中央広場エッセイ日記更新電信掲示板チャットリンク案内
大山会系佐田組
[後編]

公職選挙法違反
もちろん、政治
 長く現職をつとめた市長が引退し数十年ぶりに市長選が始まった。
 出馬するのは四人いたが、本命は二人。一人は左派系の政党に所属していた元国会議員。もう一人は市議選でトップ当選して、現職の支持をとりつけた地元民だった。
 この選挙、後者の方は実は僕の友人の父親で比較的よく知っていた。選挙の年、もちろん僕は選挙権などなかったが、よく知る人物であり応援していた。同窓である息子は学力も運動力も僕に比べて遥かに良くできており、その人徳というのもちょっと余人には真似の出来ない、誰に聞いても好人物と評される敵のいない男だった。
 これは当然、彼を応援する他ない。
 元とはいえ国会議員に対せば圧倒的に不利だ。しかし彼の地盤は人口が多い割に市政から完全に見放されていた場所にあり、さらには現職の支持と無党派受けする若さと精悍な表情を武器にした。このため新聞が「まったく先の読めない情勢」と評するほどの攻防戦が始まった。
 そんな折り、母が不安げな顔をして友人宅から家に帰ってきた。
 母はパートに忙しいため、選挙事務所には入っていなかったが、勿論市議を応援している。
 その母の友人とは昔から栄えていた市街地に住んでおり、町の名士や金満家が多く住む街なのだが(つまりこの街の住人の支持が大きな鍵なのである)、そこに怪文書がばらまかれているという。
 B5版一枚にびっしりと詰まったワープロ文字に曰く「**(市議の実名)は私の妻に因縁をつけて強姦し、妻は一生子供の産めない体になり一家離散」云々という内容で(詳細は違うかも知れないが要するに妻をヤって、一家離散したということ)「市民のみなさんにお願いします。こんな男を市長にしてはいけません」という文言で締めくくられていた。
 嘘か誠かそれを調べる方法はないし、選挙期間にこういう手紙が出回るだけで目的は十分達せられる。そのせいか否か、彼は惜敗した。そして二度と選挙には出なくなった。この事件はまったく騒がれなかった。当然、誰の仕業かも解っていない。
 だから公職選挙法の欄にこれを描くことは迂闊であり慎まなければならない。
 僕はここに、特定個人の誰も犯人ではないことを明記しておく。

 息子の方、すなわち僕の旧友とは大学入試の前日、気晴らしに本屋に行ったときに偶然あった。僕は偏差値50程度の、彼は70以上の大学の赤本を見ていた。一組三大秀才のあまりにはっきりした末路だった。
 「どこを受けるんだい?」多少の決まり悪さとともに僕は訊いた。彼は「早稲田、慶応、上智、偏差値の高い私大はすべて受けるさ」と嫌味ない口調でさらりといった。
 「何学部だい?」僕の問いに、彼は小首を傾げ、そしてきっぱりと言った。
 「もちろん、政治」 

児童福祉法違反
お嬢様の暇つぶし
 昔、妙な女の子とつきあっていたことがある。
 彼女は名を聞けば3歳のガキでも知っている大企業の重役の娘で、大金持ちだった。そのせいかどうかお金には困ってないのだが、やることなすこと全て人とずれており、悪気はないのだろうが常に他人をあたふたさせていた。
 彼女とは一緒に彼女の仕入れたクスリを飲んでラリったり、弾けもしないくせに買った12万円のバイオリンを出鱈目に弾いたり、その他あまり世間に公言できないようなことを色々していた。これらの金額はすべて彼女払いである。しかも他に僕の自宅からの往復電車賃まで払ってくれた。
 そんな彼女がある日、電話をくれた。云うまでもないが彼女からである。
「あのさー、今日さー、バーでバイト始めたんだよね」
 はあ? と思った。僕らの学校はバイトそのものが禁止だし、大体高校生がそんなところで働いていいはずがない。児童福祉法違反だ。「で、なにしたんだよ?」気が気でないと僕は思う。
「別にい? 変なオヤジの隣でずっと喋ったり一緒にカラオケ歌ったりしただけ。時給三千円だし、チップに万券貰っちゃったあ」
「あ、そう」別に驚きはしなかった。わざとバレるキセルをやって十倍の料金払うような子である。
「で、たのしかった?」
「楽しかったよお。大佐も女の子だったらなあ、一緒に誘うのに」
 僕は呆れて電話を切った。
 彼女は全くお金には不自由していない。やろうと思えば何でも出来る。その彼女が暇を持て余してバーでオヤジの相手をしている。なんかすごい心の闇を感じた。家庭も全くというほどの放任家庭で娘の部屋に僕が上がり込んでも何も云わなかったし、彼女の兄もカノジョを連れていた。
 結局、彼女は数ヶ月後にそのバーをやめた。「何かされたのか?」と訊くと「別にい、飽きちゃったし。お金はあるから」と答えていた。
 その後も彼女と豪遊し、やがて自然消滅の形で別れた。
 彼女にとって僕もバーも暇つぶしだったんだろうけど、別に僕は怒る気も責める気もしない。彼女のお陰で一般人がまず味わえない体験をできたから。それと「ヒモ」ってのも案外悪くないな、とそう思ったりもしている。 

