提言騒動 何が問題か

勘違いネットマナーと同人世界

かの有名な勘違いネットマナーサイトの総本山「毒吐きネットマナー」は、同人世界がWWWに生み落とした最大の害悪のひとつです。この同人世界のローカルルールを色濃く反映したネットマナーサイトの過大な影響力には、多勢が嫌な思いをさせられてきました。だから提言騒動について、私は言及しておきたい。いや、それと提言騒動は関係ないし、と思うのは甘い。

勘違いネットマナーサイトの根っこにあるのは、「他人を傷つけるのは嫌」「他人に傷つけられるのも嫌」という、平和主義を最優先して他人の自由を著しく制限しようという思想です。無断リンクや表紙以外へのリンクは「管理人さんが嫌がるからダメ」。ちょっとあれこれ意見されると、批判禁止だの、私はショックを受けましただの……。今回の提言騒動では、実際に「被害」が出ていることが過大視されています。ではその実態は、というと苦笑する他ない。被害報告を全部読んでみても、要するに勘違いで「パクりだ!」といってくる連中がたくさん現れた、というだけなのです。にもかかわらず「精神的ダメージが」「ひどい」などといっている。

「パクりだ!」というのは相手の勘違いなのだから、ちゃんと反論して誤りを正せばいいだけの話に過ぎない。反論してもわかってくれない、という意見が多いけれども、相手を「電波」といって自分の責任をすっかり棚上げするのはどうなのか。先発優先という意見には深く納得した「電波」を、なぜあなたは説得できないのか? 先発優先というロジックを覆すだけのロジックをもち得ないあなたの能力不足を、少しは反省したらどうなのか? 私にいわせれば、「被害」は本質的には被害ではありません。ありうるリスクが、今、顕在化しただけのことなのです。妙な批判がワーッと襲来して、それにあっさり負けてしまうのは、自己責任の問題です。

そうではない、というならば、あの毒吐きネットマナーがなぜのうのうと生き延びているのでしょうか? 私など、毒吐きネットマナーを引き合いに出されて、既に数回も理の通らない批難をされてきたのです。無断リンク禁止、無断引用禁止、もっとマナーを勉強しろ、お前に発言する資格はない……。毒吐きネットマナーは、自ら全体として間違っていますと認めているからいい、というわけですか。しかし現に信者は多く、方々のサイトに今日も「被害」を与え続けています。この最悪の勘違いネットマナーサイトを長年放置していた方々が、提言騒動では急に目が覚めて、「この意見のおかしいことは明白です」といって提言者たちを謝罪させ、何が何でも改心させ、云々という行動に出ています。

著作物の公開権の侵害? ただメールで取り下げろというだけで法に触れるなら、マナー違反だから該当の記述を削除せよ、みたいなことをいってくる連中も公開権を侵害しています。さあ、勘違いネットマナーサイトもさっさと潰してください。

先発優先思想の根深さ

騒動収拾のために今、多勢が動いています。しかしその現場には絶対に自説が正しいと信じる方々が集まっていて、間違った意見は「言わせないぞ」の風潮となっていて嘆かわしい限りです。「いうのは勝手、でも間違った意見には反論します」それでなぜ満足できないのでしょうか。

先発優先という考え方が「電波」に浸透したのは、それがまさに「電波」の価値観を代弁するものだったからです。私はWebデザインアドバイスをする中で、とくに中学生女子の運営する素材屋サイト同士でよくパクり問題が浮上することを知りました。その様子を観察していると、多くの場合、先発優先思想に添って決着が図られていったことを覚えています。先発優先思想は昔からあって、ある種の人々にとっては自明でさえあるものでした。そういう価値観を持った人々がたくさんいるという土壌があって、今回の騒動につながっているのです。

今、先発優先思想に賛成する人(電波)と反対する人(2ちゃんねらーたち)がいるわけです。反対派は賛成派をまともに説得することをもはや半ば諦めていて、先発優先思想を明文化した人たちをメチャクチャに叩いている。言い出しっぺが反省し、意見を変えれば、先発優先思想は消えるだろうという発想なのです。

私から見ると、能天気な話だと思う。反対側の理屈が「電波」に通用しないのは、そもそも拠って立つ価値観の違いがあるからです。理屈でどんなに言い負かされたって、「でもなんだかそれは変だ!」という「中の人」の声があるのだから、そう簡単に自説を曲げません。先発優先思想の根は深いのです。反対側の皆さんは、今、思想弾圧や強烈な差別まがいのことまでやっています。批判はどれだけやっても結構ですけれども、「なぜ話が通じないんだ?」「電波だからだ。相手してもしょうがない」ではどうかしています。そういうのを思考停止、あるいは無責任という。

現実的な話をすれば、「電波」を反対側の陣営に引き込むのは難しいから、「こういう考え方もある。それだけは認めてくれ」と説く他ないだろうと思う。

思想弾圧の回避と真っ当な解決策

私が見ても先発優先思想というのはくだらないものです。散々批判されている通り、間違った考えだと思います。けれども、反対側のいう「現に「被害」が生じている」という言い方、これもまた大間違いです。それは被害ではありません。「現に「被害」が生じている現状では、もはや当初の解決案では収まらない」というのは状況認識の錯誤です。それは、提言を行った集いのメンバーに、責任以上のものを負わせようとするものです。

跡地の件と異なり、今回は提言に賛同した人がワーッと現れました。こうした場合、一方が他方を完膚なきまで叩き潰すという解決策は、ふつうありえません。国会の審議を見ての通り、一定の反対勢力があれば、ある程度の譲歩が必要です。毎年3桁の法案が成立しますが、強行採決は滅多に行われません。社会党がバカバカしい非武装中立を訴えていた頃、その意見に賛同して自民党議員らに批判文をどしどし送りつける輩はいくらでもいました。しかしそれを「被害」だなんていう人はいませんでした。批判文を送りつけられた側は、多くの場合それを無視しましたし、国会で議論を吹っかけられればふつうに応戦したものです。

少数意見にも一定の支持がある場合、言論には言論で対抗するのがスジです。提言を行った集いのメンバーを改心させ、責任を取らせて被害者救済をさせるという解決の方向性は、いささか異常です。政権をとると同時に自衛隊を認めた社会党に対し、非武装中立を正義と信じる連中の「被害」にあった皆さん(とくに自衛官の子女は社会党員の教師の授業で自衛隊を一方的に批判されて悲しい思いをしてきたものです)を救済するべしというようなものです。これは本来、反対側が提言サイトに対抗して反提言サイトを作り、そこで被害者救済を行うという流れにならなければおかしいのです。(補注

戦時下の日本で共産党幹部はどんどん逮捕されたけれども、共産思想はしぶとく生き残り、戦後すぐに党が復活しました。トップの人間を思想弾圧などしても、解決策にはなりません。集いのメンバーは先発優先思想を持つ人々の代弁者だったというだけであって、本質的には発案者ではないからです。

反提言側の皆さんがこうしたことをわかってやっているならいささか趣味が悪いし、わかっていなかったとしても既に手遅れですけれども、いずれにせよ、ひどいことをしているものだと感じる次第です。

補注