若手研究会が主体となった発表+討議です。参加者は西村博之さん、山本一郎さん、藤代裕之さん、R30さん、澁川修一さん、鈴木謙介さん、庄司さんの7名。
議事録は出ないでしょうが、INTERNET Watch のイベントレポートや、かなり詳細な発言要録が公開されています。
個別の議論には踏み込まないけれども、全般に「地に足のついた主張を展開する西村博之・山本一郎 VS インターネットが切り開く新時代の可能性を語る鈴木謙介・藤代裕之」という構図で議論が展開しました。私は以前から「学者の妄想」に違和感を抱いており、テレビに登場する評論家らが私の生きてきた25年間ずっと「激動の時代」といい続けてきた馬鹿馬鹿しさに辟易していました。
だから当然、私は西村博之さんと山本一郎さんの発言に心中で拍手喝采を送ったし、鈴木謙介さんの主張や渋川さんの「ここ数年で云々」といった物言いには不満がありました。ところが、鈴木謙介さんや山本一郎さんの日記を読むと、どうもそれほど単純ではないらしい。
以下、鈴木さんの日記から引用します。
正直難しかった。特にひろゆきが「いやー別に何も変わってないっすよ昔から」という話をするだろうことは予想できていたのと、マスコミ取材なんかも入っていることへの配慮から、できる限り隊長、ひろゆきにフロントで喋ってもらえるように、ネットで色々変わったよね、的なポジショントークをしてたら、論点が拡散しまくり。いやひろゆき君も僕に合わせてポジション決めていたような感じがしなくもなかったけど。なんか大学とかでディベートの授業をするときみたいな気分でした。
それとは関係なく、というかそこから派生して考えたことをいくつか。研究会の中では「ネットブームなんてマスコミが騒いでるのも韓流ブームと同じ」なんて話が出たりしていたのだけど、おそらく、現実をつぶさに見ていくと、金の流れからパワーバランスから、何一つ変わってないじゃん、という話は、まあそうなのだろうと思う。パスは増えたけど、枠組み自体は変わってないよね、というのは、ある部分で共通了解だったというか。マイヤヒなんかの例が出ていたけど、バイラル(口コミ)で広がっていくコアのムーブメントを、マスに露出していく回路っていうのは、もはやネット云々の話じゃない、ということだよね。
という話をしながら僕が気づいたのは、あくまで僕は、現実やデータの本質の話に目を付けているんじゃなくて、人が現実を何だと思っているかということ、そしてそのカンチガイも含めた現実認識が、カンチガイ故に社会を変えるということがありうるということ、そこに興味があるんだなということ。そしておそらく韓流ブーム並みのネットブームも、多くの部分で人のカンチガイによって駆動させられている。U30とかナナロクとか言われて僕らがプッとか思っちゃうのは、勿論それがカンチガイでしかないことを織り込み済みで、おっさん連中から金を巻き上げて食ってきた歴史っつーのをよく知ってるからなのかもしれない。
うーん、なるほど。ただ、やはりカンチガイも含めた現実認識が、カンチガイ故に社会を変える
という部分が究極の対立点なのかもしれない。ごく表面的な変化しか生じていないにもかかわらず、「根本的に変わった」と見做す考え方が思想的に勝利しているだけ……と私は認識しているのです。つまり、カンチガイ
は実際には社会を変えず、「変えたと思わせる」だけだ、と。
ウェブの発展により、商業ベースで成功できない洗脳力の弱い言説をたくさん読めるようになりましたが、そのひとつに「激動の時代」批判もあります。
とくに「少年犯罪は増えているのか?」という問いの立て方は巧妙で、大勢にウケています。この手の反主流派の言説はマスコミ批判に帰着しがちですが、マスコミも商売でやっているのだから、陰謀論めいた非難は危ない。「少年犯罪が増えている」ことにしたい視聴者の要求に応えているだけかもしれないのだから。
テレビのように1000万人超の大衆を相手にサービスしなければならない媒体は、じつは例外的存在。だから例えば200万部しか刷っていない産経新聞の場合、テレビが対応できないなニッチな需要を満たす記事を書けるわけです。過激な主張の週刊誌は多々ありますが、その部数は高々70万部。日本人の1%も読んでいないからこそ、あのような内容になっていく。「少年犯罪は増えていない」という言説は、そのニッチにすら達しない不人気ゆえに、マスメディアに載らないだけなのではないか。
「ぼくたちの洗脳社会」は、こうした話題を取り上げるたびに紹介したい本。私は「自由洗脳競争は再発見された既存の現象であり、新たな社会変革は導かない」と考えている点で著者と見解を異にしますが、読みやすく知的刺激にあふれたお勧めの1冊。
GLOCOM forum 2005 の ised 懇親会でも話題になった「マンガ嫌韓流」と「マンガ中国入門」の Amazon カスタマーレビューを書きました。適度に批判的な視点を入れつつ、「参考になった」票が過半数となることを目指す試み。
結果はリンク先をご覧の通り。「参考になった」票は4割強でした。残念。
嫌韓派、嫌中派について学びたい方には、いずれも便利な本だと思います。「マンガ中国入門」はジョージ秋山さんの個性が強く出ているので、これが平均的な嫌中派と考えるとまずいでしょうが、「マンガ嫌韓流」は上手に作家の個性を潰しています。嫌韓派がこの本を「中立的」「落ち着いた内容」と評していることとを念頭において読まれることを勧めます。
参考までに、レビューの中で示した関連書籍は以下の通り。
時事ニュースは薄利多売で「取材」コストが捻出される商品です。無償奉仕の市井の論者は「論説」や「解説」しかできない。よってマスコミ抜きのウェブ論壇は難しい。他方、音楽、書籍、服飾など高額商品の少数販売で成り立つ産業は、ウェブの口コミに期待できます。ただし過大評価は禁物です。2ch で話題の「マンガ嫌韓流」は30万部で大成功でしたが、週刊少年ジャンプの「武装錬金」は多数派の支持がなく打切られました。
4年前、扶桑社の教科書(市販本)はたしかに60万部売れたけれども、採択結果は惨憺たるものでした。それがウェブサイトは1日350万ページビュー、紙媒体も200万部を誇る産経新聞の限界だったのです。「マンガ嫌韓流」の好調な売れ行きを不安視する必要はありません。仮に100万部を突破しても、嫌韓自体はブームになりそうもない。「電車男」のテレビドラマを1000万人が楽しんでも、キモいものはキモいことと同様に。
つまり、ネットの無力さということがしばしば話題になるけれども、同じことは出版文化の無力さ、新聞報道の無力さ、テレビ放送の無力さでもあったのだと思う。
……とまあ、若手研のフォーラムはいろいろなことを考える切欠となったわけです。