例によって無責任に書いていた。
 詳しい話は下戸の僕のこと、当然知らない。知人にマネキン嬢(試飲販売の売り子さんね)をやている人がいるから後で聞きにいこうかと思っている。
 さて、ここで僕である。
 一連の価格破壊で物価が下がるのは無責任に歓迎するのだが(大学生の癖にデフレスパイラルを懸念しないエゴイストぶり)関係のない発泡酒に関しては全く述べることがない。いや、一応は飲んでみましたよ。チューハイに比べればまだまだだけど安いから。
 なんだい、ビールじゃん。
 僕の舌は全然変化を知覚しませんでした。
 若干アルコールも弱いらしいけど、変わらず酔うし、元々期待はしていなかったけど、なんだかなあという感じはしましたよ。オチがつかないので、ここで一句。

       発泡酒  正体みたり  ビールかな

 お粗末。

ワイン
ワイン・オンザロック
 しばしば酒を嗜む伯父が、高そうなワインをぶら下げて我が家に遊びにきたのは摂氏35度を超える暑い日のことだった。伯父はその赤ワインを片手に「こいつは高かったぞ、後でみんなで飲もうじゃないか」と昼間からのたまった。
 僕はその高そうなワインを受け取ると冷蔵庫に放り込んだ。急な来客に母は慌ててクーラをつける。
 伯父は応接室ではなく、居間の畳にどっかりと座ると団扇片手に窓の外の緑を見た。そして父を相手に天気の話を始めた。
 母はあたふたと菓子桶から出せそうな菓子を選別すると奇麗にセットアップし、僕に持ってくように言った。僕は来客用に置いてあるカントリーマアムを1枚失敬すると伯父に出した。
 伯父は「暑いなあ、なんか冷たいものをくれよ」という。
 確かに炎天下をやってきて飲むものがなければきついだろう。母にそれを告げると血相を変えた。我が家にはジュースなんて基本的にないし、麦茶も切らしていたのだ。
 次善の策で氷水を持っていったが、伯父は「さっき渡したワインを空けようじゃないか」と提案し、母は僕に伯父の分をセットするように命じた。我が家は僕を筆頭に全員下戸なのだ。
 さて僕は一人台所に佇み、凝ったラベルを前に考えた。
 こんな暑い日に、剥き出しのまま持ってきたワインはすっかり 温み、お世辞にも爽快とはいえない温度だった。いくら酒は人肌とは云え、こんな暑い日に飲む必要はない。物には常識がある。
 ここで僕は何をしたか?

 ワインのオンザロックを作って出したのだ。

 ああ、下戸の無知とは恐ろしい。高級ワインに氷を浮かべるなんざ酒飲みとして最低の禁忌である。僕はそれを見事に破った挙句に、秀吉に冷めた茶を出す三成のように得意満面な顔をして酒豪の伯父に出したのである。
 当然この愚行は家族から糾弾され伯父から白眼視を受けた。
 後になって高校や大学の仲間にこの話をしたが、やはり誰を相手にしても眉をひそめられ、指弾された。斯くなる上は僕はただただ己の不明を恥じるしかない。

シャンペン
痛すぎる思い出
 シャンペン、実はこれワインの炭酸版だってね。
 するとスパークリングワインとシャンペンはどこが違うの?
という問題が出てくるのだが、そういう質問は僕のバカさ加減が解るからしちゃいけないんだろうな。
 ともあれシャンペンといえば僕はF1の表彰台やキャバレー等に出回る「高い酒」というイメージよりも、クリスマス近辺に飲めるサイダーもどきの印象が強い。なんであんなお子様向けのジュースを高級酒と同名で論じるのだろうか? 浅学な僕はやはり知らないのだが、想像としてはあのポンという音とともに栓が吹っ飛ぶ共通点からではないだろうか。
 さて、これには僕は嫌な思い出がある。
 僕は妙なところで臆病なので長らくガスコンロが使えなかった。あの昔の一回押してからひねる方式のコンロである。やった瞬間に爆発するものと思っているのだ。同じ理由でライターもつけられなかったしクラッカーだって怖くて鳴らせなかった。
 子供用シャンペン、また然りである。
 まさかシャンペンが爆発するとは幼少の僕も思っていなかったが、それでも突然音が鳴る恐怖に僕はすっかり怯え、いつも他の家族に代行してもらっていた。
 ところが小学校の地区子供会ではそうはいかない。
 クリスマスパーティーの時地区会長だった僕は代表して栓を空けるよう指示を受けた。周りにいるのは同年の女子か後輩ばかりである。逃げるわけには行かない。
 僕はおそるおそる、それでも内心を悟られないように付近をかぶせると恐々ひねった。ところが緊張した手つきでやっているから、微塵も栓は動かない。座からはクスクス声が聞こえる。
 舐められてたまるか! と僕は逆上し、本気で力を入れた。

