趣味Web 小説 2003-09-08

ARTIFACTのTrackBack 4

システムは慣習や規範とセットです。あなたはほかの件でも、あたかもそういうシステムに実装的に可能なことと、理念的、慣習的に許容されていることを混同している。実装的に可能でそのことを実装レベルで不可能にしていないということは、かならずしも慣習的理念的にそういうことをしていいとみなされていることにはならない。

基本的に、このレベルで私とjounoさんは意見を異にするわけです。私は慣習や規範を他人に守らせたければ、システムで対処するしかないと考えています。無断リンクを禁止したければ、サーバをあれこれ設定しなければならないし、殺人を抑制したければ刑法やら警察力やらを整備しなければならない。

システムを深く理解し自分で変更を加えることができる人は少数でしかなく、大多数の人にとってはシステムは与えられたものをいかに活用するかが問題となっています。そうしたシステムを利用する立場からいえば、まさに「まずシステムありき」なのです。システムは、現代に残された唯一の、ひとつの思想を注入することができる手段です。(それは言い過ぎ)

誰もがjounoさんのおっしゃるようなTrackBackの文化をもっているわけではなく、また賛同するわけでもありません。現にblogツールの使用歴の長い加野瀬さんさえreferやサイト巡回から、関連があると思ったページを見つけた時、TrackBackをメモ代わりに使っていました。ひとつの慣習や理念が人々に共有されているという状態は、WWWに公開された場では幻想でしかありません。

ひとつの慣習や理念に基づく行動を、例えば99%以上の人に強制するためにはシステム的な対処をする他ないのです。100%完璧に、というと非常に大変(ふつうは無理)ですから、実際問題としては過半数、80%、95%といたあたりに状況に応じて目標を設定して、対処することになりましょう。(「殺人を100%止めるため、全国民を牢につなぐシステムを構築しよう」とはならない。全国民の指紋を登録しようという意見さえ出ない。目的はある程度まで達成できれば御の字なのです)

ARTIFACTのTrackBack登録フォームは、誰もが勝手に匿名でTrackBackを登録できることをあからさまに体現しています。あれを見れば、少なくともARTIFACTに登録されたTrackBackを、短絡的に著者に登録されたものと考えるべきでないことはすぐにわかります。わからない人がいるなら、その人がバカなのです。もしバカな人が日本では多いのだとしたら、日本のメディアリテラシーはまだまだですね、と私は書きました。

例えば、同じ「掲示板」といっても、IPとリモートホストが強制的に表示される掲示板と2chでは世界観が異なります。どちらも掲示板には違いないからといって、ひとつの掲示板文化・慣習・理念を両方の利用者に求めることができるでしょうか? (IPとリモートホストが強制的に表示される掲示板も、本質的には2chと変わらないことに注意。ここでは表面的な違いが重要なのです)

jounoさんはTrackBackが登録者を認証しないことをご存知だったけれども、ARTIFACTでは第3者がTrackBackを送る可能性がとくに高いことを見抜けなかったのでしょう。だから驚いたのではありませんか。TrackBackの技術仕様書に登録者認証は規定されていないから、基本的にどんなTrackBackでも「なりすまし」(という言い方自体を私は批判しているわけですが、一応)は可能だけれども、表面的な実装の仕組み次第で「なりすまし」の出現率は大きく上下します。ARTIFACTでは明らかに「なりすまし」の出現率が高いことが予想されます。そうである以上、jounoさんの驚きに私は共感できません。2chで、IPとリモートホストが強制表示される掲示板と同様の文化を期待するのは馬鹿げている、それと同じことだといいたいのです。

TrackBackはTrackBackだ、これまでのTrackBackにはこういう文化があったのだから、それに配慮すべきなんだ、というようなjounoさんの意見には賛同しません。後発であれ2chは2chであるように、ARTIFACTのTrackBack登録フォームを見れば、新しい使い方、使われ方がそこに提案されていることは明らかです。加野瀬さんにその意図があろうとなかろうと、システムが雄弁に主張しているのです。

これまでたまたま、著者以外がTrackBackを送る方法が一般人から見て隠蔽されたシステムが普通だったから、jounoさんがおっしゃるような文化しか存在しなかったのでしょう。ARTIFACT型の、登録者の匿名性が一般人にも理解できる登録フォームが数を増やしていけば、当然、新しい文化が生じます。はからずも加野瀬さんやishinaoさんは、既にjounoさんのいう文化に反するTrackBackの使い方をなさっていました。著者以外が登録するTrackBackに、ニーズがあったということです。だから、今後どんどん、ARTIFACT型のTrackBack実装が広まる可能性はありますよ。

ARTIFACT型のTrackBack実装は、技術先導の需要開拓につながる可能性があります。既にその萌芽はあると思う。単なる登録フォームの見せ方の問題ですが、匿名掲示板が投稿者の情報を隠すだけで新しい需要を生み出したように、技術的には取るに足らない違いであっても、文化的には重要な違いを生み出しうるのです。

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