米国の規制改革及び競争政策に関する日本国政府の要望事項

はじめに

2001年6月30日の日米首脳会談において小泉総理とブッシュ大統領により設立された「成長のための日米経済パートナーシップ」(「パートナーシップ」)の下での「規制改革及び競争政策イニシアティブ」(「規制改革イニシアティブ」)の一年目から四年目までの対話は、日米両国の規制・制度面での問題を明らかにし、不要な規制の減少、競争の強化、及び市場アクセスの改善を図る上で成果をあげてきた。

しかしながら、米国の規制・制度の中には、依然として、(1)自由貿易の理念に反するもの、(2)公正な競争を阻害するもの、(3)米国特有であり国際基準に調和していないもの、が見られる。特に、WTO紛争解決手続においてWTO協定に整合的でないことが確定したにもかかわらず、米国がその是正のための措置を完了していない法律や決定は、多角的自由貿易体制の維持のために、米国が主体的に改善すべきものである。また、米国の投資関連措置の中には、米国で事業活動を行う又は行おうとする日本企業に不合理な負担を課すものとして、無視できない懸念材料となっているものも含まれている。

さらに、日本国政府は、領事、流通、輸出管理などの分野における米国政府による一連の政策変更・規制強化が、日米両国間の活発かつ円滑な通商関係や人の交流を阻害しかねないとの危惧を持っている。日本国政府は、米国政府がテロとの闘いを遂行していく中で国土の安全を確保する必要性が高まっているためにこれらの措置を採ってきたものであることを理解しているが、同時に、米国政府は、日米両国間の経済関係に否定的な影響を与えることがないようにすべきである。

このような現状認識及びこれまでの四年間の対話の成果を踏まえ、日本国政府は、規制改革イニシアティブの下での五年目の対話を開始するにあたり、米国政府に対し、規制改革及び競争政策に関する要望書を提出する。日本国政府としては、本要望書を十分反映させる形で、米国政府の政策の改善や更なる規制改革及び競争政策の推進を求めていく方針である。

日本国政府として、この規制改革イニシアティブの下での米国政府との率直かつ建設的な対話が、日米経済関係の更なる強化及び深化に大きく資することを強く望む。日米両国は、経済成長の推進、経済調和の促進、及び開かれた多国間貿易システムの強化のための指導的な役割を担っていることを十分に認識し、グローバル化時代における対話と協力のモデルを自ら示していかねばならない。日本国政府は、米国政府が、双方向の対話の原則に基づき、本要望書に掲げられた各要望事項につき真剣に検討し、具体的な成果を上げるべく積極的に行動することを期待する。

米国の規制改革及び競争政策に関する日本国政府の要望事項

目次
T.貿易及び投資関連措置
U.領事事項
V.流通
W.制裁法
X.競争政策
Y.法律サービス及びその他の法律関連事項
Z.電気通信
[.情報技術
\.医療機器・医薬品
].金融サービス

T.貿易及び投資関連措置

米国の貿易及び投資関連措置の中には、自由貿易の理念に反するものや、公正な競争を阻害するものがある。特に、WTO 紛争解決手続においてWTO 協定に整合的でないことが確定したにものについては、速やかに是正措置がとられるべきである。また、米国の規制や制度には、米国特有であり、国際基準に調和していないものや、州毎に基準・規制が異なるものがあり、日本企業に不合理な負担を課している。これらの措置については、繰り返し是正を求めているにもかかわらず、十分な対応を得られていないものも少なくなく、引き続き米国側の対応を強く求める。

個別の要望は以下のとおりである。

1.ダンピング防止措置及びセーフガード措置

ダンピング防止(AD)措置は、WTO協定に整合的な運用がなされている限りは貿易救済措置として正当であると考えられているが、一たびダンピング認定等に恣意的な判断がなされた場合、貿易や競争を不当に制限する可能性がある。さらにAD調査の開始そのものが企業の輸出意欲を阻害するおそれがある。

米国は世界有数のAD措置使用国である。米国のAD措置の中にはダンピング認定等に恣意的な判断が見られるなど、現在、日本を含む多くの国からWTO協定との非整合性が指摘されているものがある。実際に日本製熱延鋼板へのAD措置など、WTO紛争解決機関においてWTO協定違反であると認定された例も存在する。

こうした観点から、日本国政府は、米国政府がAD制度を保護主義的な目的で濫用することなく、WTO協定に整合した形で慎重に運用することを求める。

(1)バード修正条項

徴収したAD税及び相殺関税によって得た収入をAD措置及び相殺関税の提訴者である国内生産者等に配分するバード修正条項については、WTO紛争解決機関(DSB)によってWTO協定違反が認定されただけでなく、2004年8月31日、日本を含む8か国に対抗措置の権利を認める仲裁決定が発出された。この決定及びWTOの紛争解決手続に従って、2005年5月1日、EU及びカナダが対抗措置を発動し、2005年8月18日にメキシコが、また、2005年9月1日に日本が、対抗措置を発動した。

日本国政府は米国政府に対し、DSBによる違反認定並びに仲裁決定と、関係国が対抗措置を発動するに至った経緯を真摯に受け止め、同修正条項を速やかに廃止するよう強く求める。

(2)ゼロイング

米国は、AD 手続において、国内販売価格を上回る価格で輸出したモデルまたは個別取引ごとの価格差を「ゼロ」とみなし、もって産品全体のダンピング・マージンを人為的に高く算出する方法(いわゆるゼロイング)を適用し、AD 税率を不当に引き上げている。

初回調査におけるゼロイングは、インド産のベッドリネンに対するEC のAD 措置及びカナダ産軟材に対する米国のAD 措置に係るDSB 判断によりWTO 協定違反が既に認められている。日本国政府は、あらゆるAD 手続におけるゼロイングがWTO 協定と非整合的であると考えており、米国政府に対しあらゆるAD 手続においてゼロイングの手法を適用しないことを求める。

(3)日本製熱延鋼板に対するAD措置(DS184)

日本製熱延鋼板に対するAD措置については、2001年8月に米国のWTO協定違反が確定したものの、米国内法の改正を必要とする以下の点において、DSB勧告の未履行状態が続いている。勧告の実施が迅速に行われるよう米国政府の対応を強く求める。

米国1930年関税法は、「その他の企業」に係るダンピング・マージンを算定するに当たり、「知りえた事実」を部分的に用いて算定したサンプル対象企業に係るダンピング・マージンを「その他の企業」のダンピング・マージン算出の際の基礎として除外しない旨の規定となっている。日本国政府は、米国政府に対し、速やかに当該規定を修正するよう求める。

(4)AD措置のサンセット・レビュー

米国のサンセット・レビュー手続の実態は、その関連法令、施行規則、内規及び運用方法において、AD措置を「原則継続・例外撤廃」するというものであり、日本国政府としては、この米国のサンセット・レビュー手続はWTO協定と非整合的であると考えている。実際に、米国のAD措置の中には、5年を過ぎても失効せず、長期間継続されている措置が多くある。また、措置継続を求める提訴者(国内産業)側よりも、被提訴者(輸出者)側に重い挙証責任と負担が課せられ、継続を推進するような運用がなされている。

日本国政府は、米国政府に対し、WTOドーハ開発アジェンダ(DDA)交渉の下のAD交渉において、サンセットに関する規制強化がなされる前においても、米国政府がAD措置を原則5年で廃止することを明確化し、また、挙証責任は措置継続を求める側に置くように法改正すること等を求めるとともに、米国政府がAD税賦課継続の必要性について厳密に審査し、WTOルールに従った適切なサンセット・レビューを行うよう求める。

(5)モデルマッチング

ダンピング・マージン算定の際には、調査対象の輸出品及び輸出国における国内の同種の産品について、まず各モデルを分類し、次に輸出モデルと「同一」又は「最も類似している」国内モデルを特定すること(いわゆるモデルマッチング)になるが、これに関し、米国商務省は、ボールベアリングに関するAD措置のための2003/04年度の年次行政見直し調査において、過去14回の全ての調査において使用し特段問題の見られなかったモデルマッチング方法を、説得力のある理由もなく変更するとの通知を行った。

商務省が提案した新たなモデルマッチング方法は、類似性のない製品同士の価格比較が行われ得るため、調査結果の予見可能性を損なう上、日本の事業者に対して国内販売及び価格に関する膨大な量のデータ提出を新たに要求し、過大な負担を与えるものである。日本の事業者から、累次に渡りその点を指摘してきたにも関わらず、商務省は、新たなモデルマッチング方式を用い、最終決定を行った。加えて、新たなモデルマッチング方法により行われるレビューは、新制度の適用以前の輸入取引にも適用されるため、実質的に新制度が遡及適用されていることについて、日本国政府は懸念を有する。

日本国政府は、米国政府に対し、新しい手法がこのような問題を抱える不公正なものであることを十分認識し、手法の変更を撤回するよう求める。

(6)「関連者」及び「通常の取引」の定義

AD調査において、国内価格や構成輸出価格の計算の際に、輸出者の「関連者」についての取扱が問題となる。米国のAD調査においては、輸出者が「関連者」を「支配」しているか否かに関係なく、単に輸出者が5%以上の株式を所有していたり家族関係にあったりすることのみをもって「関連者」とみなし、原則として当該「関連者」全てに関するコスト等のデータ提出を要求している。

また、「関連者」向け販売が「通常の商取引(AD協定第2条の1)」とみなされる基準として、「独立性テスト(アームス・レングス・テスト:ALT)」が行われているが、その基準は極めて範囲の狭いものとなっている。現行ルールは、2001年7月のDSBの決定を受けて、2002年11月に、それ以前の「99.5%以上」から「98%以上102%以下」に改められているが、依然として限定的に過ぎる。また、その関係会社が非関係会社に販売する「川下販売」について報告することを義務付けられる。

特に、この場合の「関連者」が中小企業であり、電子情報管理が十分でない場合には、このような調査要求への対応には大きな負担が伴う。1件の調査あたり余分に発生する労務費コストは2,000万円から5,000万円にも達すると推計されている。逆に、調査対象企業の側が5%程度の株式を所有されている会社に対して、コスト等のデータ提出を要求することも困難である。

日本国政府は、米国政府に対し、ある者が「関連者」であるかどうかを決定する際に、より実質的判断を行うこと、及び、ALTの範囲を拡大し、調査対象企業に過度の負担がかかる調査を見直すことを求める。

(7) 鉄鋼輸入に関する諸制度

日本国政府は、2003年12月4日の大統領決定により鉄鋼輸入セーフガードが撤廃されたことを歓迎する。しかしながら、セーフガード措置の撤廃後も実施されてきた輸入ライセンス制度及び輸入モニタリング制度は、当初予定である2005年3月21日又は米国商務省がこれに代替する制度を策定するまでの間継続されることが決定された。昨年6月25日に米国議会下院に、7月22日に上院にそれぞれ提出された「鉄鋼輸入ライセンス及びモニタリング制度維持拡大法案(下院案:H.R.4730、上院案:S.2722)」は、現行のモニタリング制度の対象品種(全15品種)をすべての鉄鋼関連製品に拡大するとともに、2005年3月に廃止することが予定されていた本制度を、恒久的なものとするよう求めるものとなっている。

日本国政府は、米国政府に対し、導入される鉄鋼輸入ライセンス制度及び輸入モニタリング制度とWTOルールとの整合性を確保するとともに、同制度の導入が新たな貿易制限的な措置に繋がることがないよう求める。また、対象品種の全鉄鋼関連製品への拡大は輸出者の追加的負担になりかねないため、拡大を行わないよう求める。

(8)1916年AD法関連訴訟

米国1916年AD法は、2004年12月3日に廃止されたが、いまだ係属中の訴訟があり、かかる動きに憂慮している。

日本国政府は、米国政府に対し、WTO協定違反が確定し、米国において既に廃止された国内法に基づき司法判断が下され、企業が不利益を被ることのないよう、意見書の提出等を通じた司法機関への働きかけを行うよう求める。

2.再輸出規制

米国の再輸出規制は、一般国際法上許容されない国内法の域外適用のおそれがあり、また、日本は全ての国際輸出管理レジームに参加するとともに、大量破壊兵器に係るキャッチ・オール制度も導入し、実効的な輸出管理を行っていることから、米国が日本からの再輸出について再輸出規制を行わなければならない根拠は乏しいと考えられる。日本国政府は、米国政府に対し、同規制の適用から日本の輸入者(再輸出者)を除外することを求める。

上記の措置を早急に採ることが困難な場合の当面の措置として、日本国政府は、米国政府に対し、再輸出規制に関する米国企業の対応の改善を要望してきており、米国政府による今後の対応に関心を有している。米国産品の再輸出にあたって当該品目に関する十分な情報を米国の輸出者から得られないことにより、日本の輸入者(再輸出者)による品目の特定や規制の該非判定に困難が生じ、適切な輸出管理が阻害されていることは依然として重大な問題であり、日本の輸入者(再輸出者)に輸出管理品目番号(ECCN)を含む品目情報の十分な提供を行うよう米国の輸出者に義務付けることを改めて強く求める。また、米国輸出管理当局が許可(ライセンス)を付与する案件については、前述の情報提供を再輸出者に行うことを許可の要件にするよう求める。加えて、その情報提供がなされない場合においては、日本の再輸出者は米国再輸出規制の適用から除外されるよう求める。