著作権法違反
DOG EAT DOGS
 こういうことを書くのは非常に抵抗があるのだが、まあ過去の話だし、昨年末買ったばかりの我がパソコンにはそのテのソフトは入っていないから、旧悪を暴露してもいいか。
 パソコンユーザーの高校生にとってソフト違法コピーなんて日常茶飯だろう。僕らの時代はそんなにメジャーでもなかったが、CD−Rなんぞが出来てからは実際無法地帯と云ってもよい。当然のことながら進学校というPCユーザーの多い我がクラスもその巣窟であった。
 僕は比較的貧しい出にも関わらず親の先見の明によって、中3の頃からPCを与えられていたから当然その輪の中に入っていた。
 ところがここからが問題である。
 クラスの連中は僕以外は全員当時隆盛を誇っていたNECのPC98であり、僕は富士通のFMデスクパワーを使っていた。とりあえずウインドウズという点では一致していたが、彼らはどういうわけか98専用の代物しか買わないのだ。これに対して僕はウインドウズしか買わない。
 ここまでくればお解りだろう。
 僕は買ったソフト買ったソフトすべてコピーさせられたが(別に強制されたわけではないが)、僕の方は何の利益も享受できなかったのだ。まったく最低である。ゲームがプレイできないのはいいとして、話題についていけないのはつらいものがあった。当時はさほど権力がなかったので尚更だ。
 この風潮は僕らのクラスが受験戦争に従軍するまで続き、98に陰りが見え始めた頃、終わった。
 損益対照表を書くまでもなく、僕が損をしているのは分明だ。「損をしているのはオマエじゃなくてソフトの制作者だろ?」といわれれば返す言葉もないし、実際その通りなのだがこのときの恨みはなかなか忘れ難いものがある。
 力を付けてから一度、こう脅したことがある。
「お前らが流通させてるエロゲー、名前付きで黒板に貼ってやろうか?」
 あの時の恐怖に震えた顔、小気味いいなあ。 

銃刀法違反
エアポート危機一髪
 昔を振り返って「なんであんなに子供っぽいことをしたんだろう」と頭を抱えてしまうこと、実は僕はよくある。これから話す修学旅行での一幕は正しくその代表格だろう。
 高校時代、僕の属していたグループは今の感覚で云えばオタク系だった。別にアニメや同人にはまっていた奴など一人もいないが、ライフスタイルは確実にバンピーとは呼べない代物だったかんね。時々高校生を見たり、大学の連中を見てると歯がみしたくなってくる。
 と、いってもこれが「頭を抱える話」だというわけではない。
 こういう連中が修学旅行にやる違法事項は、夜這いでも飲酒喫煙でも地元狩りでもなく、ひたすらゲームである。それも当時はスーファミ。全くオタクの規範から一歩も出ていない。同窓の級友がビールを飲みながら呆れたような顔をしていたのを思い出す。これではクラスから軽蔑されるのも最もである。
 だがまあ偉そうなことを云ってはいけない。僕自身もガンシューティングの「リーサルエンフォーサーズ」をガンコン(銃の形の専用コントローラー)付きで持ってきたくらいだから。僕はプラスティックの青い銃をバックパックに下げて修学旅行に馳せ参じていたのだ。
 そして修学旅行が国内とはいえ飛行機で往復していたといえば何をかいわんやである。
 X線検査、これを空港の順番待ちを食らうまで全く念頭に入れていなかったのだ。云うまでもなくゲーム類の持ち込みは禁止されている。強制的に列に並ばされて僕は真っ青になった。X線で銃が出てきたら空港職員はビックリするだろう。プラスティックだと解っても、僕は教師に半殺しの目に遭い周囲からは侮蔑と嘲笑の的になるだろう。かと云ってもう逃げることは出来ない。
 絶望の気分で亡者の足取りと共に列を進んだ。
 僕の番、バックパックをコンベアに乗せた。
 そして祈るような気持ちで金属探知器のゲートを荷物と同時に通過した。

