Amazon のカスタマーレビューで「参考にならなかった」票を獲得しやすいのは、基本的には批判票です(私自身のレビューに限らず、多くのレビューを見てきた感想)。よい本を誉めると大いに喜ばれ、よい本をけなすと怒られ、悪い本をけなしても少し怒られ、悪い本を誉めると少し喜ばれます。
私が興味を引かれるのは、なぜダメな本をダメだというと人を怒らせるのか、ということです。
著者や編集者が不愉快になるのはわかります。私の書いたレビューの場合、「参考にならなかった」票はレビューひとつにつきせいぜい4票程度ですから、それでも説明はつきます。けれども、著者や編集者がいちいちそんなみみっちいことをするものでしょうか。私の予想は、その本を買った読者が面白くない気分になっているのではないか、というものです。
この仮説は、よい本を紹介すると「参考になった」票がたくさん入る事実とも対応しています。ポイントは、当該書籍を購入したかどうか。お金を出した人は投票の面倒をいとわない(ことが少なくない)のではないでしょうか。
未購入の人はどのレビューを読んでも「フーン」でお終い。投票なんてしない。ダメな本をダメだといっても「参考になった」票が入らないのは、ダメだといわれた本など購入せず、買わなかった本のレビューなどどうでもいいから……かもしれません。
HTML の解説書は、いい加減な内容であっても初心者はそれなりに満足してしまいます。だからますます、私の批判的レビューに「参考になった」票は入らない。今、先月末の絨毯爆撃のため全レビューに「参考にならなかった」票が入っています。一方、「参考になった」票は、いい本を誉めた一部のレビューに集中しています。その結果、多くのレビューにおいて「参考にならなかった」票が優勢になっています。
よい本を誉めるだけではよい本が売れるようにはならない現実に気付いたから、私は悪書に集まる方々を良書へ誘導する試みを始めました。これは見事に成功して、Amazon では良書が軒並み売上ランキングの上位に登場するようになりました。良書のレビューには「参考になった」票もたくさん入り、私はささやかな名誉に頬が緩みます。
しかしレビューの一覧を眺めるとき、「参考にならなかった」票に負け、討ち死にした無数のレビューの存在に気付かされます。それはそれでいい。予想していたことです。けれども、一将功成りて万骨枯る……という言葉が頭をよぎるとき、ちょっと寂しい気分になるのも事実です。まるで世界はチェスのよう。ポーン、ビショップ、ナイト、ルーク、そしてクイーンまで、みんなキングの捨て駒。