3.連邦バイ・アメリカン法及びその他の同趣旨のルール

連邦バイ・アメリカン法及び同趣旨のルールについては、日本国政府は、日米規制緩和対話の一年目から三年目にかけて米国政府に対して要望を行った。しかしながら、米国政府による改善策が採られていないことから、改めて以下の事項について改善を求める。

日本国政府は、政府調達における内外無差別の原則を徹底するとの観点から、米国政府に対して、米国企業と外国企業に平等な事業機会を確保することを求める。特に、以下の法規制について改善を求める。

(1) 防衛授権法案

米国国防省の調達につき、外国製品の購入を制限する条項が、2006年防衛授権法案(H.R.1815)に挿入され、米国議会で審議されている。国防省の調達において安全保障上の配慮が必要なことは認識するが、仮に本法案が成立した場合には、外国企業の事業機会が不当に制約されるばかりか、米国においても良質・廉価な製品の調達が妨げられることから、本法案における外国製品の購入を制限する条項の削除を求める。

(2) 陸上運輸効率法

1991年複合陸上運輸効率法についても、二種類のバイ・アメリカンの規律が規定されている。

一つには、連邦輸送局が大量輸送機器を購入するための連邦資金受領条件として、米国製の鉄鋼などを対象に定めており、加えて、米国産鉄道車両となるための条件として全部品コスト中60%以上が米国製部品でなくてはならないとの要件等を付している。

二つ目に、連邦高速道路局が高速道路計画のための連邦資金受領条件として、その調達対象を米国産鉄鋼に限定する旨規定している。

これらの要件は自由貿易を阻害し、米国企業の効率的で最適な部品調達行動を阻害し、また、米国政府の調達コストの増大にもつながる。このため、米国製品部品比率や調達対象の限定などバイ・アメリカンの規定撤廃を求める。

4.エクソン・フロリオ条項

エクソン・フロリオ条項(1950年国防生産法第721条)は、国家安全保障を損なうおそれのある直接投資について審査し、大統領が必要と認める場合はそのような投資を制限するメカニズムである。日本国政府は、一般に、安全保障上の理由による規制の重要性については十分理解しているが、同条項については、(1)「国家安全保障」の概念の不明確性などによる投資家の予見可能性の欠如、(2)既に完了した投資についても調査対象となりうることによる法的安定性の欠如、(3)調査開始や大統領決定の理由が当事者にすら開示されないデュープロセスの欠如、などの点で懸念を有しており、本来の目的の程度を越えて、日本企業の投資活動を阻害するおそれがあることを憂慮している。政府による規制の透明性と予見可能性は、企業が投資を決定する際の大きな要素であると同時に、競争的な企業が公正な環境で活動を行うための条件である。

日本国政府は、米国政府に対し、今後の同条項の運用に当たっては、WTOルールとの整合性を確保することはもとより、対米外国投資委員会(CFIUS)への通知から大統領の決定に至るまでの過程における透明性及び公平性を最大限確保するための措置を講ずるよう求める。

5.メートル法の推進

メートル法は、国際標準化機構(ISO)等国際標準化機関における国際規格・基準の策定に当たっての基準単位として採用されている。世界各国が国際単位であるメートル法の採用を進めている中、米国は、メートル条約の締結国であるにもかかわらず、いまだにヤード・ポンド法の単位を使用し続けており、これが、日常生活の不便のみならず、国際貿易上の障害となっている。

貿易の技術的障害に関する協定(TBT 協定)においても国際標準の採用による国際貿易の技術的障害の低減を推奨しており、米国がこれに向けて必要な行動を取っていないことは、TBT協定を含むWTO 協定の精神を遵守していないものと言える。

日本国政府は、米国政府に対し、米国における公共部門及び民間部門において、メートル法の採用を徹底させることを求める。また、メートル法の普及のために米国政府が採っている実効的な政策を提示するよう求める。

6.特許制度

(1)先発明主義、インターフェアレンス(抵触審査)

米国は、特許制度において、世界で唯一「先発明主義」を採用している。先発明主義の下では、二者以上の者が別々に発明を行って各々出願した場合、誰が最先の発明者であるかを決定するインターフェアレンスの手続が行われる。

特許出願人の立場からすると、(a)先発明者の出現で事後的に特許権者の地位が覆されることがあり得る点で確実性、予見性がないこと、(b)インターフェアレンス手続に長期間を要するとともに多大の費用がかかること、(c)インターフェアレンスの過程で出願した発明又は特許に含まれた技術情報が漏洩する危険性等の問題がある。

また、複数の発明者が独立に同一の発明を行い、かつ、前記発明者のうちの複数に特許が与えられた場合(ダブル・パテント)には、第三者はダブル・パテントを自ら解消する手段を持たないため、各権利者へ重複して特許権使用料を支払い続ける必要が生じるという意味で、不当な不利益を被る可能性がある。

日本国政府は、米国政府に対し、国際的に事実上の標準となっている「先願主義」へ移行するよう求める。また、移行までの暫定的措置として、インターフェアレンスの手続の簡素化を求める。

(2)例外を設けた早期公開制度

1999年11月に成立した米国の改正特許法によって導入された早期公開制度は、外国に出願されていない米国出願、及び対応外国出願に含まれていない米国出願の内容について、出願人の申請により非公開にできるという例外を設けている。

申請により非公開にされた出願内容は、権利付与後に特許公報が発行されるまで他者に公開されないため、出願明細書に記載された発明と同一の内容について善意の第三者が重複して研究開発投資や事業化投資を行う可能性があり、事業損益の予見可能性の観点から問題が大きい。

また、特許審査が長期化した場合には、その間に開発技術を独自に実用化した第三者が、特許申請中の発明に抵触する商品の市場規模を十分に拡大させた後に特許が成立する可能性があり、莫大なライセンス料を請求されるといういわゆる「サブマリン特許」の問題が生じ得る。

日本国政府は、米国政府に対し、早期公開制度に設けられている例外規定を廃止し、係属していない出願、秘密指令下にある出願を除くすべての出願について、最先の出願日から18か月経過後に公開するという、日米包括経済協議の下で1994年に両国間で合意された内容の履行を強く求める。

(3)再審査制度

米国は、特許権成立後に権利の有効性を再検討する制度として再審査制度を設けており、1999年11月に成立した特許法の改正により、従来の査定系再審査の選択肢として当事者系再審査の制度を導入した。また、2002年11月に成立した特許法の改正により、再審査制度がさらに改善された。

しかしながら、米国の再審査制度は、再審査請求の理由が先行技術文献の存在を理由とするものに限られ、明細書の実施可能要件不備、明記要件不備を理由とする再審査請求が認められていない。

日本国政府は、米国政府に対し、再審査制度において、外国人にとって不利であるベストモード要件を除く米国特許法112条のすべての要件不備を再審査請求の理由として認めることを強く求める。

(4)単一性を満たさないことによる分割要求

一つの出願に二以上の別の発明が含まれている場合、審査官は発明の単一性(一つの出願には独立した発明が一つだけ含まれる)を維持するために、特許請求の範囲の記載内容を部分的に選択して出願を分割するよう要求を出す。

米国の単一性の判断基準は特許協力条約(PCT)の規定よりも厳しく、PCT経由の米国出願では単一性要件を満たすと認められるものであっても、工業所有権の保護に関するパリ条約に基づく優先権を主張して出願すると単一性違反と判断される場合がある。

複数国へ出願する出願人が、単一性要件について米国特有の基準に合わせた出願準備(特許請求の範囲の検討)を行うことは、実務的に困難である。

分割要求を受けて選択クレームを決定すると、選択されなかったクレームは審査の対象から外されるので、非選択クレームを維持したい場合には、原出願の特許発行前に分割出願する必要がある。分割出願を行うことは出願人に再度の手間と出費を強いることとなり、大きな負担増加である。

また、他国において単一性を認められる発明が、米国内において複数の出願として存在することは、出願を管理する出願人あるいは特許を維持する特許権者にとって、また特許権への抵触を回避するために特許を監視する第三者にとっても負担となる。

日本国政府は、米国政府に対し、単一性の要件を緩和することを求める。

(5)後願排除効力に関する判例法理「ヒルマー・ドクトリン」及び言語差別規定

米国特許法では、第119条の規定により、パリ条約第4条の優先権制度を導入している。すなわち、外国における最先の出願日から12か月以内になされた米国出願は、前記最先の外国出願日にされた米国出願と同一の効力を有するとされる。

しかしながら、米国の判例・実務においては、判例により確立された法理「ヒルマー・ドクトリン」に基づき、前記効力のうち、明細書記載事項が先行技術として第三者による後願を排除できる効力の発生日は、最先の第一国出願日までは遡及せず米国出願日までしか遡及しないとされている。

また、米国特許法第102条(e)には、国際出願が米国を指定し、かつ、英語により国際公開された場合には、当該国際出願の後願排除効力は国際出願日から発生するが、英語以外の言語により国際公開された場合には、後願排除効力が生じないとする言語に依存した差別的取り扱いが規定されている。

日欧においては、外国出願を優先基礎とする国内出願は、最先の第一国出願日まで遡及して、かつ明細書の記載事項全体が後願排除効力を有する。また、国際公開言語によって後願排除効力が異なるということもない。これに対して、米国においては同様の待遇が保証されていないことは不平等である。

また、他言語への翻訳を要する外国出願を行う者にとって、パリ条約第4条の優先権制度が与える12月の猶予期間や国際出願における翻訳文提出までの猶予期間は準備等の都合上その意義が大きいにもかかわらず、ヒルマー・ドクトリンや第102条(e)による後願排除効力の制限は、パリ条約が規定する優先権制度やPCT制度の有効性を狭めることとなり、日本の出願人にとって不利益が大きい。

日本国政府は、米国政府に対し、ヒルマー・ドクトリンに基づく判例及び実務について、明細書の記載事項全体が最先の第一国出願日まで遡及して第三者の後願を排除する効力を有するように改善することを求める。加えて、第102条(e)に基づく言語差別の撤廃を求める。

(6)先行技術の情報開示義務の緩和

米国においては、出願人は、特許が発行されるまで、自己の知る重要な先行技術文献情報の全てを米国特許商標庁に対して開示する義務を負う。また、先行技術文献が英語以外の言語で書かれている場合には、当該文献の提出だけでなく、全文訳又は部分訳等を提出することが必要となる。そして、侵害訴訟の過程においては、仮に特許出願審査過程における情報開示義務に違反があったと認定されると、不公正行為として、全クレームについて特許権が権利行使不能という厳しい制裁が課される。

このため、米国に出願している日本の出願人は、出願について拒絶理由通知を受けて新たな先行技術文献を知った場合には、その都度、当該先行技術文献情報を米国特許商標庁に提出することが必要となり、しかもその際、文献が英語以外の言語で書かれている場合には、全文訳又は部分訳等を提出することが必要となる。

多くの場合は部分訳の提出を行うが、どの部分について部分訳を作成するかの判断、翻訳内容の確認、翻訳費用等の負担が発生する。日本国政府は、米国政府に対し、これら翻訳に係る負担を軽減すべく翻訳文の提出を不要としたり、情報開示義務を課す期間を短縮したりする等の緩和措置を求める。

(7)植物特許

植物新品種に保護が認められるための「新規性」の要件は、植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV 条約)においては、当該品種の販売が行われていた国においては販売から1年以内の出願について、それ以外の国においては販売から4年(樹木及びぶどうについては6年)以内の出願について、それぞれ認められるとしている。また、同条約は、ある国における新品種の刊行物への記載によっては当該品種の新規性は失われず、新規性要件はあくまで販売その他の譲渡時を起点として判断されるものとしている。

米国は、新規性要件についてUPOV 条約に留保(UPOV 条約第35 条)を付し、他国とは異なる要件を課している。具体的には、塊茎植物を除いた無性繁殖性植物について、米国又は他国で特許を与えられ若しくは刊行物記載(出願公表)された日、又は米国で一般に利用又は販売された日から1年以内のみ新規性を認めている(米国特許法第102 条)。

米国は植物新品種保護国際同盟(UPOV)加盟当初、新規性要件について、直接、UPOV 条約の一般規定を適用していたものと思われる。しかし、2001 年春のUPOV 定例会合において、米国から、植物特許の新規性要件に関する米国特許法の解釈及び適用を変更したとの報告がなされた。この報告と前後して、新規性要件については、UPOV 条約の特例規定(UPOV 条約第35 条)に準拠した形で米国特許法が適用されることとなり、変更前であれば新規性が認められていた米国への出願品種が、新規性要件を満たさないとして拒絶されるようになったとの日本の育成者からの通報を受けるようになった。

植物は商品として販売するまでに、工業製品と比較して一般的に多くの時間を要し、販売状況の確認に時間がかかる。UPOV 条約が新規性要件に4年又は6年という一般的な特許と比較して長い期間を設けているのはそのためである。

しかし、米国特許法の下で新規性要件を満たすためには、販売がなされていない場合でも、日本において出願公表された時点から1年以内に米国に出願しなければならない。このため、新品種について、まず日本国内で出願し、販売状況を見てから米国に出願するという戦略を採ることは困難である。実際、日本企業の一部においては、米国への販売が決定する前であっても、米国における新規性確保のため、念のために出願せざるをえず、無用な経費が発生している。