 スポン、という小気味よい音とともに栓は僕の眼を直撃した。

日本酒
日本酒出入禁止令
 日本酒は僕にとって禁じ手である。
 あの忌まわしき事件以来、僕は日本酒は一滴すら飲むまいと決意したし、その誓いは今もってて破られていない。今回は僕の酒飲み人生最悪の恥部を暴露したいと思う。

 2001年3月のこと。小学校時代に通った進学塾以来の友人で、2浪していた男がついに一流大学に入った。僕ら文芸部のOB男子はこれを祝するために集結し、大いに騒いだ。当然飲屋で卒業直後の人員も借り出しての馬鹿騒ぎだった。
 やがて夜も更け当の主賓は帰り、卒業直後の未成年も帰った。
 ここで僕ともう一人の片割れは、後輩である弟子の家へ泊まりに行くことになった。酔い覚ましのジュースを買って、結構広い彼の家へ向かう。
 ところがここは酔い覚ましの場ではなかった。
 後輩の家のオヤジさんが酒豪で、やにわにスルメを焼きだすと、「水だ水だ」と日本酒をぐいぐい勧めるのである。飲屋で既に出来上がっている僕は断る理性を放棄していたので、調子よく飲んで、大学論や下宿論について得々とオヤジさんと語り合った。
 やがて「明日はえーから」とオヤジさんが寝所に上がってしまい、酒の強い仲間と後輩はなにやらPCゲームを始めたが、僕はもはや生きる屍であり、はしたなくもゴロリと横になるとン万円のレザーコートを布団に眠ってしまった。
 目が覚めると違う部屋にいた。
 起き上がると外は明るく、仲間と後輩が妙な顔で僕をみている。
「おはよう、諸君。いい気分の朝じゃないか」と僕はおどけた。が、彼らは寒い表情で僕を見る。
 「山田」と仲間が云った
 「お前よくそんな暢気なこといってられるな」
 僕は「はにゃ?」と云った。後輩がかつてないほど冷たい声で、
「トイレ行ってみてください」と云った。

 トイレは凄かったね。
 もう廻り中、ゲロだらけ。僕は一抹の感動さえ覚えた。
 壁から床から便器から天井まで! どうやって吐いたんだか?

 部屋に戻ると、僕は「あれ、俺?」といった。冷殺光線を目から発しながら二人は頷いた。自主的に「掃除します」と僕はいうと、いそいそと階下に戻ったが、酔っ払いの手では掃除もできない。
 結果、僕は彼の家から出入禁止である。後輩とは今でもよろしくやっているが、仲間とは以後音信不通である。なんでも僕の醜業をバラしてまわっているらしいが、その後ツッコミを受けたことがないので解らない。