 警報が鳴った。

 女性の職員が僕の所へ来ると、映画のようにボディーチェックをした。級友は皆こっちを見ている。ああ、これで終わりだ、と思った。せっかくの旅行、出発の前に、僕の高校生活が終わるとは・・・
 職員は僕のポケットを叩くとこう云った。
 「鍵ですね、失礼しました」
 訳も分からず立ちつくしている僕にバックが押しつけられる。
 「順序よく先に進んで下さい」
 職員に注意を受けた。ゲートの脇にたっていた先生が「*番の待合室に行け」と指示を出した。助かったのだ。まさしく天に叫びたい気分だった。僕は名誉と、高校生たる地位を守った。

 飛行機に乗り、旅先のホテルに着く。既に1週間前に宅配便で発送したボストンバックがそこに届いていた。これは貨物として別便で送られ、また地元に戻すのだ。
 僕はガンコンを丁重にバッグに入れた。 

覚醒剤取締法違反
GET A DRUG
 情けない話だが小学生でさえ捕まる時世だというのに、僕は二十歳を超える今日に至るまで周囲にシャブ中で逮捕された奴というのがいない。いや、名誉なことと云えばそうだが、ネタがないのはつらい。ま、そのうち隣家の暴走族諸君のうちの誰かが捕まるのを祈ろう(酔ってんのか何だかしらんが、一晩中爆笑していたりする。アブネー)。
 さて、では外国人について書こう。
 裁判のコーナーと抵触するかも知れないが、裁判の傍聴に行くと多い事件が道交法違反、すなわち悪質事故と覚醒剤だね。個人的な感覚ではその覚醒剤の半分近くが外国、それも中東の人間の名前である。
 彼らに共通して云えるのは誰も傍聴に来ない、という点である。これは経験則としてまず間違いない。だから僕は見届人としていた方がいいのだろうけど、そんな度胸はない。別に外国人に殺されるとかそういうことにビビっているのではなくて、一際法廷が重くなっている気がするのだ。
 しかしそういうことを踏めてみると、繁華街の駅前に何するともなく立っている中東人(携帯が流行るまでは堂々と「テレカ10枚1000円だよー」と声をかけていたような彼ら)、やっぱ声かけると覚醒剤を売ってくれたりするのだろうか?
 モノの本(「隣のサイコさん」/宝島文庫)によると覚醒剤はヤクザに就職した先輩が高校に売りつけにくるとか、クラブの関係者が売ってくれるとか、飯場にやくざがくるとかいうが、いずれも僕には関係ない。
 まあ、僕は自分の精神力の弱さを熟知しているつもりなので、タバコも薬もやる気はないのだが、現実問題として簡単に手に入れられると思えば、なんとなく楽しい。
 ともかく、僕が解らないのは何故「覚醒」したがるかだ。中毒になれば例外だが、一般に覚醒剤を打つと大変活動的になる。飯場で使われるのはその為である。また活動的になる反面、食欲が落ちるのでダイエッターが求め始める。眠くならないのでアソビ人が欲しがる。
 僕に云わせればクスリをつかってまで働こうとは思わないね。かといって、
ダウナー系のヤクをやろうとは思わない。元々関心なことにはダルだから。え、眠剤? あいにく僕は布団にこもって5分で寝付ける自信があるからその必要もない。 