日本国政府は、米国政府に対し、植物特許の新規性要件をUPOV 条約の一般規定に準拠させるよう求める。

7.建設関連規制

米国では建設業者は州毎に営業許可を取得する必要があり、かつ許可取得に必要な要件が各州で異なるため、複数の州で営業しようとする者にとっては、円滑な事業活動や新規事業開拓の障害になっている。

日本国政府は、米国政府に対し、ある州で取得した営業許可は他の州においても有効なものと認めたり、連邦レベルで各州の許可手続の調和に向けた各州向けの指針を発出したりするなど、手続及び実質的な要件の両面において州別規制の調和・統一化を図るよう求める。

8.保険関連規制

日本国政府は、日米保険協議を通じ、米国政府と米国の保険分野での規制改革について議論を継続してきており、また、WTO サービス貿易自由化交渉においてもその改善を要求しているところであるが、米国には依然、外国保険事業者が米国内で保険事業を営む上での障害となる規制が複数存在している。日本国政府は、規制改革イニシアティブの五年目の対話において、特に改善が望まれる以下の優先事項の改善を求める。

(1)州別規制の調和・統一又は連邦監督制度への移行

米国では、保険事業の監督・規制が各州によって異なるため、複数の州で保険事業を行う場合、州毎に免許を取得する必要があるほか、複数の州で商品を販売しようとした場合、保険商品や料率の認可申請や重要事項の届出を複数州のすべてにおいて行う必要がある。

この結果、保険会社は、事業を米国で行うにあたり免許や認可を受けるため、各州法に基づく各州個別の審査に服することを余儀なくされている。これに加え、州によっては、審査に要する期間が標準処理期間を大幅に超える例がいまだに発生している。このような状況は保険会社にとって、業務上大きな負担である他、時宜を得た顧客への対応を阻害する要因となっている。

このような実情を踏まえ、前回、日本国政府は米国政府に対し、手続及び実質的要件の両面において米国における保険事業の州別規制の調和・統一化の実現、並びに各州における審査の迅速化と透明性の向上を要望した。また、当該問題の解決の為、全米保険監督官協会(NAIC)のみならず、連邦政府からも現行制度の改善の為の積極的働きかけを行い、各州における改善状況について、適時適切に日本国政府に情報提供するよう要望した。

しかし、残念ながら、各州の免許・認可申請手続きが未だ不統一であり、審査手続きも迅速化していない等、州別規制の調和・統一が図られていない。また、当該問題の解決の為の米国における取り組みについて、NAIC と米国政府のいずれからも、積極的な情報提供が日本国政府へなされていない。

更に、日本国政府は、米国内においても現行の州別規制の問題点を指摘する批評があり、州別規制の廃止及び選択的連邦監督制度(Optional Federal Charter)の導入を提唱し、これを推進する動きもあると承知している。

日本国政府は、当該問題について米国政府及びNAIC に対し、下記の点を求める。

(a) 米国における保険事業の州別規制を調和・統一すること又は連邦監督制度へ移行すること。(例えば、州別規制の調和・統一の場合、ある州で免許・認可を受ければ、他の州においても同じ事項について自動的に免許・認可が与えられるなど、実質的な統一を各州に義務付ける措置を導入すること。)

(b) NAIC と連邦政府が州別規制の調和・統一又は連邦監督制度への移行を推進する役割を担い、各州保険当局に積極的に働きかけ、改革実現の為の具体的なスケジュールを日本国政府に提示すること。

(c) 州別規制の調和・統一又は連邦監督制度への移行の過程の透明性を確保するため、その進展に関する情報をNAIC 及び連邦政府により、適時適切に日本国政府に提供すること。

(2)再保険引き受けにおける担保要件の撤廃

米国の保険制度では、外国保険会社が米国保険会社から再保険をクロスボーダーで引き受ける場合、外国保険会社に対し、担保として債権額の100%に相当する額の信託勘定を米国内に置くこと、又は元受保険会社に対して信用状を提出することを要求している。これは、米国における再保険ビジネスにおいて、外国保険会社に対して不当に過大なコストを課す制度である。

また、この問題は、欧州の保険会社からも指摘されており、米国内でもNAIC の再保険タスクフォースにおいて制度改正を検討中であると認識しているが、当該担保制度の撤廃の為の措置案が、NAIC によって未だ具体的に提示されていない状況であると承知している。

日本国政府は、当該問題について米国政府及びNAIC に対し、下記の点を求める。

(a) 日本の保険会社が差別的な扱いを受けることのないよう、外国保険会社に不当に過大なコストを課す当該担保要件の制度を撤廃すること。

(b) 担保要件の撤廃に係る具体的なスケジュールを提示するとともに、当該制度の見直しの検討過程における透明性を確保するため、その過程に関する情報を、適時適切に日本国政府に提供すること。

(3)財産信託義務の廃止

米国の州別保険規制制度では、財産信託義務が州外保険会社のみならず、外国保険会社の在米支店にも課されている。これは、外国保険会社の支店と州外保険会社に対して、純負債を上回る資産(州監督当局への預託金と銀行等への信託財産から構成されるもの)を米国内の銀行又は信託会社に維持することを義務付けるものである。

しかし、当該義務は、事実上、外国保険会社の支店と州外保険会社が、その保有する資産の大部分を米国内に預託しなければならないため、自由な資金運用を大きく阻害し、多くの投資収益機会を逸する原因となっている。

日本国政府は、当該問題について米国政府及びNAIC に対し、外国保険会社に適用される財産信託義務制度の廃止を求める。

9.クレジットカード情報保護

2005 年6月7日、米国のデータ処理会社「カードシステムズ・ソリューションズ社」(以下、CSS)のコンピュータが外部からの不正アクセスを受け、約4千万人分のクレジットカード情報が外部に流出したとされる。本件に関連し、日本のクレジットカード会社に関しても顧客約7万人の情報漏洩の可能性があるとの見方から、日本の各カード発行会社は、不正使用防止のためのモニタリングの強化やカードの差し替え等の措置を講じ、多大な被害を被った。

米国では、クレジットカードの決済過程において、店舗取引銀行やカード発行銀行がカード情報の処理事務をCSS のような業務処理受託会社(third party processor)にアウトソーシングしているケースが多い。しかしながら、それらの受託会社が保有する個人のクレジット情報を適切に保護する法規制が整備されていない。

こうした観点から、日本国政府は、米国政府に対し、クレジットカード情報漏洩の再発を防止するために、クレジットカード支払いの業務処理委託会社を始めとするクレジット情報を扱う関係事業者に対しても、適正な制度と執行体制が整備されることを求める。

また、今後、類似のクレジットカード情報漏洩事案が起こった際には、米国政府より日本国政府に対して、迅速且つ適切に情報の提供が行われることを求める。

U.領事事項

日米関係の深化とともに、多くの日本国民が米国へ渡航している。米国在留の日本国民は、2004 年10 月1日の時点で339,387 人(外務省「平成17 年版海外在留邦人数調査統計」)で、海外在留邦人の中で最も多い(第2位は中国で99,179 人)。2004 年度に米国に入国した日本人は延べ4,335,975 人(米国市民権移民局「2004 年出入国統計年鑑」)であり、外国人入国者のうち、英国、メキシコに次いで第3位となっている。日本国政府としては、これらすべての人々が円滑に米国に入国し、米国での滞在を特段の支障なく送れるようにすることが緊密な日米経済の基礎となると考えている。

ここ数年、米国政府は領事関連の規制を度々変更してきている。日本国政府は米国政府に対し、日本国民からの質問に的確に答え、担当官によって対応が異なるようなことなく、制度に則った正しい規制が行われるためにも、入国管理官や各地の関連する連邦出先機関に対し、規制の内容を正確かつ迅速に周知していくことを求める。

個別の要望は以下のとおりである。

1.査証(ビザ)手続

(1)ビザ更新手続の効率化

2004 年7月16 日以降、米国国務省での郵送によるビザ更新手続が中止された。したがって、米国国内のビザ更新申請者は、日本に帰国するか、あるいは隣国であるカナダ又はメキシコを始めとする第三国の米国在外公館に出向かなければならなくなった。中でも投資・貿易(E)ビザは第三国での更新が認められておらず、更新のためには必ず日本に帰国しなければならなくなっている。更新手続の際には面接及び生体情報の読み取りが必要となるため、インターネットを通じて予約をとることとなっているが、適時に予約がとれないことが多く、長い場合には20 日間の日本滞在を余儀なくされた例もある。その結果として、日本人駐在員やその家族に以下のような影響をもたらしている。

・金銭的負担

在米日本企業は、駐在員及びその家族のビザ更新手続に際し、多額の出費を強いられている。出費の内訳は、駐在員及びその家族の往復の旅費、宿泊費等であるが、ビザ申請から交付までの期間が明確ではないため、帰国の日程を決められないことも、これらの費用を更に増加させる要因となっている。具体的には、更新手続に際して、1人あたり1万ドルを要したという例も報告されている。

・業務への影響

駐在員がビザ更新のために数週間帰国している間、その所属部署の業務が滞り、別途日本から新たに駐在員を呼び寄せる例が表れている。この場合、当該駐在員の呼び寄せに別途数千ドルを要する。また、駐在員が1名から数名しかいないような企業や、ビザ取得のために帰国している駐在員が専門性の高い業務を担っている場合には、駐在員がビザ更新のために長期間米国から離れれば、一つのプロジェクトが完全に停止してしまうこともあり、業務に大きな影響を来す。このため、人事システムを見直し、駐在員のビザの期限切れをもって駐在員そのものを交替させている企業もある。

・駐在員の子女の教育面での影響

駐在員の子女は、学齢期にあることが多く、ビザ更新のために米国を離れることによって、長ければ2〜3週間通学できないこととなる。そのため、教育上の支障が懸念されるばかりでなく、出席日数不足のため進級が不可能となるのではないかとの不安が在留邦人の間にある。

日本国政府は、米国政府に対し、以下を求める。

(a)国務省によるビザ更新手続きを再開すること。特に、

(i) 各空港にあるUS-VISIT プログラム実施のための機器等、米国国内にある生体情報読取りのための機器をビザ更新希望者のために活用するべく、必要な措置を講じること。

(ii) また、身元保証がより確実な一定の種類のビザに限って再開するという可能性についても検討すること。

(b)投資・貿易(E)ビザの第三国での更新を認めること。そもそも、E ビザは第三国では更新できないとする根拠法令等はなく、人員不足といった現場の事情によって更新申請が拒否されている例もあると承知しているので、カナダやメキシコ所在の米国公館における人員配置の見直しを含め、現場での対応体制を強化すること。

(c)日本、カナダ、メキシコのいずれでビザ更新を行うにせよ、更新に要する時間を短縮し、ビザ申請から交付までに要する期間を明確にすること。具体的には、更新手続については優先的に処理する体制の構築や、面接前に一定の審査を終え、面接後数日程度で確実に更新されたビザが発給されるようにすること。

(2)ビザ申請取得可能な在日米国公館の拡大

現在、日本においてビザ申請手続を行うことができるのは東京の米国大使館、大阪・神戸の米国総領事館及び沖縄の米国総領事館に限定されている。したがって、北海道や九州在住の申請者は高額の交通費、滞在費をかけて東京や大阪まで申請に行かなければならず、また、米国から帰国してビザ更新手続を行う在米駐在員にとってもコスト増の要因となっている。

日本国政府は、米国政府に対し、札幌、名古屋及び福岡の各米国領事館における面接及び生体情報読み取り措置の実施を求める。また、これらの公館で、一定の期間だけでもビザ申請手続を実施する可能性も検討するよう求める。

(3)ビザ発給及び有効期限について

(a)上記に挙げたように、ビザ更新は日本国民にとって大きな負担となっている。そこで、更新の需要そのものを減らすという観点から、ビザの有効期間自体を長くすることが問題解決に資すると考えられる。日本に赴任する企業内転勤の外国人に5年間有効なビザが発給されているのに対し、Lビザの有効期間が2年又は3年しかないことに鑑み、日本国政府は、米国政府に対し、相互主義的観点から、滞在許可証の有効期限である2年又は3年間のみ有効なビザしか発給していない現在の慣行を改め、5年間有効の就労ビザを発給するよう求める。

(b)E ビザの発給要件として、一定の管理職経験年数等が指定されているため、仮に20 代で英語が堪能で業務能力に優れた日本人がいたとしても、E ビザを取得することができない。日本国政府は、米国政府に対し、日本の若い人材の米国での活躍の機会を拡大する観点からも、この要件を緩和し、又は運用を柔軟にするよう求める。

(c)日本国政府は、米国政府に対し、H1-b ビザの年間発給枠を再度拡大するよう求める。

(d)米国議会において、H(一般労働者)及びL(管理職・企業内転勤者)ビザの取得に関する規制強化を目的とした法案(H.R.3322、H.R.3648 等)が提出されている。これら法案が成立した場合、日米経済関係に悪影響を与えるのみならず、日本から米国への投資意欲減退にもつながりうるものと懸念している。日本国政府は、米国政府に対し、これら一連の法案が成立することがないよう求める。

2.運転免許証

(1)Real ID 法

本年5月に成立したReal ID 法は、連邦政府機関は同法の要件に従わない州で発給された運転免許証を公的目的の身分証明書として受理してはならないと定めており、要件の一つとして「外国人に発給される運転免許証の有効期間は、定められた滞在期間のみとし、定められた滞在期間がない場合は一年とする」とされている。

