レビューを Amazon に投稿してみました。参考になったか否か、投票していただければ幸いです。
ネットで辛い評価を得てきた「Deep Love」「リアル鬼ごっこ」「世界の中心で愛を叫ぶ」と同じ欠点を、より過激な形で有している作品なのに、なぜか書評は好意的なものが大半(でした)。ケータイ発の「Deep Love」を批判した人も、2ch 発の「電車男」は許してしまう。新聞はひとくくりにネット世代とよぶけれど、両者の間には歴然とした温度差がある? 馬鹿馬鹿しいほど「ありえない話」と「くそリアリティー」という方向性の違いは、ブラフだと思う。両者の評価の違いを導いたのは、やはり、作品の出自と成立過程に違いないと踏んでいます。
もちろん「電車男」を「新しい文学のカタチ」などと呼んで喜んでいる人は少ないのだから、目くじら立てるような話でもないのですが。
私は「電車男」が実話かどうかに頓着しませんが、世間では違うらしい。Amazon の書評でも「実話だから」という理由で本書を支持したり、逆に「作り話だったとわかってガッカリ」したり、フィクションを貶める発言が少なくない。
ふと、「電車男」が「理由」を書いた宮部みゆきの新作だったとしたら……なんて夢想しました。「理由」は事件の長編ルポという体裁の小説。全編、きちんと趣向に則って書かれており、面白いと思った記憶があります。10年後、宮部みゆきを知らない人が読んだら、「こんな事件があったなんて!」と驚くかもしれない。
作者が無名だったために実話と勘違いされて話題になったのが「廃用身」。叙述トリックの名手・折原一の「遭難者」も凝った作品。「理由」と異なり、これら2冊は装丁からして騙す気満々なので、ふだん小説を読まない人に勧めたら……なんて想像すると楽しい。
最近のレビューには否定派が多く、肯定派のレビューは全般に「参考になった」票が少ない。これがネットのバランス感覚か、と思う一方、否定派の意見にも疑問を感じます。
需要があれば供給するのが生産者の務め。金儲け=社会貢献となるのが理想的な資本主義社会。今回、新潮社はいい仕事をしました。上質な記念グッズに仕上がっています。自分は必要を感じない、という主観的判断を安直に一般化して語るのは恥ずかしい。
書籍化と同時にまとめサイトも有料化された……わけではありません。何の実害もないのに他人の金儲けを非難するのは貧乏人の僻み。「感動できなかった。つまらない作品」といった素直な感想なら罪がないが、妙な正義感に取り付かれると危ない。
ところで、私自身は(2ch の文化を知っているので)「電車男」をスイスイ読めたし、内容も面白いと思いました。念のため追記。