薬用養命酒
健康のためなら死んでもいい?
 変わった小学生がいたもので、僕は昔から平日午後4時からはじまるテレビの再放送を見るのが好きだった。今ではその時間帯は家から遠く離れた大学にいるため、見られないのが残念だ。
 だが、僕の小学生時代は4チャンネルは常に「あぶない刑事」か「刑事貴族」の刑事ドラマ。6チャンネルは「水戸黄門」か「大岡越前」の時代劇。8チャンネルは僕には論外なドラマ。10チャンネルは「さすらい刑事」か「はぐれ刑事」をやっていた(この2つは5時からかもしれない)。どれも垂涎物である。
 さてしかし僕の思惑とは異なりこれらの番組は主に一日中テレビを見ているような年寄りが対象で、CMにはこの「薬用養命酒」がやたらよく出ていた。
 CMの影響というのは恐ろしいものであり、こうも毎日毎日勧められると、なんか飲んでみたくなってくるのが人情だ。
 小学生に飲みたいと思わせるあたり、相当うまい部類に属するCMなのだろう。僕は勝手に養命酒の味を「こども風邪シロップ」の強いバージョンだろうと思っていた。風邪の時に飲ませてくれるカラメル味のシロップは密かな好物だったのだ。
 結局念願かなって初めて飲んだのは中学生の時だった。伯母の家に行った折に頼んで一口のませてもらったのだ。
 確かに甘くはなかったが薬用シロップのようなテイストであり、体にはよさそうだった。だが畢竟鮭は避けである。体にはいいかもしれないが酒であるという前提がある限り、僕の体にはあわないのである。
 いくら体にいいと宣伝されても、急性アル中で死んでしまっては元も子もない。

ワンカップ酒
差別ですいません
 私だって男の端くれ、妙な気分になることだってあるさ。
 例えば小学生の頃、酒屋の前でワンカップ酒のラベルの裏側を見て興奮したりしなかった? あれ、初めはヌードだったんだよね、それが女性団体の抗議か水着のねーちゃんになって、さらに抗議を受けて世界の名所旧跡になる頃にはエロ本を買っていましたが。
 さて、ワンカップ酒。
 どうも僕には貧乏ッちいイメージがあるんですが、気のせいですかね。別に差別をするわけじゃありませんが、よく繁華街の駅前に酒焼けした人たちが飲んでたりするじゃないですか。
 それでなくともその簡易性・携帯性が「貧しいものの味方」って感じがするんですよね。僕も貧しいけど酒には縁がないせいかな? なんか気に入りません。中年以上の汗の匂いとか連想しちゃうんだよねえ。深夜なんか電車の中で煽ってるのがいるけど、そういう人を見ると「こういうのにはなりたくない」と思うね。
 ところで、僕の行きつけの立食そば屋は典型的な貧乏人向けの店で、ここのセルフサービスのカルキ臭い水を入れるグラスがまさにワンカップの空き瓶なんだよね。
 これは嫌だなあ。
 僕は不潔恐怖、唾液恐怖ではないので、レストランや大衆食堂のグラスだって普通に使えるけど、ちょっとこのグラスで水を飲む気にはならない。勿論、ちゃんと消毒して衛生には問題ないと解っていても生理的に受け付けない。

御神酒
神聖な酒はトイレの露に消えた
 僕の素行から誰も信じちゃくれないが、こう見えても正月にお寺でバイトしたことがある。そう、聖職者の出来損ないみたいな仕事をしたのだ。
 御護摩札の販売である。
 まあこの仕事については色々云いたいことがあるのだが、酒の話に絞ると1万円の札を買われるとお神酒がついてくるのだ。一体、仏教寺院がお神酒なんて出していいものかと思うのだが、神仏習合の過去もあるし、いいんだろうな。
 さて乏しい財布から新年の幸いを祈って護摩札を求める善男善女にとっては、神棚にでも献じる(これもよく考えるとおかしな話だ)ありがたいお酒であるが、これが売る身になればただの酒である。なんといっても1つの棚に数十本もあるのだ。どうみても1万円のオプションとは思えない乱雑ぶりである。
 こういうものを当時高校生の僕らが見逃すわけもなく、たびたび失敬しては(どうせ数なんて数えてないし、また数える術もない)トイレに消えるものが続出した。トイレで物を飲むなんて普通なら信じられないが、酒やらタバコやら喧嘩やらイリーガルなものはトイレでやるというのは青少年の決まりなのだ。
 僕も何度か参加したが、やはり当時から酒の弱さを自覚していたので、ふらふらになって大便器にモドした記憶がある。
 その後1日、バイトはきつかった。
 職員には誰にもばれなかったけど、つらく楽しい体験だったな。