その結果、以下のような懸念が生じている。

・米国各州が本法を実施し、外国人に発給される運転免許証の有効期間が定められた滞在期間に限られることとなれば、在留邦人はより頻繁な運転免許証の更新手続を強いられることとなる。

・仮に、非移民資格の滞在外国人に対して、公的目的の身分証明書として認められない運転免許証が発行されるようなことになれば、在留邦人は身分証明のために旅券を常時携帯しなければならなくなる。これは、旅券の盗難や紛失の可能性を大きく高めることにつながり、在留邦人にとって不便であることはもとより、盗難・紛失の対象となった旅券が犯罪やテロに用いられる危険がある。

・現時点では本法の実施細則が決まっていないため、具体的に如何なる影響が及ぶのかが分からないことが、在米邦人の不安を増大させる一因となっている。他方で、州によっては本法に準拠した州法の制定を進めている州もあり、本法の実施細則制定前に州法が成立した場合、実施細則にあわせて州法を改定しなければならないような事態も考えられる。逆に、実施細則の制定を待ってから対応を決めるとしている州もあり、実施細則の制定が遅れれば、各州の運用に混乱が生じることが懸念される。

日本国政府は、米国政府に対し、以下を求める。

(a)各州が本法を実施した場合に、在留邦人に過度の負担を強いることのないようにするとの観点から、米国入国ビザのような有効期間の長い書類をもって「定められた滞在期間」の証拠書類とすること。

(b)各州が本法を実施しない場合、または本法の要件を満たさない運転免許もオプションとして残し、外国人がこれを選択するような場合でも、身分証明手段として常時旅券を携帯せざるを得ないような事態を生じさせないよう、本法にいう「公的目的」を明確かつ真に必要な範囲に限定すること。

(c)各州が運転免許証に関する制度を変更する場合、その移行が円滑に行われるよう、米国の出入国制度についての周知徹底も含め、連邦政府の権限の範囲内で各州政府及び関係連邦機関を最大限に指導・監督すること。

(d)具体的な影響が不明確であることによる在米邦人の懸念を払拭し、実施細則の制定が遅れることに伴う上記のような各州の運用上の混乱を緩和するため、明確な実施細則を早期に制定すること。

(2)各州の制度の改善

運転免許証の発行に関し、州によっては、発行手続に必要な書類や、発行に要する日数の面で在米邦人に多大な負担を課している州がある。また、中には日本国民以外の外国人と日本国民との間で、運転免許証の取得に係る手続に差異が設けられている州もあると承知している。

日本国政府は、米国政府に対し、米国各州に対し、運転免許証の取得の際に在米邦人に過度の負担を課すことのないよう、また、日本国民と他の外国人との間に合理的な理由なく差異を設けることのないよう、働きかけを行うことを求める。

米国各州の制度に対する具体的な要望は以下のとおり。

(a)国際運転免許証有効期間の改善

在米国邦人は、米国において、各州の運転免許を取得するには長期間を要するため、取得までの間国際運転免許証で運転していることが多い。ところが、多くの州では、住居が決まり次第州免許を取得すべきことになっており、国際運転免許証の効力は住居決定に伴って認められなくなることがある。また、6か月未満といった比較的短期間で国際運転免許証が失効する州が多い。ノースカロライナ州は、そもそも国際運転免許証による運転を認めていない。日本国政府は、米国政府に対し、米国も当事国となっている道路交通に関する条約の趣旨に基づき、日本の当局が交付した国際運転免許証により運転可能な期間を入国後1年間として取り扱うよう各州に働きかけるよう求める。

(b)マサチューセッツ州における実技試験時の同乗者同行義務

マサチューセッツ州では、州の規則により、運転免許証取得の際の実技試験において、21 歳以上で有効な免許証を所持し、かつ1年以上の運転経験のある者(同乗者(スポンサー))の同行を義務づけている。渡航後間もない時期に直ちに適当なスポンサーを見つけるのは難しい場合もあり、在米邦人の免許取得に不都合が生じている。第三者のスポンサーを紹介してもらうこともできるが、金銭的負担が大きくなってしまう。同乗者同行義務を課している州はマサチューセッツ州のみと承知している。日本国政府は、米国政府に対し、同州当局に対し、当該規則の廃止、又は外国人にとって過度な負担とならないような規制の緩和を働きかけるよう求める。

(c)テネシー州及びユタ州における「自動車運転証明書」の発行

テネシー州及びユタ州で発行されている「自動車運転証明書」は、自動車運転免許証が備えていた写真入り身分証明書としての機能を備えていないことから、日常生活において不便が生じている。日本国政府は、米国政府に対し、これらの州に対し、当該措置を廃止するよう働きかけるよう求める。

(d)ロードアイランド州における運転免許実技試験場の制限

ロードアイランド州では、これまでは、住居地の試験場で運転免許実技試験を受けることができたが、最近の制度変更により、外国人の場合遠隔地の指定された試験場で実技試験を受けなければならないことになった。そのため、在米邦人に不便が生じている。日本国政府は、米国政府に対し、ロードアイランド州において、従来通り、外国人であっても居住地の試験場で実技試験が受けられるよう、働きかけるよう求める。

3.出入国地点における生体情報による出入国管理

2004 年1月5日に導入され、その後適用範囲が拡大されてきている「US-VISIT プログラム」では、米国出入国地点において指紋情報の電子的読み取り及び顔写真撮影を行っているが、同プログラムの導入によって、入国審査に時間がかかるようになったとの不満が在米邦人から寄せられている。また、日本国政府は、米国政府が日本国政府の要望にこたえ、度重なる機会を利用してUS-VISIT プログラムについての広報活動を行ってきていることを歓迎するが、日本国民は、自らの指紋情報が米国政府に管理されていることへの不安を依然として有しており、日本国民の本プログラムに対する理解を一層深めることが求められる。

日本国政府は、米国政府に対し、以下を求める。

(1)引き続き、各出入国地点で審査に要している時間を把握の上、更なる入国審査の迅速化のために必要な措置をとること。

(2)US-VISIT プログラムによって取得された個人情報を厳格に管理すること。また、指紋情報を読み取られることについての日本国民の不安を軽減するため、可能な範囲で、個人情報保護のために米国政府が講じている一連の措置を明らかにすること。

(3)日本国民のUS-VISIT プログラムに対する理解を深めるため、引き続き、本プログラムについての広報活動を行うこと。特に、今後、本プログラムの適用地点の拡大や、無線周波数による認証(RFID)技術の導入等が行われる際には、制度の変更に伴う混乱も予想されるため、充分な広報活動を行うこと。

4.非機械読み取り式旅券所持者に対するビザ免除措置の停止

米国政府は、2004 年10 月26 日以降、非機械読み取り式旅券を所持し、ビザを持たないビザ免除対象国の国民に対して、暫定措置として一回限りの臨時入国許可を与えていたが、当措置は2005 年6月25 日限りで終了し、6月26 日以降は非機械読み取り式旅券を所持した外国人は、ビザ無しでは米国に入国できないこととなっている。また、同日以降、米国政府は、非機械読み取り式旅券所持者でビザを持たない乗客を米国に運んだ航空会社に対し、一違反につき3,300 ドルの罰金を科すこととしている。そのため、非機械読み取り式旅券を所持し、ビザを取得していない日本国民が、6月26 日以降、米国への渡航当日に空港に赴いた後で航空会社に搭乗を拒否され、米国への渡航日程の変更を余儀なくされた例が多数報告されており、更には、渡航そのものを断念せざるを得なかった例も承知している。

また、日本国政府は、渡航先で旅券を紛失し、又はその盗難に遭い、旅券の再発給を待たずに緊急に帰国を希望する旅行者に対して、在外公館において、帰国のみに有効な渡航用文書を発給しているが、現時点では、同文書は機械読み取り式ではないため、同文書を所持して日本に帰国しようとする日本国民はビザ免除の対象外となる。したがって、例えば米国以外の米州諸国から日本に緊急帰国しようとする場合、米国経由で帰国するためには、米国公館にて面接を受け、米国通過ビザを取得しなければならない。その結果、旅行者は出発国(旅券を失った国)に一定期間余分に滞在してビザが発給されるのを待つか、又は、米国以外の第三国を経由して帰国しなければならず、円滑な帰国が妨げられ、金銭的・心理的負担も極めて大きなものとなる。

日本国政府は、米国政府に対し、以下を求める。

(1)非機械読み取り式旅券を所持した日本国民が、渡航当日に米国への渡航を拒否されることがなくなるよう、非機械読み取り式旅券を所持している日本国民は、ビザを取得しなければ米国に入国できないという事実につき、米国に乗り入れている航空会社のチケット予約・販売時に渡航予定者の所持する旅券が機械読みとり式旅券か否かの確認を徹底するよう、旅行会社等を含め、更に広く周知の努力をすること。

(2)帰国のみに有効な渡航用文書を所持するビザ免除プログラム対象国国民に対しては、特例措置として、米国ビザを所持していなくても米国経由での帰国を認めること。また、米国政府は、2006 年10 月26 日以降に発給された旅券の所持者は、当該旅券がIC チップ搭載旅券でなければ、米国入国の際にビザの取得を必要とする旨を決定しているが、日本が在外公館で発給する緊急旅券(1年間有効)及び帰国のための渡航書はIC チップ搭載にはならないため、2006 年10 月26 日以降も緊急旅券及び帰国の為の渡航書についてはICチップ搭載旅券でなくても、ビザ免除での米国通過を認めること。

5.社会保障番号

(1)社会保障番号取得期間の短縮化

米国社会保障庁(SSA)の各地出先機関においては、社会保障番号(SSN)の申請書類を受理した後、米国国土安全保障省のデータベースとオンラインで申請者の入国資格等を照合し、SSN の発給に問題がないことが確認できればSSN を発給することとしている。SSA と国土安全保障省は、移民資格を確認する作業を迅速化する努力を継続してきていると承知しているが、現在でもSSN の発給には1〜2か月を要しており、SSN が銀行口座の開設やクレジットカードの契約等駐在員の赴任直後の現地生活の立ち上げに必要となることから、在米駐在員が不便を強いられている。

日本国政府は、米国政府に対し、SSN の発給が速やかに行われるよう、必要な措置を講じることを求める。

(2)駐在員家族への社会保障番号発給

米国での日常生活においてはSSN の提示を求められることが多いが、現在の規則では非就労ビザ保持者にはSSN の発給が認められていないため、駐在員の家族がSSN の発給を受けることができず、非義務教育の学校機関の授業が受けられない等の不都合が生じている。

日本国政府は、米国政府に対し、以下を求める。

(a)非就労ビザ保持者を含む合法的滞在者にSSN の発給を認めるよう規則を改正すること。

(b)本件に係る日本国政府の要望を実現するために米国政府が行ってきた作業について、包括的に明らかにすること。

6.納税者番号

2003 年12 月17 日より内国税歳入局(IRS)の申請規定が変更され、納税者番号(ITIN)の取得は原則的に年1回の確定申告の手続の際(2月から4月)にしか申請することができなくなった。このため、SSN の発給を受けず、代替手段として、ITIN を身分証明書として使用せざるを得ない日本人駐在員家族が、運転免許証の取得や所得税の控除申請等の際に困難に直面している。

日本国政府は、米国政府に対し、以下を求める。

(a)確定申告時以外でも、ITIN の申請が行えるよう制度を見直すこと。

(b)運転免許申請、家族控除申告といった行政手続をとる際にSSN 又はITIN のいずれかが求められている州においては、SSN が取得できない者について、それら行政手続の際に、SSN を取得する資格がないことを証明する書類等の提示をもって申請資格を認定するよう、働きかけること。

(c)日本人駐在員家族の不便を少しでも緩和するため、ITIN の申請から発行に要する時間を短縮すること。

7.滞在許可証

(1)I-94 更新手続の迅速化

I-94の更新手続に2〜3か月間と長期間を要しており、更新期間中は事実上出入国ができないため、在米邦人の事業活動に支障を来している。日本国政府は、米国政府に対し、更新手続に要する時間の短縮化を求める。

(2)I-94 の有効期間の延長

日本国政府は、米国政府に対し、I-94 の有効期間を延長することを求める。特にE ビザ(有効期間5年)で入国する場合、I-94 の有効期間は最長2年間であり、1年間しか認められない場合もある。後者の場合、毎年更新申請手続を要しているため、特にE ビザ所持者のI-94 の有効期間の延長を求める。

V.流通

米国が推進している交通保安の強化によるテロ対策の取組みについては、日本国政府としてもその重要性を認識しているところであり、基本的に支持し協力する。ただし、このようなテロ対策の取組みが物流における迅速性、円滑性、効率性を阻害しないように求めるとともに、措置の策定、実施に際しては、世界税関機構(WCO)等の国際機関における取組みと整合性を保ち、世界的に共通化、統合化したシステムの構築を目指すよう求める。