毒劇物取締法違反
シンナー中毒者のいた街
 毒劇物取締法違反で多いのは、やっぱシンナー中毒だろうねえ。
 麻薬や覚醒剤と異なりシンナーのような一般の用に使うのが不可欠な物は、ただ持っているだけでは罪とはならない。「吸引目的」で持っていたりすると罪になるのだ。
 僕が小学校に入学して一月もたたない暖かい頃、母親が青い顔をして家に帰ってきた。
 ちょうど僕の通学路に当たる市営住宅地域でシンナー中毒を見たというのだ。母が歩いていると、前から青白い顔をした男がビニール袋を口にあてながら、歩いていた。母は「あ、こりゃやばい」と思い目をあわさないようにそのまま通り過ぎた。
 と、突如後ろから大きな叫び声がする。獣の咆哮のような声をあげると、シンナー男は全速力で走り去っていった。母は心臓が止まるほどビックリし、遠ざかる男の背中を見た。と、突然男は振り返り、キョンシーのように手をだらりと前にのばし、ピョンピョン跳躍しながら母の方にやってきたのだ。
 彼女が一目散に逃げたのは云うまでもない。
 小学校に上がったばかりの息子の通学路に何しでかすかわからんシンナー男がいる。母は逆上し、警察へと走っていった。警察はそれに対し、パトロールを強化する、といった。
 僕はその後も普通にその道を歩いて通学し、結局何事もなかった。まあ母のあった事件のように公然とラリっていては捕まるのも時間の問題だろう。その後男がどうなったかは知らない。
 ただ問題はその場所である。
 この市営住宅地域は、差別的言辞を許して貰えれば異常な住民が多かった。朝から晩まで怒鳴っている家、糞尿垂れ流しのまま町中を徘徊している老女、暴力団、刃物で脅してサラ金から五十万円引き下ろさせて捕まったチンピラ。小二にしてクラスメートの前でディープキスをやらかすキス魔。
 みんなこの数戸の住宅から出た。
 付近の壁には猥画が書かれ、いつも誰かが喚いている街。僕はすっかりこの道は歩かなくなったが、今でも行けばとても我が家の近隣とは思えない猥雑な風景が僕を歓迎してくれるだろう。 

軽犯罪法違反
小話を一席
 今回は趣向を変えて小話の連続にしたい。六法をお持ちの方はどうか軽犯罪法のページを開きながら読んでいただきたい。さもなけば何の話をしているか解らないだろう。ちなみに数字は第一条の何項の話かというのを表している。

01.昔、家の近所に誰も住んでいない貸家があって、よくそこで秘密基地ごっこで遊んだものだ。入口の門は閉まっていても台所脇の勝手口は空いていたのだ。
02.ナイフを持ち歩くときは鉛筆を一本持ち歩くといい。これで正当な理由になるはずだ。ならなかったら製図やはどうやって生活すればいいのだ。
08.そんじゃキ印が刃物を振り回しているときに警察官が「体張って止めろ!」と叫んだらどうする? 僕は拘留でも科料でも受けて立ちますよ。
10.火薬をもてあそぶ! そういえば最近あのかんしゃく玉を見ないなあ。小袋に6つ入っていて、1袋30円。あの危険そうな毒毒しい色!
14.隣に住んでる自閉気味のガキ、何とかしてくれ。
15.「大佐」ってのは現在、日本には存在しない階級ですよ。だから罪にはならないんですね、「山田一等陸佐」とかいうとまずいけどね。
20.もも、しりを出して嫌悪の情! まあ時々「お前はやめとけ」って突っ込みたくなるカンチさんがいるけどね。思想の自由ってもんがあるからいたずらに差別しちゃマズいでしょう。また夏が来るなあ。
22.ノーコメント
23.風呂やトイレ(後者の趣味はないが)を覗いて科料なら一万円未満か。拘留は嫌だが、下手するとストリップより安いぜ(だから何だという事もないが)。
34.高校の頃、文化祭で「今世紀最後の文豪、山田大佐の最高傑作小説」等と称して文芸誌を売っ払ったが、これってやっぱ抵触するんだろうな。 