紹興酒
親孝行は校則違反?
 高校の頃、校外学習で横浜に行ったことがある。
 仮にも高校生の旅行であるからして、行動計画表の提出はあったものの当地では完全自由行動であり、僕は4人班の班長として主に中華街界隈をぶらついた。
 中華街のような異国情緒溢れる過密都市は実は好きだったりするので、民族系の雑貨屋や専門店などをぶらぶら廻っていたのだが、どうも班のメンバーはこういう場所が苦手らしく入って来なかった。だから当然僕の行動も制限され、家族のお土産には碌なものが買えなかった。
 若干焦り始めた時、偶然入った食材店で僕は掘出物を見つけた。中国直輸入紹興酒、一本400円である。酒はよく知らないのだが酒屋の前に放置してあるビール瓶1本の大きさである。
 これが400円、安いような気がして僕は買ってしまった。
 仲間は僕の買い物を見て、一様に怪訝な顔をした。
 「おい、そんなもん先生に見つかったら停学だぜ」
 そう、僕にオ学校は近隣でも校則の厳しいことで聞こえた名門校である。当然、旅先で酒を買うなんて御法度中の御法度。親を呼出の上、停学1月級の罪である。
 ところが旅先のせいか僕は「親に買ってやる土産」のことばかり考えて全く教師がどう見るかまでは考えなかったのだ。
 まさか返品するわけにも捨てるわけにも行かず、僕は袋を二重に巻いて、リュックの中に封印した。何が何でも先生にバレる訳にはいかなかった。仲間には半ば脅迫同様の口止めをした。
 旅行終了後、大型バスの停留所で僕はずっと冷汗をかいていた。まだ一口だって紹興酒は飲んでいないのに、僕は緊張に酔っ払っていた。

焼酎
ゲロと小便の香り
 確かあれは小学校4年の新年だったか、親戚が家にやって来た。我が家の新年は親戚が来るというより、家族で親戚宅へ行くという方だったから、これは珍しいことといえる。
 さて、その年我が家に来たのは酒豪の伯父さんだった。
 彼は酒豪らしく明るく多弁な気のいい人物で、家に来るたび小遣いをくれたし、母が眉をひそめるくらい色々なお菓子やジュースを買ってきてくれる。だから僕はこの伯父さんのことをとてもとても気に入っていた。
 さて、この年の伯父さんは我が家に来る前から酔っ払っていた。大方近場で旧知と会ったりしたのだろう。正月でなければ不審人物と呼べそうな缶ビール片手のスタイルだ。
 伯父はその夜、一日中家族と歓談していた。深夜になって伯父は辞去しようと腰を上げたが、夜も遅くアルコールも相当入っているので、両親は客間をあけて一晩泊まって貰うことにした。
 僕は早寝が原則の小学生だったので、夜の9時には寝ていたのだが、大人たちの酒盃を交えた笑い声は今でもよく覚えている。
 さて翌朝、僕は起きると卓上に散らかった宴の後を横目に(ツナピコやイカクンを狙っているのである)トイレへ駆け込んだ。
 と、トイレの中はえもしれぬ甘い香りがしている。
 あれ、と思って鼻から息を吸った。とてもトイレとは思えない程の甘ったるい匂いが鼻についた。僕はこの時「伯父が来るんで消臭剤でもおろしたのかな?」と思ってトイレを出た。
 と、洗面所で顔を洗っている伯父にあった。
「よお、おはよう。起きたか?」伯父の顔はなんかやつれていた。「夕べは飲みすぎちまってなァ、いやあ参った。大きくなっても飲みすぎるんじゃないぞお」
 伯父はそういって顔を磨いていた。

 トイレの甘い香りの真相は母から聞いた。
 焼酎を深酒すると、吐瀉物(要はゲロ)や排泄物(小便)まで、それはそれは甘い焼酎の匂いになるそうだ。僕もそれから十年後に自分の甘い小便の匂いを嗅がされることになるのだが、この話を聞いたとき僕は甘い香りを思い出して吐きそうになった。
 まさかゲロや小便が甘い香りを発するなんて、普通は信じられませんよねえ。