また、米国の流通分野における規制には、自由貿易に反し、公正な競争を阻害するものや、国際基準にそぐわず、円滑な物流を妨げるものがあり、これらの改善を求める。

個別の要望は以下のとおりである。

1.海事テロ対策

米国はテロ対策の一環として、2002 年通商法施行に伴う貨物情報の事前かつ電子的提出に関する規則(以下「事前提出規則」とする)を実施し、対米輸出の国際海上コンテナ貨物については、そのマニフェストを船積24 時間前までに米国税関に提出することを義務付けた。これにより、従来船積1 日前程度に設定されていたコンテナヤードへのコンテナ搬入締切時刻が約48 時間程度前倒しされ、著しく物流効率が低下しており、コンプライアンスの高い者も含め事業者に大きな負担が生じている。

一方、日本国政府の関係7 省庁は、平成16 年度に策定した「安全かつ効率的な国際物流の実現のための施策パッケージ」にかかる推進協議会を設置し、荷主、海貨事業者、利用運送事業者等と船会社の間での貨物情報の交換方法や責任分担のあり方に関するガイドラインを、官民協働により、今年度中に策定することとしており、今後、セキュリティを強化するとともに、対米輸出に係るリードタイムの短縮に向け、最大限努力するところである。

しかしながら、日本の取組だけでは限界があり、日本国政府は、米国政府に対し、セキュリティ対策の徹底と物流効率化の両立に配慮しながら、事前提出規則の緩和(マニフェスト提出期限の緩和)やC-TPAT 参加者に対する事前提出規則の適用除外及び検査回数等の更なる削減等参加メリットの付与拡大について取り組むよう求める。

加えて、これまでに付与してきたとされるベネフィットに関し、C-TPAT 参加者の意見を踏まえた政策評価を実施・公表し、透明性の向上が図られるよう求める。

2.バイオテロ対策

「2002 年公衆の健康安全保障及びバイオテロへの準備及び対策法」に基づき、米国政府は、「食品施設の登録」及び「輸入食品発送の事前通知」の2つの暫定最終規則案を公表し、2003年12 月以降これを運用してきている。

これまで、日本国政府は、上記暫定最終規則案に対し、米国に食品を発送しようとする輸出業者又は個人が、発送に際して過度の負担を負うことのないよう求めるコメントを提出してきた。米国連邦食品医薬品局(FDA)は、現在、米国税関国境保護局(CBP)とも協力しつつ、これまで提出されたコメントを踏まえた最終規則の内容を検討しているものと承知している。

日本国政府としては、本件に係るいかなる最終規則も、提出されたコメントを十分考慮し、米国をバイオテロの脅威から守るという本法の趣旨を超えて過度の負担を輸出業者又は個人に課すものとならないように望んでいる。

特に、日本国政府は、本件規則の下では個人が非商用目的で米国に食品を発送する場合にも発送の事前通知が求められていた点について、強い懸念を有していた。この点に関し、FDA が2003 年12 月に最初に発表し、最近では2005 年11 月に改訂された履行指針において、非商用差出人から非商用目的のために米国に輸入され又は輸入のために提供される食品については、その輸送手段が国際郵便であれ宅配便であれ、FDA 及びCBP は、事前通知が行われていなくても基本的に規制措置をとらないこととしたことを歓迎する。

しかしながら、実際には、国際郵便以外の貨物(宅配便)について、この条件を満たす食品であっても米国税関にて差し止められている事例もあると承知している。また、同指針は、実際に発送行為を行う者を「差出人」と見なしているため、個人が食品を購入した小売店等(すなわち「商用」の者)が米国への発送を代行する場合には、「非商用差出人が発送した食品」と見なされず、事前通知が必要としている。個人がインターネット上で英語で事前通知を行うことは一般的に多大な困難を伴うものであるので、個人による食品の発送についてはより現実的な最終規則が制定され、かつそれが着実に運用される必要がある。

また、米国への食品輸出に関しては、「2002 年公衆の健康安全保障及びバイオテロへの準備及び対策法」の他、関係する規制が多く、複雑で分かりにくいとの不満や、米国農務省(USDA)やFDA の輸入ライセンス発行等の手続に時間がかかり、企業の経済活動に悪影響が及んでいるとの意見が寄せられている。

以上の認識に立ち、日本国政府は、米国政府に対し、以下を求める。

(1) 今後公表される輸入食品発送の事前通知に関する最終規則においても引き続き、非商用差出人が非商用目的で発送する食品については、事前通知を義務づけないこと。

(2) 今後公表される輸入食品発送の事前通知に関する最終規則において、食品小売店等が個人に代わって非商用目的で米国に食品を発送する場合は、当該輸入品に非商用目的であることが明記されていれば、事前通知義務づけの対象外とすること。

(3) 以上2点を米国各税関が着実に実施し、税関検査官の恣意的な判断で輸入食品を差し止めることがないよう徹底すること。

(4) 特に中小の食品製造業者や個人が、本件規則の最新状況や、実際の食品施設の登録や食品の発送に際して具体的にいかなる行動をとればよいのかについて日本語で照会できる窓口を在日米国公館に設けること。併せて、今後起こりうる本件規則のあらゆる変更について、在日米国大使館のウェブサイト等を通じて遅滞なく日本の製造業者、日本郵政公社及び民間輸送業者並びに国民一般に広報すること。

(5) 輸入ライセンスの発行等、手続に要する時間を短縮すること。

3.コンテナ重量制限

日本を含む多くの国では、コンテナ輸送を行う際、国際標準化機構(ISO)による国際貨物コンテナの規格に基づき、コンテナの総重量を最大30.48 トンまで認めている。

一方、米国は、連邦重量法により、積み荷あるいは積み荷が中に入れられて動くコンテナについての重量基準を制定しておらず、それらを含めた車両全体とそれに関連する車軸に係る重量についての基準を定めている。州間高速道路における最大総車体重量は、橋梁規格によってより軽い総車体重量が規定されているところを除いて、8万ポンド(36.3 トン)である。

この総車体重量8万ポンド(36.3 トン)から、(1)牽引トラクターの重量(平均9〜12 トン)、(2)コンテナトレーラーの重量(平均4〜6トン)、(3)コンテナ自体の重量(平均3トン)を除けば、大凡のコンテナ積載重量が算出できるが、算出結果は約15〜20 トンであり、これはISO 基準における最大のコンテナ積載重量30.48 トンを10〜15 トン(2.2〜3.3 万ポンド)も下回るものである。

日本国政府は、米国政府に対し、連邦重量法における重量規制が、ISO 規格に基づく規定と非整合的であり、それが、物流の効率性を阻害し、米国の輸送業者の配送遅延、輸送コスト増大等を招いていることを認識するとともに、車体重量に関する規制について、総車体重量の上限を現行の8万ポンドから10 万ポンド超に引き上げ、国際的な基準に適合したものとするよう求める。

4.海運法

(1)1920 年商船法に基づく制裁措置及び日本の港湾事情に関する報告要求

1920 年商船法第19 条(1)(a)により、外航海運に影響を与える規則を策定する権限が、米国連邦海事委員会(FMC)に対して与えられている。

FMC は、1997 年9月に日本の船社に対し、一方的制裁措置を発動し、1999 年5月に撤回したものの、引き続き日米船社に対して日本の港湾の状況をFMCに報告するよう要求している。

当該制裁措置の根拠となったFMC の規則は、相手国船舶に対する最恵国待遇、内国民待遇の付与等を規定した日米友好通商航海条約に違反するものであった。(同規則は1999 年5月に撤廃された。)ついては、米国政府に対し、連邦政府として、FMC に対する働きかけを強化する等により、このような一方的制裁措置が今後行われることがないよう確保することを強く求める。

また、FMC は、同規則の撤廃後、日本船社及び米国関係船社に対し、日本の港湾事情の改善状況について引き続き報告を求めている。

日本の港湾事情については、事前協議制度の大幅な改善実現、港湾運送事業法改正による需給調整規定の撤廃による新規事業者の参入実現、港湾の 364 日24 時間フル・オープン化の実現等、関係者による取り組みの成果が現れているところである。

このような日本の港湾事情の大幅な改善にもかかわらず、2001 年8月、FMC は、新たな指令により、報告の記載事項を増やすとともに、対象となる船社の範囲を拡大した。当該指令は、直接日本船社に日本の法令及び通達の提出を求めるなど、船社に提供を求めることが適当と考えられる範囲を逸脱するものであり、船社にとって不当かつ過大な負担となっている。

仮にFMC が、上記のような日米友好通商航海条約に違反する一方的な制裁措置を今後課すか否かについての判断をするために報告の範囲を拡大したのであれば、FMC の権限の乱用に当たる重大な問題であり、極めて遺憾である。

以上のことから、日本国政府としては、米国政府に対し、報告の根拠となる指令を撤回するよう強く求める。

(2) 1998 年外航海運改革法による運賃設定への介入

1998 年外航海運改革法により修正された1920 年商船法第19 条(1)(b)には、日本を含む外国海運企業と米国海運企業を差別し、その運賃設定のあり方等について一方的な規制を可能とする規定が含まれている。そもそも運賃設定のあり方は、商業ベースの自由な海運活動の基本であり、FMC が一方的にその規制を行うことは、自由な海運活動への介入及び外国海運企業のみに対する差別的介入にほかならないと考える。

1998 年同法の改正によりことさら運賃設定のあり方に対する介入が明文化されたことから、米国政府に対し、今後FMC が市場の実情を無視して日本を含む外国海運企業による商業的海運活動を一方的に規制することのないよう確保することを求める。

5.新運航補助制度の廃止

毎年1億ドルを超える運航補助を10 年間にわたって実施するという新運航補助制度(MSP)は、2005 年10 月以降も10 年間延長され、かつ、補助金額及び対象隻数の拡大がなされている。

この巨額の補助金の投入が、国際海運市場における自由かつ公正な競争条件を歪曲することは明らかであることから、日本国政府は、米国政府に対し、同制度の廃止を求める。

また、仮に廃止が困難である場合には、日本国政府は、米国政府に対し、以下の2点を求める。

(1) 同制度の運用において、その適用を安全保障上、真に必要な徴用の場合に限る等、国際海運市場における自由かつ公正な競争条件への歪曲効果を最小限にする方策を採ること。

(2) 第4回報告書において米国政府が確認した、MSP補助対象船舶リスト及びMSPのいかなる変更に係る日本国政府への情報提供を、着実かつ遅滞なく実施すること。

6.アラスカ原油輸出禁止解除法を含む各種貨物留保措置の撤廃

商船貨物であるアラスカ原油の輸出について、米国籍船使用の義務付けに代表される各種の貨物留保措置は、内国民待遇の原則に反する保護主義的性格が強いものであり、交渉期間中は新たな保護主義的措置を導入しないとする1994 年のWTO 海運継続交渉に関する閣僚決定にも反するものである。

第4回報告書において、米国政府は、貨物留保等の措置が国際海運市場における自由かつ公正な競争を阻害するおそれがあるとの日本国政府の意見に留意している。日本国政府は、米国政府に対し、各種貨物留保措置の撤廃を引き続き求める。

7.酒類に関する規制

(1)しょうちゅうの消費場における販売許可

カリフォルニア州において、ソジュという、アルコール分が24 度を超えない農産品から製造された韓国の酒類については、ワインの販売を許可する消費場用販売免許をもって消費場での飲用に供するために販売することが許されているが、しょうちゅうについてはこれが許されていない。日本国政府は、米国政府に対し、本消費場用販売免許をもって、しょうちゅうという、農産品から製造された日本の酒類についても、消費場での飲用に供するための販売が許されることを求める。

また、アルコール含有量に関して、日本国政府は、アルコール分が24 度以上で26 度を超えないしょうちゅうについても、本消費場用販売免許をもって販売が許されることを求める。

(2)米国への輸入酒類の表示承認証明

連邦規則第27 編第4部第40 節、同第5部第51 節、及び同7部第31 節によると、表示承認証明書(ATF form 5100.31)のない酒類は税関からの引取りができないこととされている。これらの規則により、例えば試飲のために提供することを目的とした酒類についても、これを米国内に持ち込む場合、事前に表示承認証明を取得する必要があり、日本産酒類の米国におけるプロモーション活動を行う上で大きな障害となっている。

日本国政府は、米国政府に対し、試飲用に提供される酒類に関しては、表示承認証明書を取得しなくても米国内への持込が許容されることを求める。

W.制裁法

米国の制裁法に基づく制裁措置は、米国企業のみならず世界中の企業による制裁対象国への投資意欲や当該国との経済関係構築を大きくかつ不当に萎縮させるものである。また、法的にも、一般国際法上許容されない国内法の域外適用になりうるのみならず、WTO協定との整合性で問題となる可能性がある。さらには、個々の制裁法の運用においても、公平性、透明性及び予見可能性が確保されていない。これら全ての観点から、日本国政府は、規制改革イニシアティブを含むあらゆる機会を捉えて米国政府に改善を求めてきた。しかしながら、これまで米国側より十分な対応は得られていない。

日本国政府は、米国政府に対し、以下の制裁法について、国際法との整合性を確保しつつ慎重に運用するよう求める。特に、第三国の企業に対するこれら制裁法の適用を差し控えるよう求める。

以上の認識に基づき、個々の制裁法について以下のとおり求める。

1.イラン・リビア制裁法

日本国政府は、これまで、現実に外国企業による多数の対イラン投資活動が現時点までイラン・リビア制裁法(ILSA)の適用を受けていない中で、仮に日本企業のイラン投資案件にのみILSAが適用される、あるいは、これら外国企業に比べてより高い適用の蓋然性が存在する場合、明らかな二重基準となるとの懸念を表明してきた。

