徳保さんは、ひろみちゅが指摘している「RFIDは車ナンバー読み取りNシステムなどと違い、読取装置がケタ違いに安価になったり、機器自体がNシステムよりも簡単に市場に出回る可能性が高い」という要素をあえて無視している?
「読み取られていることに気がつかないようにスキャンできる」という能力も、車のナンバーや郵便物と比較してもケタ違いにアップすると思う。
ケタ違いにアップ
というところに、賛同しないということです。ある種の田舎で昼間に街中を移動すると、行動の軌跡が公知の情報となります。目撃情報を辿れば、簡単に、ある人物の一日の行動を把握できるわけ。それで何か困っているのかというと、別に問題ないだろう、と。田舎の目と同等の監視システムを、個人の情報を収集するために犯罪組織が設営するだろうか? そんなことはありえないとすれば、現在以上にプライバシーが漏れる危険なんてないということになりませんか。隣の家の晩御飯の献立が平気でバレているのが日本のムラなんですよ。
何かと秘密を持ちたがる人にとっては大問題なのかもしれないけれど、「実は公開しても問題ない情報」というのは少なくないと思っています。例えば住所、例えば電話番号。現に公開している人がいて(私とか、あるいは全ての個人ネットショップオーナー)、ほとんど問題になっていません。私はレシートをふつうに半透明とか透明のゴミ袋に入れて捨てているから、誰だってゴミ漁りすれば私の買い物履歴を把握できます。カードの使用履歴も同様。誰でも調べられる。で、それで何が問題なのか、ということ。
気にする人がいるのはいいですよ、それはそれで。けれども、私が思うに、そんなことは、基本的にこれまでの出来事の延長上の話でしかないだろう、と。みなさん、レシートとかカードの使用履歴の通知書とか、きちんと裁断してきたのでしょうか? 家計簿、どうやって処分してきましたか? ふつうに捨ててきたんじゃないですか。廃品回収のボランティアを手伝うと、家計簿が時々出てきます。名前とか、いろんな情報が詰まっているのに、ポンと捨ててしまう人がたくさんいるんです。セキュリティに厳しい人だったら、家計簿を古新聞や週刊少年ジャンプを一緒に縛ってしまうなんて信じられないでしょう。でも、そういう信じられないことをやっているのが、日本人です。
たとえ話で出ているような物と比較したら。スキャニングと追跡を「安価に総なめ方式」で出来るというのが「便利な道具」であるところのRFIDの特徴だと。
それはそうでしょうが、でも結局、楽して入手できる情報は高が知れている、という点には変化ない。
「MIWA製のキーシリンダーは、プロの窃盗団に狙われたら5分ともたずに開けられてしまいますよ」という事を知っていて、それでも「まぁ自宅には現金も通帳とハンコもパスポートもパソコンもテレビも置いていないし」という選択をすることは誰も批判していないと。
そうじゃないんですね。現金も通帳も判子もパスポートも置いてある家の玄関に鍵をかけない田舎の実態というのがあるわけです。というか、私の暮らす社員寮の鍵なんて非常にちゃちなものですし。東京でさえ、そういう部屋になんでも大切なものを置いている人がたくさんいるのです。そういう選択もアリなんですよ。
もっと書くと、じつは社員寮の裏口には鍵がかかっていません。これは一部の部屋へのアクセスの利便を図るためで、そのためにセキュリティを崩壊させている。一応、部屋の鍵はあるのですが、この鍵は玄関の鍵以上に貧弱です。さらに書くと、窓の鍵はサッシをガタガタさせるだけで開きます。それでも誰も修理しようとかいわない。
そういう生活をしている人間がたくさんいることを無視して、さあ大変だ! といっても、どうなのか。フィッシング詐欺にせよ何にせよ、庶民の理解と関心は高木さんらの話とは比較にならない低次元ですし、それで案外、気にも留めていない。漠然と、「怖いねえ」といっているだけなんです。最近の日本は治安が悪くなったね、といいながら、裏口の鍵も開けっ放しで生活している人にとって、レシートを裁断せずにゴミに出している人にとって、RFID タグくらい何なのか、と思うわけですよ。
所詮、調べようと思えば調べられる、という類の危険が増大するだけなんです。泥棒対策と一緒。敵さんが本気になれば、プライバシーなんて丸裸にできるのです。私は病院で貰った薬の一覧もそのままゴミに出していますしね。会社で受けた健康診断のコピー(年1回配布)も、新しいものが配られるたびに古いものを捨てています。こういうのを収集すれば、私の健康状態だって、みんな入手できるわけ。
私がどうしてそういう危険を放置しているのかというと、どうせ私の情報なんてろくな価値がなくて、情報収集の手間隙を考えたら割に合わないと思っているからです。あるいは、ゴミ漁りしてまで知りたいというなら、その程度の情報、適当な金額で売ってやってもいいと思っているからです。私は既住症を隠して保険に入るつもりもないし、根本的に、重要な情報だと認識していません。買い物履歴だって何だってそう。別に、隠そうとも思ってない。積極的に開示する理由はないけれど、凄く知りたいというなら、どうぞ勝手に調べてください、と。
個人情報が漏れても、気持ち悪いという以上の不都合は、まずなさそうです。カードの番号とか保険証とか盗まれない限り。いや、それだって、私は金持ちじゃないので、財産全部とられても100万円にもならない。カードの限度額も20万円か30万円だったはずで。1年で取り戻せる金額ですよ。だから盗られてももいいということじゃなくて、仮に不幸に遭遇しても、高が知れているという発想。