チューハイ
アルコール耐性訓練
 ここでいうチューハイは焼酎に炭酸とフレーバーを加えたものである。厳密にいえば違うのかもしれないが、僕の嗜むチューハイは梅やら杏やらパインやグレープ味のついた炭酸の缶製品である。
 最近では随分値崩れして、スーパーでは1缶350ミリで百円ととても安く手に入っている。味もサワーと同様、ジュースをちょい苦くした感じでとっつきやすい。たまに僕も「アルコール耐性訓練」と虚しく称して、晩酌に代えている。
 焼酎自体は小便事件以来、見るのも嫌な感じだけどチューハイは果汁の香りがごまかしてくれるせいか、よく飲める。よく飲めるといってもそれは350缶が精々であり、これが500缶ともなると心臓はバクバク云って、苦しさのあまり寝込んでしまう。確かめたことは密かにないのだが、結構度数は強いんじゃないだろうか?
 ところで僕が絶対に飲めないチューハイがひとつある。
 これは一時期友人のHPの掲示板で話題になったのだが、レモンの缶チューハイである。これって絶対消毒薬のアルコールを飲んでいるような気がしない? 注射の前に腕をこする奴みたいな感じ。酒豪の彼が嘆いていたくらいだから、結構みんな賛同してくれると思うけど。
 最後に一言云っておくと、缶チューハイはグラスにあけて、ひとつまみの砂糖を入れて飲むとおいしいですよ。僕みたいなジュース感覚で飲む下戸にはね。

カクテル
ハードボイルドの条件
 酒場でかっこいい男の姿とは、カウンターで注文するカクテルの種類によって決まる。まさにハードボイルドの世界であるが、こういうシチュエーションだと僕は全く出るそぶりがない。
 例えば私立探偵ヤマダが依頼人のグラマーな美女とカウンターで打ち合わせをしていたとしよう(信じられない話だが、こう云う所で事件の話をしちゃうのが、アメリカの探偵小説の恐ろしさである。それで後で「秘密が漏れてたとは!」ってそりゃ漏れるだろう)。 そこでいきなり僕が「カルピスサワー」といったらどうなるか? スパングを受けて席を立たれるのがオチである。探偵は大抵依頼人とよからぬ関係になるのだが、これでは無理というものである。
 別に探偵でなくてもこれは同じであり、つくづく僕はナンパ師になれないと痛感するね。相手を酔い潰すなんて絶対に無理だから。僕より弱い人なんて見たことないし。
 だからカクテル道もちょっと無理みたいです。
 一筋の光明としてはカクテルオタクになり、アルコールの弱くて専門的なカクテルを頼むことだけど、そこまでやる気もないしなあ。友人にバーテンがいるから勉強してもいいんだけど、下手に違ったのを注文して強いのがきたりすると死んじゃうからね。
 カクテルという名の酒はなし、強いも弱いもベース次第。
 下手なロシアンルーレットには手を出さないほうが賢明かな?

付記・先日とある女性と飲みに行ったおり、ルーレットに敗れて知らずに強いカクテルを飲んじゃった。理性のたがが外れて喋り続けるはエロ話。俺ってそんな人格だったかなあ?