この点に関し、米国政府が、首脳への四年目の報告書において、ILSAは、同法の規定に従い、同法の対象とされている活動を行った者に対して適用されるのであり、国籍による区別は無いことを説明したことを評価する。しかしながら、日本国政府は米国政府に対し、EU諸国の企業に現在まで与えられてきている扱いと同等のものが、今後日本企業にも保証されること、及び米国政府がその旨を更に明確にすることを求める。

2.ヘルムズ・バートン法(キューバ制裁法)

ヘルムズ・バートン法については、米国政府が本法の実施停止期間を6か月ごとに延長してきていることは評価するが、日本国政府は、米国政府に対し、国連総会においても、同法に対する懸念が圧倒的多数の加盟国の支持によって決議されている事実を十分認識し、引き続き実施停止を継続するよう求める。

3.地方レベルの制裁法

日本国政府は、米国政府が州及び地方レベルでの制裁の取組みが連邦政府の外交政策を支持するものとなることを確保すべく、州及び地方行政府に働きかけるよう相当の努力をして29きていることを評価するが、引き続き、米国政府が、州及び地方行政府に対し、一般国際法及びWTO 協定と整合的でない制裁法を廃止又は執行を停止するよう働きかけを行うことを求める。

X.競争政策

競争政策の積極的な促進は、事業者による市場への新規参入や創意を促進し、効率的な経済環境を構築するものである。近年の世界経済のグローバル化の進展において、米国における競争政策の更なる促進は、日米両国の経済の活性化や企業及び消費者に様々な利益をもたらすと考える。

日本国政府は、反トラスト近代化委員会における適用除外制度を含む反トラスト法の見直しや国際カルテルの摘発をはじめとする執行活動等、米国政府によって競争政策が積極的に展開されていることは承知しているが、米国政府に対し、これら適用除外制度の見直しを早期に実現させるとともに、執行活動に関する情報をより多く開示することを求める。

個別の要望は以下のとおりである。

1.反トラスト法適用除外制度

日本国政府は、米国政府に対し、競争政策の積極的な促進の観点から、現存する連邦反トラスト法の適用に関する制限及び除外に係る適切な対象範囲について、引き続き、見直し及び意見表明を行い、かつ、存在に合理性のない制度については廃止するよう求める。

また、日本国政府は、米国政府に対し、州レベルでの反トラスト法適用除外制度についても、その見直しのための協力を積極的に進めるよう求める。

さらに、こうした一連の作業に係る公表文書を、日本国政府にとって入手可能にするとともに、これらの作業に関する進捗状況についての説明を求める。

2.反トラスト執行活動に係る資料の公表

(1)米国司法省

米国においては、米国司法省が毎年度の刑事及び民事事件の総数や罰金額の合計額等の統計資料を公表し、司法省のホームページ内の「Antitrust Case Filings」(個々の事件が関係事業者毎に掲載されている)において、司法省が刑事訴追又は民事提訴した事件の一部についての文書を掲載しているが、司法省が提訴した事件の内容及び最終的な判決の一覧は公表されていない。

法人及び個人に対する制裁状況や判決を公表することは、反トラスト行為の抑止につながると考えられるので、日本国政府は、米国政府に対し、司法省が刑事訴追及び民事提訴した事件及び個々の判決の内容(提訴日、判決日、刑の内容、違反行為等)の年度別の一覧表の公表を求める。

(2)米国連邦取引委員会

米国連邦取引委員会については、非合併事案について、議会への年次報告やホームページ上で執行状況に関して主要なものが公表されているが、法的措置や審判に関する件数(審判開始決定数や審決件数)を記載した年度別の統計資料及び法的措置を採った事件、審判中の事件、審判の結果等の年度別一覧は公表されていない。日本国政府は、米国政府に対し、透明性確保の観点からも当該資料の作成・公表の検討を求める。

また、合併事案についても、年度別に審判開始決定件数や、審決・同意命令数についての公表を求める。

Y.法律サービス及び法律関連事項

国際的な通商及び人的交流の深化に伴い、法律サービスの国際化も進展しているが、米国における外国人弁護士受入れ制度には、いまだ不十分な点が見られる。また、米国の司法制度の中には、国際標準に比べて、企業に過度の負担を強いるものがある。こうした点に関し、日本国政府は、規制改革イニシアティブの下、米国政府と対話を行ってきたが、いまだ進展は不十分であり、引き続き改善を求める。

個別の要望は以下のとおりである。

1.外国弁護士の受入れ

(1)外国弁護士受入制度の全州への拡大

米国において、外国弁護士受入制度を設けている管轄地は25 の州及びコロンビア特別区に過ぎず、その他の州においては、外国弁護士が開業することが許されていない。米国政府の説明によれば、外国弁護士受入制度を設けている上記26 管轄地の法律サービス市場の収入は、米国における全法律サービス市場の収入の約85%となるという。しかし、日本においては、外国法事務弁護士として承認等を受けた者は日本全国で活動することができ、法律サービス市場の100%に当たる部分を開放しているといえる。日本国政府は、米国政府が、米国法律家協会(ABA)とともに外国弁護士受入州の拡大に努力していることを歓迎するが、引き続き、外国弁護士受入制度を全州に拡大するため、米国政府の積極的な行動を求める。

(2)外国弁護士の受入要件としての職務経験期間

外国弁護士受入制度を設けている管轄地における受入要件としての職務経験期間に関し、日本国政府は、米国政府に対し、引き続き、以下の事項の実現に向けて努力するよう求める。

(a)職務経験期間の短縮

外国弁護士受入制度を設けている管轄地において、確認されている限りでは、特別区を除くすべての州が一定期間の職務経験があることを受入要件としており、多くの州ではその期間を5年以上としている。日本の外国弁護士受入制度では受入要件としての職務経験期間は3年で足りるとされており、米国においても、これを3年に短縮するよう求める。

(b)申請直前要件の廃止

外国弁護士受入制度を設けている州において、確認されている限りでは、受入要件としての職務経験期間には申請直前の職務経験の期間のみが算入できることとされている。かかる直近要件は、日本の外国弁護士受入制度では課されておらず、米国においても、受入要件としての職務経験期間に算入できる職務経験の期間を申請直前のものに限定しないものとするよう求める。

(c)第三国における職務経験期間の算入

外国弁護士受入制度を設けている州において、確認されている限りでは、受入要件としての職務経験期間に第三国における職務経験の期間の算入を認めているのは2州(ニューヨーク州及びインディアナ州)に過ぎない。日本の外国弁護士受入制度では第三国における職務経験の期間の算入を認めており、米国においても、第三国における職務経験の期間を算入できるようにするよう求める。

(3)州当局による回答

米国政府は、日米規制改革イニシアティブ第4回報告書において「これらの問題について引き続きABA と共に作業を継続し、日本国政府に対し、日本側要望に対する州当局の回答を通知する。」としている。そこで、日本国政府によるこれまでの要望について、州当局の回答内容を明らかにするよう求める。

2.製造物責任法

米国の製造物責任法は、賠償額が高額になり、その訴訟に備えるための保険料も高額になる等、米国で活動する日本企業のみならず米国企業にとっても過大な負担となっている。こうした中、米国政府が不法行為訴訟改革に向け取り組んでいることを歓迎する。州政府においても、15 の州で製造物責任法に対応した法律改正が実施されており、猶予期間の制限、非経済的損失への賠償制限等の動きが出ていることも歓迎する。

しかしながら、その一方で、不法行為訴訟改革は、アスベスト訴訟、医療過誤訴訟、銃器製造業者向けの訴訟等、特定の業界に偏っており、訴訟案件の大多数を占める製造物責任法の改革については、その取り組みに進展が見られていない。

このため、日本国政府は、米国政府に対し、不法行為法改革の一環として、各州で進められている製造物責任の緩和を支持し、改正を働きかけるとともに、連邦レベルにおいて、既に連邦法案の議会提出などの形で試みられている賠償額の制限や時効期間の短縮などの製造物責任の緩和に向けた動きを推進することを求める。

3.懲罰的損害賠償

予測不可能な懲罰的損害賠償は、企業の存続も脅かすほど高額になるケースがある。過去、連邦最高裁判決(ステート・ファーム事件)により、懲罰的損害賠償に対して連邦法上の制限が課されることとなったが、その後の判決などにおいてこの制限が金額・予測可能性いずれの面においても効果的に機能しているとは言い難い。日本国政府は、米国政府に対し、一部の州法で立法化されている、(1)実損額との関係における金額的制限、(2)懲罰的損害賠償が認められる行為類型の制限的列挙、(3)懲罰的損害賠償が認められるための条件に関する立証責任の厳格化について、連邦レベルで立法化することを求める。

Z.電気通信

電気通信分野においては、ネットワークのブロードバンド化・IP 化を含む構造変化と、それに伴う電気通信市場の環境変化のスピードが速く、それに対応した規制・政策が必要である。

日本国政府としては、日本の事業者を含む全ての事業者に対する公平な参入機会及び予見可能性の確保と、透明で公正な規則及び政策の策定・実施が、電気通信分野における一層の技術革新、投資及び競争の促進につながるとともに、日米両国の消費者の利益の保護に資するものと考えている。

こうした観点から、日本国政府はこれまでの規制改革イニシアティブの下での対話において米国政府に改善を求めてきたが、未だ米国側より十分な対応が得られていない。これに加え、技術革新及び市場構造の変化がもたらす新たな課題に対する迅速な対応は米国においてもますます必要性が高まっていると考える。

以上の認識に基づき、日本国政府は、米国政府に対し、以下を求める。

1.参入障壁の撤廃

(1)無線局免許に関する外資規制

米国は、連邦通信法第310 条(b)(3)において、外国による無線局免許における直接投資については20%の規制を維持している。このため、例えば、日本の事業者が衛星を利用した米国との通信サービスを提供するにあたり、米国に設置された地球局の無線局免許を取得しようとしても不可能であり、柔軟なネットワーク構築が困難となっている。

また、外国による間接投資については、同条(b)(4)において、25%の規制を維持しており、外国資本参入に関する米国連邦通信委員会(FCC)規則(1997 年11 月25 日、FCC97-398)において、WTO 加盟国からの投資は25%を超える場合でも公共の利益にかなうとの反証可能な推定を行うとしているものの、未だ米国政府による規制の撤廃の実現には至っていない。

ついては、日本国政府は、米国政府に対し、連邦通信法第310 条に掲げられた電気通信業務を行うことを目的として開設する無線局免許について、以下の諸点を求める。

(a)外国直接投資規制を撤廃すること。

(b)外国による間接投資規制を完全に撤廃すること。

(c)米国政府はこの規制の撤廃又は改善に向けたなんらかの作業を議会との間で行っているのか、また、その具体的内容について、日本国政府に対し適切な情報提供を行うこと。

(2)外国事業者等の米国市場参入に関する審査基準

連邦通信法第214 条及び第310条(b)(4)に関する外国事業者等の米国市場参入に当たっての審査基準(1997 年11 月25 日、FCC97-398、FCC97-399)のうち、「通商上の懸念」及び「外交政策」の基準は、電気通信政策とは別次元の理由に基づくものであり、かつ、基準自体が不明確なものである。にもかかわらず、この基準に基づき認証や免許付与の拒否が可能となっており、外国事業者等が米国市場に参入する際の重大な参入障壁になっている。また、「競争に対する非常に高い危険」という基準に該当する場合にも免許を付与しないことが可能となっているが、この基準も極めて曖昧なものであり、外国電気通信事業者の事業計画の予見可能性を損なうものである。

ついては、日本国政府は、米国政府に対し、この規制に関し以下の諸点を求める。

(a)「通商上の懸念」及び「外交政策」という電気通信政策に関わらない事項に基づいた事前審査基準を速やかに撤廃することにより、外国事業者が米国市場に参入できる機会を確保すること。

(b)「競争に対する非常に高い危険」という基準については、次善の策として、発動に当たっての運用基準を明確にし、公表することにより、事業者にとっての予見可能性を向上させること。

(c)また、連邦通信法第11 条に規定されている規則の隔年の見直しにおいて、FCC が本件規制の撤廃又は改善に向けた具体的な提言を行うこと。

2.ブロードバンド時代の規制改革

米国政府は、ブロードバンドの恩恵を消費者に行きわたらせ、ネットワークのIP 化など通信市場の構造変化に対応するため、競争政策の見直しをはじめ、様々な規制改革や新たな政策を実施・模索している。このような動きは、規制当局による現行連邦通信法の範囲内でのアンバンドル規則や新サービスへの規制の枠組みの改定・決定の取り組みと、立法府による連邦通信法改正の動きの双方を含むものと理解する。このような改革は適切に行われれば、広く消費者の利益に資すると考えるが、一方、日本国政府は、米国政府に対し、その過程で、あるいは結果として、競争、技術中立性、消費者の利益、参入の自由を阻害しないことを確保するよう求める。

優先的な要望事項は以下のとおりである。

(1)米国は、他の主要国と異なり、連邦通信法において、「電気通信サービス」であれば回線開放義務、ユニバーサルサービス基金の負担、料金規制等の対象とし、「情報サービス」であればこれらの規制の対象外とする区分を行っているが、技術の発展に伴い当該サービスの区分があいまいになっている。例えば、ブロードバンド化・IP 化に伴い、IP 電話など新しいサービスが次々に登場しているが、これらのサービスについては、FCC が個別のサービス毎にどちらのサービス区分に当たるか、どのような規制の対象になるかの判断を行っているのが実情と理解する。