淫行勧誘罪
愚問愚答−読者よゴメン
 淫行勧誘とは刑法182条にある規定で「営利の目的を持って淫行の常習のない女子を勧誘して淫行させること」とある。とすると繁華街でスカウトに精を出しているあの特徴的な服を着た人たちは何だろう? 具体的にはキャバクラ、風俗、AVのスカウトマンのことを指しているんですが。
 何、そんな人が跳梁跋扈している所など見たことがないと?
 そういうカントリーな人は一度、大都市の音に聞こえた繁華街に繰り出してみることだね。特に土曜の昼下がりとかさ、夜だとちょっとホストクラブや別個の勧誘が出て来ちゃうんだけど、昼間交差点で信号待ちの彼女らをしきりに口説いてるのはまずそれ系だね。
 驚いたことに交番の目の前でやっているところを見ると、ひっかからないんだろうね。
 この罪の要綱を三等分すると「営利の目的」「淫行の常習のない女子」「淫行させる」とある。ここで問題になるのは第二条件だろうな。第一は物の見事に当てはまるし、第三は教科書によると強姦等とは異なり最後まで行く必要はないから当てはまる。
 うーん、「淫行の常習のない」ねえ。
 と、ここまで考えてはっと思い立った。
 この罪、未遂は罰せられないんだ。と、いうことはスカウトするだけなら合法だから(ついていっても店との面接で蹴るかも知れない)、ああそうかそうか。
 読者よ、愚問愚答につきあってくれてごめん。
 では、ちょっと補足するか。
 田舎物だった僕が今更都会人気取りをしようとは思わないが、繁華街の駅前でぽけーっと待ち合わせなどしているときにあたりの人を見ていると、これが確実に田舎物だと解る。これ、都会生活長い人は十分でも駅前に立ってればわかります。
 素人が解るもんだから、玄人に分からぬ訳はなく、その子が並より上の素材ならば、ダークスーツのおにーさんが必ず寄ってきます。
 まあ、そんな話にうかうかついていく奴がどーなろうと知ったことではないですが、昨今もてはやされている「プチ家出」今日も某新聞が好意的な見方で報じていましたが(この左翼紙が)そんな理想的な物とも思えませんがね。
 ハハハ 

未成年者略取罪
暑い夏の恐怖体験
 未成年者略取というのは単に未成年者を連れ去ること。刑法としては未成年者略取及び誘拐、とあるがどう違うのかは手元の解説書にも書いていない。
 さて、もし僕の出た小学校の1992年9月版の学校の記録を読んでいただければ「小六の生徒が車の中に連れられそうになりました」云々の記事を読むことが出来ると思う。僕のことだ。
 小六の夏、生意気にも塾の夏期講習なんぞに通っていた僕はせっかくの休日も遊ばず塾と家とを往復していた。このときの勉強がその後中学高校そして大学の学習を支えたくらいだから、最近の小学教育は馬鹿に出来ない。
 ともあれその日も僕はその頃出た(と記憶している)アクエリアスのサマー缶を飲みながら、国道沿いの細い道を歩いていた。こういう暗い道は本当は歩きたくないのだが、激烈な日光の下では日陰が沢山ある方が嬉しかった。そういう道で事件は起きたのである。
 「おい、少年」
 どこからか声がした。人間一人で延々と歩いていると空想モードに突入する物だ。特にただまっすぐ進めばいい障害物も何もない道、僕は呼ばれてあたりを見回した。
 よく見ると隣に車が止まっていて、助手席の男が呼んでいた。
「おい、隣に乗れよ。一緒に遊ぼうぜ」
 誘拐だ、子供の頃から耳タコなまでにきかされたお馴染みのフレーズじゃないか。車に乗っているのは三人、みなみなゲーセンで見るような悪そうな人達だった。
 僕は走って逃げた。子供の足なので彼らにすれば捕まえられただろうが、別にそんなこともなかった。僕はそのまま家まで走り、担任の家に電話を入れた。警察には母親の強い命令でかけられなかった。
 しかし今になると彼らの目的は何だろう、と思う。
 このときの第一印象のせいで永らく「誘拐」だと思っていたのだが、なんかそうも思えない気がする。僕の服装は母お仕着せの悪趣味な服で、当時の写真はあまりのダサさに自己嫌悪を受けるほどである。卒業アルバムはそういう理由で封印している。そんな貧乏そうな子供をさらうかね?
 さらに恐喝にしたって確かに簡単に金を差し出すだろうが小学生をわざわざ車の中に連れ込んで出させるほどの物とも思えない。通行人だっていない道、降りて脅せばそれですむ。
 レイプ目的だとしても幼児ホモが三人乗りあわせるというのも妙だ。
 とにかく暑い夏、あの道を通ると、「ひょっとして彼らは本当に一緒に遊びたかったんじゃないか」と馬鹿な考えを思いつき、一人苦笑している。 

