- 司会
――今すぐ、デジタル放送に移行するメリットは、確かにあまり大きくありませんね。
- 小寺
HDを見たいならばデジタル放送になるんでしょうけれど、これから盛り上がって欲しいのはポータブル環境です。このの間発表された「CLIE」みたいに動画を持ち出しましょうという流れがあってもいいし、携帯で見るという方法もあると思います。
そうした利用法を考えるならば、HDは絶対の条件じゃないですよ。そもそも、ポータブル機器にHD映像は入りませんし。HDを見るなら自宅、それ以外はアナログという選択肢があってもいいと思うんです。
CCCD 反対派は、推進派はきちんとしたデータを出していないというようなことをよくいうのだけれど、それはお互い様だろうと思っている。1日5分の口コミプロモーションブログのレビューでも書いたのだけれど、いわゆるネット世代も、他の世代と何も変わりはしない。都合のいい話に流れる。だれが「音楽」を殺すのか?について、Amazon では好意的なレビューが多いけれども、私は否定的なレビューを寄せるつもりで準備中。
さて、小寺さんの発言には事実誤認がある。放送業界がデジタル放送にご執心なのは、ポータブル環境に対応するためでもあるのだ。アナログ放送対応の携帯電話なんかが登場してしまったのが話をややこしくしているのだけれど、基本的にアナログ放送はポータブル機器での視聴には向いていない。単純にいうなら、アナログ放送は、1波1コンテンツの放送しかできない。その点、デジタルなら比較的簡単に多重放送ができるから、ポータブル機器向けに最適化したコンテンツを放送できる。
アナログ放送では、テレビの大画面向けの情報を小さな画面しかない携帯電話などに処理させるから、無駄が大きい。そして画質の向上にも限界がある。デジタル放送になれば、携帯電話でも低消費電力できれいな画質の映像を視聴することが可能となる。アナログ放送の処理は電力を食うから、バッテリーがどんどん減ってしまう。電池の進化は淡々としており、携帯電話の機能も増え続ける一方なので、劇的にテレビ視聴できる時間が延びる可能性はない。
その他、電波の受信についてもデジタル放送に利点が多い。デジタル放送が待望される所以である。
デジタル放送のコピーワンスは消費者の反発が少なくないだろうが、その一方で、HDD つきの DVD レコーダーの利用者の多くが DVD を焼いていないというデータが日経エレクトロニクス誌で紹介されていた。いざというときのために、DVD に録画する機能をほしいと思う一方で、実際にはほとんどその必要を感じていない人が多いということだ。ほとんどの番組は、1回見れば十分だと判断されている。「携帯電話で観るためにレートを落としてコピーする場合でさえムーブとして扱われるのは納得できない」という感情とは別に、携帯電話で1回見ればもうそれで満足してしまうケースが大半なのは容易に想像がつく。
CCCD は人気がなかった、という人は、しばしばネットでの評判だけに依拠してものをいう。しかし、よく考えてみてほしい。ネットで CCCD に反対している人は、まずネットを利用できて、しかもわざわざ CCCD の話題に興味を持ち、個人サイトなどの意見を読み漁り、そして自らの意見を発信するまでに至った人に限定される。不買運動が本当に効果を挙げたのかどうか、きちんとデータを示した例を私は知らない。
CCCD に効果があったとすれば、むしろ、積極的に反対意見を述べる消費者がいかに少数派なのかが浮き彫りになったことだろう。ネット世論の無力が明らかとなり、大多数のユーザの無関心が証明された。(→CD 生産数量オーディオレコード総生産数量を見れば、CCCD が売上減を止められなかったことがわかるが、逆に減少を加速してもいないことがわかる)
余談だが、デジタル放送は田舎に暮らすものにとっては福音となるはずだ。都会のテレビ放送しか知らない者には意外に思われるかもしれないが、田舎のテレビは映像が汚いことが多い。デジタルは、単純にいえば、見えるか見えないか、である。アナログは、劣化してはいるけど見える、というのがくせもので、田舎では電波状況が悪い。デジタル化によって、障害物の多い都会ではケーブルテレビの需要増が見込まれる一方、田舎ではカラー化以来の劇的な画質改善が期待されている。
- 小寺
音楽で起きたムーブメントは、数年後には映像の世界で起きるというのが僕の持論ですが、あまり小難しいことばかり言っていると、HD DVDもBlu-ray Discも普及しないと思うんです。最初は一方がセル向け、もう一方が録画向けという感じで棲み分けって話でしたけれど、結局、コピーワンスの問題が解決しないので、最近では両方ともセル向けでメリットがあるのはウチだ、って話になってきて、「なんだよ?」みたいな(笑)
おまけ。小寺さん、ここでもまた、ありもしない話をでっち上げている。誰がそんなことをいったんだ。どこかの記者が、個人的な予想を書いただけじゃないのか。コピーワンスの問題
が規格統合の障害だ、なんて話は初耳だ。一応、次世代 DVD の製造に関係している会社の人間なので、ある程度は情報が入っているんだけど。
いつものこととはいえ、よその人が中の人も知らないことをまことしやかに発言して、それでも誉めているならまだいいけれど、いい加減なことをいってそれで腐すというのは何とかしてくれないかと思う。念のため。津田さんの本には、この対談の小寺さんのようないい加減さはない。
こういうのって、卒論のテーマになるんだ……。