このような状況に関連して、日本国政府は、米国政府に対し、以下の諸点を求める。

(a)どのようなサービスがどちらのサービス区分に分類され、いかなる規制が課されるかについて首尾一貫した基準を示すことにより、サービス提供事業者の予見可能性を確保すること。

(b)連邦通信法が電気通信サービスと情報サービスの二分法を採用することにより、ボトルネック性や市場支配力の有無などに即した適切かつ合理的な規制の実施が損なわれることの無いよう確保すること。

(c)現行の連邦通信法の枠組み下において(a)と(b)の双方の要望を同時に満たすことができない場合には、連邦通信法の改正の過程で現在のサービス区分の二分法の見直しを検討すること。

(2)ネットワークのIP 化が進展することにより、サービス提供機能の分離が進み、特定のサービスのみを提供する等の新たなビジネス・モデルが登場してきている。また、映像・音声・データを一括して提供するトリプルプレーなど、ネットワークの管理からコンテンツやアプリケーションまでを一社で完結して提供するような垂直統合的なサービスが普及しつつある。こうした現状を踏まえ、日本国政府は、米国政府に対し、公正な競争を促進する観点から、例えばボトルネック設備を保有していることに伴う市場優位性を活用するなどのレイヤー横断的な独占力の行使により、消費者が不利益を被ることがないよう留意するよう求める。

とりわけ、8 月にFCC が採択した政策文書(2005 年8 月5 日、FCC 05-151)にもある通り、消費者がどのブロードバンド・サービス・プロバイダからサービスを受けようとも、ネットワークに悪影響を与えない限り、(a)いかなる合法的端末機器も利用できること、(b)いかなる合法的な映像や音楽などのコンテンツにもアクセスできること、(c)いかなるアプリケーションも選択できること、を確保し、消費者の選択可能性を広げるための具体的措置を取るよう求める。

(3)連邦通信法第706 条では、定期的な調査により、高度電気通信性能を合理的かつ時宜に適した方法で全ての米国人に提供されているかどうかを判断しなければならない、と規定されている。そのような「合理的かつ時宜に適した方法による判断」を行うに足る十分なデータの収集と分析が行われ、公表されることにより、ブロードバンド等についての規制見直しの透明性を高めることを求める。

とりわけ、以下の点を求める。

(a)十分な調査に基づいて市場画定を行い、レイヤー横断的な独占力の行使の有無も含めた競争評価を実施しその結果を公表すること。

(b)ブロードバンド・インフラへの投資インセンティブを損なわないという観点からの規制の見直しに関しては、(i)そのような見直しにより通信事業者の投資インセンティブが確保され、実際に投資が行われているどうか、(ii)投資インセンティブの確保を重視するあまり、中小の通信事業者の市場参入を妨げるなど競争阻害的な市場環境が生み出されていないか、について、計量的なデータに基づく政策評価を定期的に行い、その結果を公表すること。

3.デジタルテレビ方式への変換過程における端末機器の競争市場

デジタルテレビへの変換を進めていく過程で、消費者の需要に即したサービスが提供されるためには、端末機器市場において新規参入と十分な競争が確保されることが特に重要である。

連邦通信法第629 条においては、多チャンネル・ビデオ番組の配信を受けるために利用するコンバーター・ボックス等の装置を、多チャンネル・ビデオ番組配信事業者の関連企業体ではない製造業者等から入手できることを保証することが規定されている。日本国政府は、米国政府に対し、デジタルテレビ方式への変換過程、及び連邦通信法改正過程においても、端末機器市場において消費者の利益が確保されるべく、引き続き当該規定を維持し、着実に執行するよう求める。

4.不合理な負担軽減のための規制の統一

(1)州レベルの規制

米国では、連邦機関において決定される通信に関する各種規制の運用の多くが各州の判断に委ねられているが、州レベルでの運用の違いが広域通信事業の障害となる場合がある。ついては、FCC が、新たに設立された組織である「政府間問題担当室」により、全米レベルでの通信に関する規制やその改正ついて、州レベルでの運用が迅速かつ効率的に行われるよう検討を進め、事業者の広域事業の円滑な運営を確保するよう求める。

具体的には、米国では、事業者に対して、サービスを行っている州の政府への収益実績等の報告が義務付けられているが、その報告様式は州ごとに異なっている。多数州にまたがる事業を展開している事業者が、それらすべての州政府に対してそれぞれ異なる様式による報告を行うことは、事業者にとって過度の負担となっている。

ついては、日本国政府は、米国政府に対し、以下の点を求める。

(a)米国政府から全米公益事業委員協会(NARUC)に対し、引き続き本件に係る日本国政府の問題意識を伝えるとともに、NARUC が成果を挙げるよう具体的な働きかけを行うこと。

(b)米国政府がNARUC での作業状況や今後の改善見通しについて、日本国政府に適切に情報提供を行う求めること。

(2)アクセス・チャージ

現在、米国には、接続事業者等によって、市内相互補償料金、州内アクセス・チャージ、州際アクセス・チャージの3 つの異なる接続料が存在する。日本国政府は、米国政府に対し、現在行われているアクセス・チャージ制度の改革に係る規則制定に関する意見招請(NPRM)の手続きを透明に行い、統一的事業者間精算制度を確立し、異なる接続料間の格差を解消することを求める。

個別の接続料に関する要望事項は以下のとおりである。

(a)州際アクセス・チャージ

州際アクセス・チャージは事業者間のいわゆる「コールズ合意」に基づき料金が決定されており、当該料金は全要素長期増分費用(TELRIC)に基づいて計算された料金を下回っていることとされているが、その比較の対象となるTELRIC モデルの算定値が明らかにされていないため、コールズ合意の料金の妥当性を検証することが不可能である。ついては、モデルの詳細及び具体的な算定値を明らかにし、不透明な手続を改めるよう求める。

(b) 州内市外アクセス・チャージ

地域単位(LATA)間の接続料は、FCC 規則に基づくTELRIC 方式により算定され、各州公益事業委員会によって認可される。この算定の際に用いられるTELRIC モデルについての情報が明らかにされていないため、当該料金の妥当性を検証することが不可能となっている。

ついては、米国政府が、各州公益事業委員会に対し、接続料を認可する際には、TELRIC に関する情報を開示し、許可の透明性を確保するよう働きかけることを求める。

(c)市内相互補償料

市内相互補償料金については、TELRIC に基づく算定方法以外の方法の使用、及び事業者間交渉による柔軟な運用が可能であることを改めて認識し、当該料金は通常の接続料とは異なるものであることを確認するよう求める。

5.アンバンドル・ネットワーク要素(UNE)規制の策定

米国では、既存地域電話会社(ILEC)の回線開放義務について「3 年ごとの見直し」(2003年8 月21 日、FCC 03-36)に従い、ルール改正が行われたところであるが、引き続き連邦通信法第271 条のベル系地域通信事業者(RBOCs)の長距離通信市場への参入条件としてのアンバンドル義務についての見直しが進行中であると理解する。

連邦通信法第271 条のアンバンドル義務については、その価格水準や、有線ブロードバンド・アクセス・サービスが情報サービスに区分された事による影響などが未知数である。今後とも、予見可能性を最大限確保しつつ、各業界からの意見招請を踏まえ、新規参入事業者及び最終消費者への負担を十分に配慮した上で当該アンバンドル義務の全体像を早期に明らかにすることを求める。

6.商用衛星に係る輸出許可及び技術支援(TAA)許可等の処理手続き

(1)ペーパーレス・システムに係る情報提供の継続

商用衛星の輸出許可及び技術情報移転に係る米国政府による一連の審査について、許可事務を行う米国国務省の国際貿易管理局が、申請処理時間の短縮につながる電子的な「ペーパーレスの」許可システムの構築を完了したことを歓迎する。日本国政府は、米国政府に対し、新しいシステムによる許可手続の期間短縮等の改善状況について、日本国政府に対する情報提供を継続するよう求める。

(2)迅速な手続及び透明性の確保

商用通信衛星の輸出許可及び技術支援(TAA)許可について、米国政府が定める開示基準や審査基準があいまいであることから、衛星メーカーが自身のリスクで情報開示せず、その結果、本来申請不要な情報についても審査に持ち込む等の理由により、許可取得までに長期間を要している。また、衛星通信事業者が不可欠とする試験手順書や品質非適合調査書、組立や試験中に生じた不具合の記録等の情報が得られておらず、取得可能な技術情報量が十分とはいえない状況にある。さらに、審査により必要な情報が不開示となることによる不利益を緩和するための追加的な費用が必要となっている等、日本の衛星通信事業者の事業遂行上、将来にわたる懸念をもたらしている。

ついては、日本国政府は、米国政府に対し、米国の法律、規則及び政策に従って、手続きの遅れを最小化し、輸出許可及びTAA 許可の審査について透明性を最大化する努力を継続するとともに、不開示となる項目を必要最小限にすることを求める。

さらに、衛星メーカー等が畏縮効果により開示可能な情報まで開示しないことを防ぐため、開示・非開示の検討の対象になると思われる情報については、米国政府が開示できる情報をできるだけ特定・例示し、開示・非開示のガイドラインを作成する等の措置を早急に取ることを求める。

(3)公正な調達条件の確保

日本国政府は、米国衛星通信事業者が衛星を購入する際、米国政府が課す情報開示規制のため入札関連文書の入手が遅れるなど、日本のメーカーが競争上不利な立場に置かれるのではないかとの懸念を有する。日本国政府は、米国政府に対し、衛星通信事業者の物品調達における公正な競争確保に配慮するよう求める。

[.情報技術

インターネットの普及、デジタル技術の発展により、さまざまな新たな課題が発生し、これらに対応する新たな取り組みが必要となっている。

米国は情報技術先進国であるが、著作権の保護の取り組みにおいて、不十分または不適切と考えられる点を改善し、権利の確実な保護や制度の適切な執行を行うよう求める。

また、情報技術の発達による知的財産権の侵害や迷惑メール対策に対しては、日米両国が国際的な取り組みを率先していく必要があり、日本国政府は、米国政府に対し、この分野において日本国政府と一層緊密に協力していくことを求める。

個別の要望は以下のとおりである。

1.模倣品・海賊版対策に係る協力

模倣品・海賊版対策に関する国際的なルール作りとして日本が提案し、G8間でも議論されている模倣品・海賊版の拡散を防止するための条約については、日本国政府は、米国政府に対し、実現に向けた協力を求める。また、アジア太平洋経済協力(APEC)において日米韓で共同提案し、2005年6月に合意された模倣品・海賊版対策イニシアティブについては、同年11月の閣僚会議で合意されたモデルガイドラインにおいて今後更に発展させていくこととされた要素等を含め、引き続き協力していくことを求める。

また、デジタルコンテンツの海賊版対策に係る協力促進のあり方について、規制改革イニシアティブの枠組の下、両国間で探求及び検討することを求める。特に、アジア地域等における海賊版対策の協力の在り方について、日米二国間での検討を進め、産業界と調整しつつ、知的財産の重要性について侵害発生国における理解を深めるためのシンポジウムやセミナーの開催、両国の取組に関する情報交換など具体的な方策を探っていくことを希望する。その具体的な例として、東京セミナーへ、米国の専門家の招へいを行いたい。また、各種民間団体が行う海賊版摘発に対し、両国の政府が積極的に協力することを提案する。

2.著作権・著作隣接権の保護

インターネットの普及、デジタル技術の発展により、著作物が国境を超えて自由に流通するようになった現在、国際的に調和のとれた著作権・著作隣接権の保護が必要となっている。この状況に対応するため、現在、世界知的所有権機関(WIPO)等において、デジタル化・ネットワーク化時代に対応するための各種国際ルールの策定が行われている。これらの議論の進展に資するよう、日本国政府は、米国政府に対し、米国において必ずしも保護が十分とはいいがたい権利(利用可能化権、生の実演に係る権利、固定されていない著作物に係る権利、著作者及び実演家の人格権及びビデオ・ゲームに係る貸与権の保護)を、明確かつ確実に保護することを求める。

3.デジタル・ミレニアム著作権法に関わる権利の適正な保護

米国著作権法においては、1998 年のデジタル・ミレニアム著作権法(DMCA)によって追加された第512 条(h)において、著作権侵害があった場合、インターネット・サービス・プロバイダー(ISP)は、一定の条件のもとで、当該侵害者を特定することが可能な程度の情報を開示することを要求する文書提出命令に従う義務を負っている。

しかしながら、この文書提出命令許可の際、裁判所は権利者が提出する文書の外形的な審査のみを行い、権利侵害の有無については審査を行っていない。さらに、当該手続においては発信者が意見を表明する機会も存在しておらず、権利侵害者と目される発信者側の権利が軽んじられている可能性がある。

ついては、日本国政府は、米国政府に対し、以下の点を求める。

(1)DMCA 第512 条(h)における発信者情報の開示に関わるISP への文書提出命令許可の手続について、発信者側の意見表明の機会の確保等を通じて、著作権保護と発信者のプライバシーや表現の自由の保護とのバランスの取れた制度が確保されること。