ウイスキー
イート ザ ブロック塀
 ウイスキーの味は大学に入るまで知らなかった。
 ビールやワインは酒豪の親戚などが余興に少し飲ませてくれたし、サワーやチューハイなんかは元のジュースの味を知っているので、類推できた。
 ところがウイスキーはねえ。
 CMなどでなにやら高級なお酒という情報は入ってくるが、飲む機会がない。我が家では酒飲みはいないし、親戚だってウイスキー片手にやってくる人はいない。下戸の家に持っていっても全く感謝されないからだ。
 そういう訳で、僕はまったくウイスキーとは縁なき生活を送っていたのだが、ある日ウイスキーの方が僕のところへやってきた。
 大学1年の冬に、高校文芸部時代の先輩同輩後輩が6人ほど拙宅に来たときだ。みんな金欠の大学生のこと(ン? この頃、後輩は高校生か)当然宅飲みのドンチャン騒ぎになるのである。一晩中騒いで、翌朝仲間が帰った後、僕は未開封のウイスキー缶を発見した。僕らの慣習法では残った酒や菓子は主催者のものになるのだ。
 よって僕は(おそらく高級酒マニアの後輩の)ウイスキーの缶を開封すると琥珀色をショットグラスに開けて煽ってみた。
 「これって飲み物?」というのが第一印象だった。
 何故か僕の頭には「石灰ジュース」という言葉が浮かんだ。いや、石灰なんて食べたことはないが、そんな気がしたのだ。言い換えればブロック塀を齧っているような感じである。
 何口か飲んでみたが、たまらず僕は琥珀色を流しに捨てた。
 その罰かどうか、この後僕は思いっきり悪酔いし、便器の恋人になり下がった。長らく僕はビールがうまいというたくさんの人々を「あんな苦いだけの代物のどこがいいんだか?」と思っていたのだが、ウイスキーはその思いを更に越える。
 誰か教えてください。どうおいしいの?

サワー
灯台下暗し
 いくら僕が稀に見る下戸であるからといって、まさか居酒屋でしょっぱなからジュースを頼むようなことは出来ない。酒場で無理をする気は更々ない僕であるが、少なくとも飲んだら即死という訳でもない以上、初めの一杯は付き合うのが礼節というものである。
 さて、ここで僕が頼むのは各種のサワーである。
 アルコール分はビールに比べて高いらしいのだが、ただ苦いだけのビールとは違い、ジュース感覚で飲めるのが魅力である。友人の酒豪連などは「あんなのは酒じゃねー」と広言するが、それが僕にすればいいのである(それにサワーは一番安いし)。
 大体僕の酒量はサワーをジョッキに二杯がボーダーラインである。これ以上飲むと吐き気に襲われ、脈拍は早くなり、死にそうになる。我ながら情けないが、そういう訳でサワーとしてもそう嗜むわけではない。好きなサワーをあげると「カルピス」「グレープフルーツ」(これは「生」の方ね)「梅」の順である。逆にいえばこれ以外は殆ど飲まない。ジュースの趣味と一致しているのだ。
 さて、そんなサワー独裁主義の僕だが、実はサワーのアルコール分はなんなのか、ということは知らない。仲間内に諮ったところ、「ジン」とか「ウォッカ」とか強い酒の名が出てきたので驚いた。殆どジュースで希釈されているとはいえ、よもやこの僕がそんな強いのを飲んでいるとは思わなかった。
 たかがサワー、されどサワー、舐めてかかると怪我しますぜ。

カルアミルク
飲酒界の邪道
 僕の友達にさる有名なバーで、バーテンのアルバイトをしている人がいる。当然のことながらお酒のことには詳しく、たまに一緒に飲みに行くと、いろいろ業界の裏話やお酒に関する薀蓄などで僕を楽しませてくれる。
 その彼がポリシーとして語ってくれるのが「ミルクにアルコールを垂らすのは邪道だね」というもの。具体的にはこのカルアミルクを指していると思うのだが、彼はそれを軽蔑の眼差しで見ている。
 何がどう邪道なのか、未だに訊いたことがないのだが、確かに僕も初めてこのカルアミルクについて聞いたときは一抹の違和感が胸によぎった。
 変なたとえだが、居酒屋で出て来るお酒は大抵透明である。これにアルコールがくわわる分にはあまり抵抗はない。ところがミルク系のお酒はどうやってもグラスの向こうは透けて見えない。ここらへんが抵抗の要因だろうか(僕の好物のカルピスサワーも透けては見えないが色が薄いので気分的にはOK)。
 そういう訳で僕は友人の力説もあり、カルアミルクを飲んだことがなかったのだが、先日後輩がカルアミルクの大ビンを持って拙宅に来たので、初めてご相伴に預かることになった。
 味をカルア好きの後輩に聞くと、コーヒー牛乳の化け物と云っていた。僕は先輩の職権で後輩につくらせた。彼は僕の下戸ぶりを身をもって知っているので、そこらへんは確かに作ってくれた。
 一口飲む、あまりの甘さに驚いた。
 雪印のパックに入ったコーヒー牛乳か、ジョージアの缶入MAXコーヒーに匹敵する甘さである。口がべとつき、余計に喉が渇く。僕が彼に苦情をいうと「それでもかなり薄めてるんですよ」と来た。試しに濃いのを飲んでみたがこれは酷かった。
 いくら下戸の僕だからって、これはちょっと御免こうむる。
 今まで「アルコール度数が強い」という理由ではねつけた酒盃は数多くあれど、「甘い」という理由で遠慮したのはこれがはじめてである。
 やはりカルアミルクは邪道酒のようだ。

