趣味Web 小説 2004-02-16

新潮流

スタイルシートWebデザイン」から6年経って、今頃ようやく CSS をまともに使う人が増えてきました。で、「スタイルシート スタイルブック」のサポートサイトを見ると、知らない人が大勢で何か書いていらっしゃる。blogmap - スタイルシート スタイルブック経由で言及サイトを巡ると、サポートサイトのライターは「豪華なメンバー」らしいのですが、私は著者も含めて一人も知りませんでした。いつの間に、こんなコミュニティが成長したんですか?

私が考える豪華なメンバーといったら Piro さんと野嵜さんを外すなんて考えられません。けれども、時代は旧来のコミュニティなどまるで存在しなかったかのように動いています。

antipopここを御覧の方がいたらその辺界隈で一本企画をアレしていただきたいなぁとありますが、昔からそういう声があるのに一向に実現しない。で、CSS に関してはポッと出みたいな方が本を出してしまう。昨年の9月28日に書いたことと重なるけれども、結局、日本のテキストサイトやウェブ日記の文化は(少なくとも出版ルートでは)米国流の Weblog に席巻されました。一方的に攻め込まれて、日本の文化は全然、米国には伝播しない。その流れで CSS も一気に普及してきたのですが、どうも釈然としません。

旧来の CSS コミュニティは長らく、出版の世界でテーブルレイアウトを教える正体不明の無名ライター陣に完封に近い負け方をしてきました。人脈の問題なのか他の問題なのかよくわかりませんけれども。ぼくたちの洗脳社会流にいうなら、自由洗脳競争に敗北を重ねてきたわけです。最近ようやくその主張が世間に受け入れられつつありますが、最前線で派手にやっているのは何故か新参勢力です。「今まであなた方はどこにいたんですか?」と私は問いたい。

Weblog の波がきて、よくわからない個人テキストサイトの書き手がどんどん台頭してきたときにも「え~!?」と思ったものですが、こういった経歴不詳・実力不明の新参勢力が突然現れて勝ち組になる過程というのは、何度見ても納得がいかないというか、不気味な感じがします。いずれにせよ、市販の HTML や CSS の解説書に厳しい突込みを入れてきた旧来のコミュニティから、本の著者どころか編集者も監修者も誕生しなかったという現実には忸怩たるものを感じます。神崎先生も大藤さんも今村さんも、見ている場所は近くとも立っている地点は離れていたわけで。

もちろん私こそ、「何でお前のサイトが200万PVに達するわけ?」と問われて首を傾げるしかない実力不足の新参者です。けれども、私に CSS の素晴らしさを教えてくれたのは旧来の CSS コミュニティ(あるいは某方面、さらにその周辺)でした。ギリギリ、そういうタイミングで入ってきた人間なんです。だから、せっかくいい時代になりつつあるのにコミュニティがひっそりと歴史の宵闇に埋もれつつあるような雰囲気に見えることを、私は寂しく思います。

昔、大沢在昌は2刷のかからない作家でした。それでも10作以上もコンスタントに本が出続けたのは、狙い通りの部数はきちんと売れたからでした。大商いはできないけれど、計算できる作家だったのです。どうなんでしょう、CSS コミュニティのファン層では 2000 部を計算できないのでしょうか。無理なのかな。さすがにお金を出してもらうとなると。CD-ROM 中心の構成だったら本体も薄くできるし、何とか……ならないから、本にならないんでしょうけれども。まあどのみち、そういう発想で本を作ると同人誌と一緒じゃないか、という話になってしまうわけですが。

「思ったような未来がやってこなくてつまんない」という駄々っ子のような、しかも端っから他力本願の意見なんですが、どうしても一言、書いておきたかった。

参考
追記:2004年2月22日

スタイルシート スタイルブック」著者の長谷川さん本稿と対になるような記事を書いていらしたので、ご紹介。長谷川さんご自身が明に暗に認めていらっしゃる通り、技量に優れているから本を書けたわけではない、ということ。いつものことです。ただ、出版社が次第により良いライターを選ぶようになってきたのでしょう。だから、最近は比較的まともな解説書が増えてきました。これから次第に、良いライターがダメなライターを駆逐していくものと信じます。

とはいえサポートサイトを見ると、何人も参加しているプロの技能の低いことに気づかされ、やはり暗澹とした気分になります。森田雄さんが精力的にコメントを寄せていますが、素人目にもはっきりと技能の差が見えます。エンジニアにやさしいデザイナーになるためにのコメント欄でのやり取りは、埼玉で、フリーでWeb制作をしているというふうりさん(Webふぉれすと主催)と、この道では超一流のビジネスアーキテクツとの埋めがたい格差を残酷なほど明らかにしていて、「これでもプロとして通用してしまうんだよなぁ」と考えると気が滅入ります。

昔から雑誌の記事も解説書の内容も、HTML と CSS に関してはダメダメなものがたいへん多かったのですが、紙面でしかお名前を拝見しない内は、「遠くの人」のやることだからというので感情を遮断することもできました。けれども、最近の若いプロは無用心にも身分を明かして Web サイトを運営なさっています。で、そういう「身近なプロ」が適当なことを書くのを見ると、何だかがっかりするのです。一言、二言いわないと気がおさまらない。

しかしその一方で、じゃあお前は何者なんだ? ということを考えます。そして、トーシローでしかないことを再確認します。そして、ああ、これが苛立ちの最大の原因なんだな、と思います。趣味は趣味でいいんです。ただ、できることなら、プロは素人なんか相手にならない凄い存在であってほしいんです。私ごときに言い負かされてしまうのでは困る。困るったって、それが現実なんだから仕方ないのですが、しかし……ならばせめて、謙虚であってほしい。プロであることに、恐れを感じてほしい。「なんちゃってプロでーす。でも仕事はあんまりできませーん。えへっ」みたいなのは、謙虚とはいいません。これこそ、傲慢というものでしょう。なのに、なのに……。

かつて私は Piro さんの CSS デザインに感動しました。こういう話を書いていると、当時のことを思い出します。そして感傷的にな気分になるのです。

Information

注意書き