(2)これに関連して、米国政府のこの分野における取組について、日本国政府に適切に情報提供を行うこと。

4.デジタル・ネットワーク化への対応

インターネットの普及、デジタル技術の発展により発生した、著作権をめぐる新たな課題への取組みについて、日本国政府は、米国政府に対し、規制緩和に向けた情報交換を積極的に行い、円滑な技術開発、消費者の利便性を配慮しつつ、将来の著作権制度のあり方について両国間で探求及び検討することを求める。例えば、米国著作権法第1201 条に規定されているアクセス行為規制、日米両国の民間レベルで推進している不正コピーや不正流出を防ぐ暗号化処理といったデジタル・コンテンツの著作権を管理する制度や、その保護のための技術的手段について、情報交換を行うことを求める。

5.SPAM対策

迷惑メールは、情報通信技術(ICT)分野における世界的な問題となっているが、米国は、世界最大級の迷惑メール発信国と認識している。

日本国政府は、米国政府に対し、CAN-SPAM 法の厳正な執行や民間企業による技術的な対策の支援、諸外国政府等との国際連携など、総合的な迷惑メール対策を一層推進するとともに、迷惑メール問題の解決策について、引き続き両国間で探求及び検討を進めることを求める。

\. 医療機器・医薬品

近年、世界的な売上高で上位を占める日本発の医薬品の品目数が増加しているなど、日本の医薬品・医療機器産業は積極的に海外展開を進めている。これに伴い、米国における関連規制の透明性を高め、またその適正な実施を促すことが企業の重大な関心事項となっている。このため、日本国政府は、米国政府に対し、日本の企業が直面した問題点に関する改善を引き続き求める。

また、米国政府が、日本の企業及び業界団体との対話を行う十分な機会を設け、双方の意思の疎通を図り、日本の企業が開発した医薬品や医療機器が米国市場に円滑に導入されることが、米国の患者を含めた日米双方にとって有益であると確信する。

個別の要望は以下のとおりである。

1. 在米日本企業との定期会合

米国における医療機器・医薬品の規制等に関して、日本国政府は、米国政府に対し、日本の業界を含む在米外国製薬業界及び医療機器業界と米国連邦食品医薬品庁(FDA)との継続的な意見交換の場を提供することを求める。

なお、日本の業界が米国を訪問した場合にも積極的に同様の意見交換の場を提供し、適切な専門の担当官との意見交換が行われることを確保することもあわせて求める。

2. 世界同時開発の推進

米国の製薬企業が日本で申請する新薬については、米国での開発・申請が先行し、数年遅れて日本での開発・申請が行われるケースが多い。よりよい医薬品をより早く患者の手元に届ける必要性及び製薬企業の社会的責務の観点から、日本国政府は、米国政府に対して、米国の製薬企業が、日本を含む世界同時開発を行うことを推進するよう求める。

3.FDA 査察方針の明示

FDA は、日本国内の工場における査察について、生産工場の品質管理システムが機能しているかを検証する際、日本向け製品など米国向け以外の製品についても詳細な査察を行っている。

米国と日本では、品質管理規則(GMP)や品質管理上で要求される事が異なる部分も多々あるため、FDA が、今後もこのような方針で査察をするのであれば、企業側の対応が出来るようFDA の査察方針について合理的な理由とともに明示するよう求める。

4.治験相談実施期間の遵守

米国における医療機器の臨床開発を開始するにあたっての治験相談が、治験医療機器の適用免除(IDE)の方針及び手続きに関するガイダンスに定められた期間以上にかかるケースがあるので、日本国政府は、米国政府に対し、当該ガイダンスの遵守を求める。

5.医療機器のクラス分類の明確化

米国医療機器規制における医療機器のクラス分類は「連邦規則第21 編第860 部」(21 CFR Part860)に明記され、定期的な見直しも行われているが、付属品類についてまでの分類は明確にされていない。そのため、付属品類のクラス分類が医療機器本体のクラス分類と同レベルの高い分類とされ、過剰な規制となっている。日本国政府は、米国政府に対し、付属品類のクラス分類について判断基準を明確にするとともに、付属品類については製造業者側でのクラス分類の自己判断を可能とするよう求める。

6.市販前届出申請の第三者審査機関による審査の迅速化

医療機器の市販前届出申請(510(k)申請)に対する審査に関し、FDA は相対的にリスクの低い医療機器や市場実績のある医療機器については第三者審査機関による審査を可能としている。また、第三者審査機関による審査の終了後のFDA による審査期間については、30 日ルールを適用して迅速審査をFDA 自ら義務付け、審査期間短縮に努力している。しかし第三者審査機関による審査期間に関しては規定がないため、第三者審査機関による審査期間のばらつきが大きいこと、また第三者審査機関が申請資料を受領してから実際の審査開始までの待ち時間が長く、企業がこの制度の目指す利点を享受できないでいる。日本国政府は、米国政府に対し、第三者審査機関による審査期間を規定することにより、迅速化するよう求める。

7.超音波内視鏡の510(k)申請時の超音波出力データ

診断用超音波システム及び変換器の市販の認可を受けようとする製造者に対しては、米政府によるガイダンスが出されているが、これは、体外から超音波を発する超音波診断装置の人体への安全性を配慮して作成されたものである。しかし、体内から遥かに出力の小さい超音波を発する超音波内視鏡の510(k)申請についても、このガイダンスへの適合が要求されている。その結果、非常に多くの種類の超音波内視鏡がプロセッサーと組み合わせて使用される超音波内視鏡システムについて、その全ての組み合わせによる超音波出力のデータ提出が要求されており、申請者にとって大きな負担となっている。日本国政府は、米国政府に対し、申請負担の軽減の観点から、米国政府に対し、超音波内視鏡の510(k)申請書に添付するデータは、代表的なもの(例えば、理論的に最も超音波出力が大きくなると想定される組み合わせに関するデータ)のみで申請可能なように、ガイダンスの見直しまたは運用面での見直しを求める。

8.申請区分の明確化

医療機器の市販前承認(PMA)取得後の変更申請には種々の申請区分があり、費用や審査期間が異なっているが、その申請区分の判断基準が不明確であるため申請者の予算や計画に影響が生じている。このため、日本国政府は、米国政府に対し、申請区分の明確化を求める。

X.金融サービス

日本国政府は、緊密なる日米経済関係をさらに発展させていくために、金融サービス分野に関して、米国における日本の金融サービス提供者の市場アクセスを改善し、両国間の経済活動を一層促進していくことが重要であると認識している。

金融サービス分野については、財務金融対話を含めた各種協議を通じて、米国政府との議論を継続してきているが、米国には、依然として、日本の金融サービス提供者が活動する上での障害となる規制が複数存在している。日本国政府は、米国政府に対し、それらの規制についての緩和および撤廃を求める。

個別の要望は以下のとおりである。

1.企業再編時の登録要件

前回の要望書において、日本国政府は、1933 年証券法規則145 条の撤廃、又は要件の緩和を要望した。当該規定は、企業の再編に伴う新株の交付により、米国居住者が被買収企業の総発行株式の10%超を保有することとなる場合、買収企業に対し、米国会計基準に基づく財務諸表を含む登録届出書を米国証券取引委員会(SEC)へ提出する義務を課している。しかし、この規定は、米国外で非米国企業との企業再編の為の合併により新株を発行した非米国企業に対しても適用されている。

前回の報告書において、米国政府は、当該規則を採用する際、SEC が登録免除の目的と投資家保護の公益にとって望ましく適切な米国居住者の持株比率の水準を注意深く検討したこと、相反する規制上の義務や募集慣行に対応する、より外国企業向けに整備された救済策を採用したこと、企業買収により米国居住者の持株比率が10%超となった外国企業がSEC に具体的に懸念を提起するよう勧めること、を回答した。

しかし、これまで米国会計基準に基づき財務諸表の開示を一度も行ったことがなく、日本企業との合併により企業再編をした日本企業にとって、単に米国居住者である株主の持株比率が10%超となったことを理由としてこの規定が適用されることは、米国の投資家保護の必要性を考慮しても、明らかに過大に重い負担である。この意見の根拠として、我が国の法令では、非日本企業が他の非日本企業との合併等の企業再編により新株を発行した結果、日本の居住者の持株比率が10%を超えた場合、当該企業に対して日本の会計基準に基づき財務諸表を開示する義務も、有価証券の募集・売出しに係る金融当局への登録を義務付ける規制もない。

したがって、日本国政府は、米国政府に対し、再度、米国政府に対し、外国企業に適用される当該登録届出義務の撤廃を求める。

2.外国投資信託商品の販売に係る規制

前回の要望書において、日本国政府は、1940 年投資会社法第7 条d(SEC による当該投資信託の投資会社としての登録を認める命令の発動)及び当該規定の関連規則「SEC 規則7d-1(登録許可命令を要請するカナダ経営投資会社のための条件及び措置の特定)」を米国で公募するカナダ以外の国の投資信託に適用しないこと、または下記の3つの要件を廃止することを要請した。

(1)投資信託の役員のうち、少なくとも過半数が米国民であり、米国居住者であること。

(2)投資信託の全ての資産が米国内において米国の銀行に保管されること。

(3)投資信託が米国の公認会計士を使用すること。

日本国政府は、当該規定が、未だカナダ以外の外国投資信託にも適用され、外国投資信託に過重な負担を課し、実質的に米国投資信託市場への参入を制限していると認識している。

前回の報告書において、米国政府は、SEC が当該規定に基づく命令を5か国(カナダ、豪州、バミューダ、南アフリカ、英国)の投資信託に発出した例があること、当該規則の適用除外を付与した例が1件(カナダ)あること、今後SEC が外国投資信託からの命令申請を検討する用意があることを回答した。

しかし、日本国政府は、これらの事例が、1950 年代半ばから1970 年代初頭にかけて発出された数少ない例外措置に過ぎず、実際には、過去の申請者のほとんどは、そのような命令や適用除外を付与されなかったと承知している。日本国政府にとって、このような数少ない例外をもって、米国政府が外国投資信託に対する米国市場への参入の機会を十分確保していると理解することは困難である。また、SEC が外国投資信託からの命令申請を今後検討する用意があるとした回答を踏まえても、日本国政府は、米国政府が当該規定の外国投資信託への適用除外措置の必要性を十分理解したと解釈することは困難である。

更に、特に本条に基づき命令を発出する為の要件のうち、上記3要件を全て満たすことも、特に米国から地理的に遠い外国の投資信託にとって、これに要するコストの観点から、非常に重い負担である。

したがって、日本国政府は、再度、同条項を、日本の投資信託に適用しないこと、又は命令を発出する要件のうち、少なくとも当該3要件を撤廃するよう、求める。

3.金融持株会社の資格要件

米国内で外国銀行が子会社を通じて株式・社債の引受等、米国証券会社と同等レベルの証券業務を行うためには、親会社である銀行が金融持株会社の資格を取得する必要がある。この場合、外国銀行が資本及び経営管理に関して米国の銀行に匹敵するか否かを判断する際の要因の一つして、「公的資金の資本注入の有無」が勘案される。この条件により、公的資金の資本注入を受けている日本の銀行にとって、金融持株会社の資格を得ることが依然困難な状況が続いており、日本の銀行の証券子会社は、実質的にその米国における業務の範囲を制限されている。

前回の要望書において、日本国政府は、本件規制の廃止を要望したが、前回の報告書において、米国政府は、当該審査基準は資本の同等性を決定する上で考慮される数々の要素の一つであり、単一の決定要件ではないこと、また、米国の銀行持株会社傘下の銀行子会社に適用される基準と同等の基準が外国銀行に対しても適用されること、を回答した。

日本の銀行における不良債権問題は収束しつつあり、その財務内容は2〜3年前に比べると格段に改善されている。このような現状に鑑み、日本国政府は、米国政府に対し、公的資金の資本注入の有無に関わらず、日本の銀行が金融持株会社の資格を受けることができるよう求める。

4.外国投資信託による新規公開株投資規制の緩和

全米証券業協会(NASD)規則2790 では、会員及び会員と関係のある者による、下記の取引を禁止している。

・「制限された者(会員、その他の証券ブローカー、ディーラー、ポートフォリオ・マネージャー等)」が受益者となる口座への新規公開株式の売却・当該会員及び会員と関係のある者が受益者となる口座での当該株式の購入この規則は、当該禁止規制を外国投資信託に適用しない条件として、下記の2点を挙げている。

(1)当該外国投資信託が外国の取引所に上場されていること、又は一般投資家に販売する為の当局からの認可を得ていること。

(2)当該外国投資信託の総額の5%以上を保有する投資家の中に「制限された者」がいないこと。

しかし、通常、日本の証券業務では、投資信託業者に投資信託の国内投資家への販売を委託された証券会社や銀行が当該投資信託の保有者に関する情報を有しており、当該販売を委託した投資信託業者は当該情報を有していないこと、また、当該証券会社や銀行にとっても、当該投資信託が上記条件(2)を常に満たしているかどうかを確認することは、投資家の数が膨大であることから煩雑を極め、非常に困難である。この結果、日本の投資信託が、資金運用の一環として米国で新規公開株式に投資することができない状況となっている。

したがって、日本国政府は、米国政府に対し、「制限された者」に出資持分を販売し、彼らの利益となるよう新規公開株式を取引することを意図しない日本の投資信託が、当該株式へ投資することが可能となるよう必要な措置をとることを求める。