名誉毀損罪
実話
 名誉毀損の構成要件は「公然と事実を摘示して、人の名誉を傷つける」ことである。
 もっとも「事実」とあるが、それが実際にあったことであるかどうかは問わない。例えば「**はレイプされた」と公に云えば、その正否を問わず罰せられる。また「公然」とは不特定または多数人が認識できる状態である。
 つまり、僕が文芸部末期に被害を受けた「精神異常者貼紙事件」はまさしく名誉毀損に当たる。
 高校も3年になり、部室からも足が遠のいた頃、ふとしたことで早朝の部室に入る用があった。発行されたと聞いた文芸誌を回収するためだ。と、久方の部室に貼紙が貼ってある。おや、何だろうと思って手に取ってみる。
 読み進めるに従い、手は震え鳥肌が立ってきたね。
 貼紙はFAXで送信されたものをコピーしたらしく、宛先と受信者番号が書かれている。発信元は文芸部の僕の同期部員で、僕と部長職を競った奴だ。宛先は当時の後輩の編集長。内容はといえばこれが驚天動地の出来事だった。簡単にいえば「山田はもはや被害妄想の激しい精神病患者であり、病院に入院するのも遠くない。彼の書く文章を掲載するのは文芸部のためにならず、以下、書き記す箇所をカットして製本して欲しい」というもの。
 まさか彼がそんなことを書くとはつゆ知らず、偽書かと思ったが末尾署名を見て確信した。書道の時間、彼が作った認印を押してあったのだ。こんなもんを本人以外が作れるはずはない。
 怒りは、あまりなかった。それが出てきたのはもっと後のことだ。あるのは失望と悲しみだ。その証拠に彼は一度も殴っていない。何故、彼がそんなことを云いだしたかも解らない。後に尋問すると「山田を守るため」とかくるしい言い訳をしていたが、いったい何から守るのか、とかどうして異常者呼ばわりが守ることになるのかは話してくれたことがない。
 後輩にも聞くと、彼は時々気に入らない人間を「被害妄想」呼ばわりをする癖があったらしい。どこから被害妄想なる発想が出てくるのか、解りそうな話である。
 ペンネーム、藤谷賢和。もう二度と使われない名前。僕を精神病呼ばわりし、多大な苦痛を与えた男。許されると思っているようだが、かつてこれ程の屈辱を受けたことはない。多分生涯恨みを持ち続けるだろう。
 先日、文化祭に母校を来訪した折り、未知の後輩が云った。
「先輩って被害妄想なんですかあ?」
 悪意のない冗談のように彼は言った。
「そうさ、いつCIAが襲ってくるか怖くて仕方がないんだ」
 そういって、僕らは大声で笑った。 