ブランデー
貴公子製造所
 僕の出た高校のパンフレットを見ると「郷土の貴公子、貴公女を育成する」とある。在学中は「僕らは貴公子候補生だったのか」と冷笑的に見ていた。確かに今、野獣のような大学に通っていると規律正しく理知的で礼儀作法や対人関係もうまいエリートに進んだクラスメートは郷土の紳士・貴公子だったのだろうと思う。だが、当時は厳しい校則の言い訳としか解釈していなかった。
 そういう貴公子製造学校であるからして、テーブルマナー講習会というものが金五千円徴収して、地域のグランドホテルを借り切って挙行された。
 詳細は別項で論じるが、この講習会の中で「ワインの飲み方」というものがあった。未成年だからまさかワインを飲ませるわけには行かないので、磨き上げられたワイングラスには白ワインに見立てられたアップルジュースが用意された。
 クラスメートは富裕層の出が殆どなので、最前テーブルマナーなど知り尽くしているが僕はそうは行かない。何の考えもなく、映画で悪役の富豪や貴族がそうするようにグラスの下部を手の平で包んで、転がしてやった。
 と、タキシードの教官役である係員が飛んでくる。
「お客様、それはブランデーの持ち方でございます」
 テーブルの仲間内は一斉に失笑する。いつも馬鹿ばかり云ってる仲間が、妙に遠い存在に感じられた。
 ちなみに今もってブランデーは飲んだことがない。

カミカゼ
マルキストのカミカゼ
 中高と仲良くしていた友人が病的な左翼になってしまった。
 まあ、基本的には他人の政治的姿勢などはどうでもいいのだが、「天皇は帝国主義の象徴だからアジア人民の海に鎮めろ」とか「洋楽は米英帝国主義者の精神的支配の尖兵だ」とか「日の丸は反動分子の拠り所だ、赤地に黄丸に変えよ」などという妄想めいた御託に付き合うほど寛容ではない。
 では彼は末期資本主義的退廃から一線を画して、日夜革命的政治活動に邁進しているかといえばさにあらず。なんとまあ典型的遊び人生活を送っているのだ。そんでもって「山田のような五流大学生にはマルクスの高邁な思想は理解できないなあ」などと階級差別を平然と口にする。とんでもない奴だ。
 そんな彼が同窓会にて(左翼グループは同窓会で必ず「天皇制の正当性批判」について討論している)何を狂ったか、僕に「山田ァカミカゼっていうカクテル知ってるかァ」と来た。
 どうせアジア植民地主義思想の名を冠した反動飲料とか言い出すのかと思っていたが、なんとこれをオーダーした上で、一口飲んでみろという。
 とにもかくにも反動的日本男児である僕、飲んでみました。
 一口で頭がかち割られたかと思った。
 孫悟空の飲んだ超神水とはこういう物かも知れない。ただの一口で目の前に火花が散って、僕はしばし朦朧とした。
 後に聞くとラムとかウオッカとかジンとか何か知らないけどとにかく強い酒を無茶苦茶に混ぜまくったものなんだって。僕は余りの衝撃に味さえ覚えていません。
 とにかく私、頭の中にカミカゼが吹き晒しておりました。
 しっかり二次会のカラオケで吐いたしね。
 あのゲロの量もカミカゼ的であった。

レトランゼ・ビアホール 飲物エッセイ

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