趣味Web 小説 2005-06-29

他人の暴露話は大好きなのに

今月、話題になった文芸作品。両親と娘のブログを順に読み進めていくと、ひとつの物語が浮かび上がるという寸法。ホラー系。以下、ネタバレするので、要注意。

お話は面白いのだけれど、本気で怖がるような内容ではない。というのは、昔から有名人や芸能人の子どもというのは、こんな感じだったのだから。椎名誠が息子をテーマに書いたエッセイ集「岳物語」「岳物語(続)」は今も売れ続けるベストセラー(お勧め!)。面白おかしいエピソードの宝庫なので、この本のために岳さんは非常に恥ずかしい思いを何度もしてきたそうです(「定本 岳物語」で岳さん自身が書いている)。では「岳物語」は岳さんを不幸にしたか。そうではない、ということを岳さんは書いています。

私が育った千葉県成田市のニュータウンにはプロゴルファー中嶋常幸さん一家が暮らしていました。庭にゴルフ練習ネットが設置されているので、近くの道を通れば「なるほど、あそこが有名な中嶋さんの家なんだな」と誰にでもわかる状況でした。中嶋さんの長男(中島雅生さん)が私と同学年だったこともあり、彼の話もよく聞きました。いつ誰にどんなお菓子をおごった、とか。小遣いをたくさんもらっていたそうで、クラスメートらにずいぶんたかられていたと聞きます(子どもの伝言ゲームですから大幅に割り引いて考えねばなりませんが)。

隣の学区に暮らす私のところまで情報が伝わっていたくらいだから、有名人の子どもはつらい。テレビや雑誌の取材でも「知られざる一面」がしばしば報じられており、有名人のプライバシーなんてトイレの中にしかないのかもしれない……と私は思ったものでした。

中嶋雅生さんがいじめられていたかどうかは知りません。ただ、幼少時の恥ずかしいエピソードなどを親が文章にして発表したら必然的に子どもがいじめられるかというと、それはありえない。もちろん危険は増すのでしょう。誰にも何も情報を渡さず、姿も見せず、透明人間になってしまえばいじめられようもない。そうした状態を基準に考えれば、たしかに危険度は高い。けれども、ようは程度の問題。過去、作家や芸能人の子は、親によってずいぶんいろいろな情報を公開されてきたし、近所のコミュニティでは「あの子がそうなのね」と知れ渡っていました。

それで不幸になった人がいないとは申しません。けれども、多くの場合、大した問題にならないから、親が子のことを赤裸々に綴った文章が連綿と書き継がれ、ひとつのジャンルをなしてきたのでした。西原理恵子「毎日かあさん」もひどいし、柳美里の本だって天変地異論者が読んだら卒倒しかねない。室井佑月「子作り爆裂伝」もとんでもない内容です。

作家や芸能人となると急に他人事になってしまい、情報消費者としての視点からしかモノを見れなくなる人が多い。若い女の子が顔写真を1枚載せただけで大騒ぎ、とかですね、ときどきそういう方がいらっしゃるのですが、だったら眞鍋かをりさんとか、「どうやって生きているんだ?」と考えたことはないのでしょうか。用心深いのは結構ですが、恐怖に支配されて現実を見失ってしまうのは、いかがなものかと思います。

続きを書きました

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