激発物破裂罪
斜陽の学生運動に対し、親方日の丸は
 学生運動華やかな我が大学。
 とはいっても今は21世紀初頭。いくら学生運動の激しさで知られるとはいえヘルメット集団が我が物顔でキャンパスを歩いているわけではなく、普段は全く目につかない。そんな彼らの一年に一度の活躍の場が学園祭である。
 我が大学は学園祭のない大学としてW大やM大と並んで知られているが(え、知らない? 学園祭業界じゃ有名だぜ)実際はあるにはあって全く宣伝しないだけである。学園祭をやっておきながら受験生用の広報パンフに乗せないのは我が大だけで、そんなことをすれば第一志望の学生も来なくなるからだ。
 大学一年のとき友人と来たが、夏休みよりも人のいないキャンパスや本来かきいれどきのはずの学食の閉鎖に驚き、やることもなく開始三十分で帰ってしまった。キャンパスにあるのは「帝国主義撃滅」「天皇制打倒」「革マル、狭間私兵グループ根絶」「反戦講演会・朝鮮反革命集団を撃滅せよ」(どこが反戦じゃい)などなどなど。
 さて時間を戻して学祭四ヶ月前の七月某日、そんな学生運動に占拠されても一応自治会なるものがあり、生意気にも決起集会などをしている。メンバーは運動家を除くと実行委員という表皮に騙された政治問題に暗いパープー学生や学生運動からの要請により、強制的に動員をかけられた各サークルからの人身御供である。もちろん殆どノンポリであるが、これを「学校当局の横暴に決起した千名の学友たち」と書くあたり、傲慢なんだか馬鹿なんだか。
 その日、僕らのパーティーは六人くらいで集団下校していた。みんな土曜はその必修科目だけで帰りたいのだ。
 と、普段は校門前にいるはずの警備員が全員警官に変わっている。そうして彼らは僕ら学生を昼なのに赤い誘導灯でもっていつもとは違う道に誘導する。あたりにはパトカーが何台も止まり、呆れたことに機動隊のバスまで止まっている。
 僕らは大いに呆れたが、やがてとんでもないものを発見した。
 車体全体が銀色に光った不格好なトラックで、荷台は大きな球場の球が1つだけ。そこには黒字で「爆発物処理車」とあった。そして車の脇にはパイプの椅子が置いてあり、着ぐるみみたいな防護服を着込んだ機動隊員がこの暑い中真っ赤な顔をして待機していた。脇には警官が一人、手持ちぶさたに立ちつくしていた。

 これは完全な事実である。証人はいくらでもいる。
 はじめ、みんな「不発弾だろ?」と言い合っていた。ところが後に調べると不発弾は自衛隊の管轄なのだそうだ。確かに群衆の整理に機動隊は必要だったろうが、あんなにたくさんの機動隊が必要とも思えない。
 しかし学生運動だって警察があそこまで本気になって大学前をうろうろする程の出来事とは思えない。集まった学生は殆ど「土曜にこんなだせえ集会なんてかったりい、さっさと帰りてえよお」と思っているに違いないのだ。「街へデモをかけよう」なんて云おうものなら運動家が殺されてしまうだろう。
 付近に昔から住んでいる友人に聞いたが、この騒動は新聞には載らなかったそうである。また不発弾騒ぎも起きていないという。
 未だに解らない。 

戸籍法違反
名前の〆切は14日まで!
 このコーナーでは「犯罪エッセイ」と称して様々な刑法犯や特別法犯に関連したエッセイを書いている。と、すれば今回の話は「法律違反」ではあるけど「犯罪」ではない。違反すると3万円の「過料」に処せられ、罰金同様強制的に持っていかれるのではあるがこれは刑法の規定する刑事罰ではないからだ。
 まあ、といってもこれは法律講義の時間ではないし、とにかく法律違反には違いないからまとめて論じることにしよう。
 さて子供が産まれると名前をつけなくっちゃいけない。これは出生届に書く必要があり、その出生届のリミットは出生より14日間である。これを過ぎると子供の人権は認められず学校にも通えなくなる、というのは嘘で両親が3万円の過料に処せられるのである。
 名付けることは出来なくても生まれる前に考えることは出来るから、妊娠を知ったときから数ヶ月、夫婦ともども名前を考えることになるのだが、人一人の運命を変えかねない話なのでそう易々と決まるものではないだろう。親戚等の思惑やマジナイなどの信用度も関係し、大変な騒ぎだろう。
 子供がいざ産まれても、決まらなかった場合は悲惨である。なにせ「暫定的にこの名前にする」という訳にはいかないのだ。改名という七面倒くさい手続をふまないかぎりその名前が通用してしまうのである。
 もし3万円払うのが嫌さに出生年月日を動かして書いたらどうなるか?
(病院で生まれた場合などは不可能だろうけど)刑法の公正証書原本不実記載罪となり、五年以下の懲役か50万円以下の罰金となる。ちなみにこっちの方は立派な犯罪です。
 備えあれば憂いなし。余計なお金を使わないためにも、ちゃんと夫婦で話し合って名前を考えておくべきだろうね。
 僕の本名はちゃんと由来がわかっているし、それなりに誇りを持っています。勿論出生届も間に合っています。祖母は「ノリオ」がいいと後に云ったらしいけど、「ヤマダノリオ」ではあんまりなので今の名前で満足しています。 

大山会系佐田組 犯罪エッセイ

中央広場エッセイ日記更新電信掲示板チャットリンク案内