国会に提出された政府の資料の中に、「小泉支持者はIQが低い」と書かれているとして問題視する記事がはてなブックマークで人気炸裂中です。本稿では同資料の周辺情報を提供します。
2005年6月21日の第162回国会衆議院郵政民営化に関する特別委員会にて、民主党のネクスト総務大臣こと五十嵐文彦衆議院議員(当時)が、政府広報費1億5000万円の支出について質疑を行いました。入札を行わず、竹中平蔵郵政担当大臣の秘書官が関係する業者と随意契約したのはおかしい、という内容です。収賄事件などに発展すれば竹中大臣の失脚もありえたので、報道でも大きく取り上げられました。(参考:議事録抜粋)
さて、件の記事が問題視する資料は、政府が提出した資料のひとつ【[2] p.6-20 865KB】です。その内容は、渦中の企業である有限会社スリードと有限会社オフィスサンサーラが作成した「郵政民営化・合意形成コミュニケーション戦略(案)」のコピー。随意契約の理由は提案の独創性による、との主張を証明するための資料です。もちろん五十嵐前議員は同資料の提案に独創性を認めず、随意契約は不当だったと追及、政府側答弁は苦しいものとなりました。
現在ウェブに出回っているのは、民主党の中村哲治衆議院議員(当時)のウェブサイト内、今週の一言(2005年)にて公開された PDF 版(国会で配布された紙の資料をスキャンし PDF 化したもの)です。
参考までに、同資料の問題とされている部分を HTML 文書化し、引用します。
- ターゲット戦略 ~現状認識~
- 郵政民営化に関しての必要性認識は確立しつつある。但し、プライオリティ認識は低い。
- また、その民営化に対しての温度は、その社会的立場、ターゲットクラスターにより様々である。
- 民営化を含む、構造改革に対しての意識/経済に関してのリテラシー度でターゲットをポジショニングすると、下図のようになる。
A層:エコノミストをはじめとして、基本的に民営化の必要性は感じているが、これまで、特に道路公団民営化の結末から類推上、結果について悲観的な観測を持っており、それが、現状の批判的立場を形成している。
B層:最も重要な点は、郵政の現状サービスへの満足度が極めて高いこと(資料:p7~満足度調査結果参照)。道路公団等とはその数字は比較にならず、より深いレベルでの合意形成が不可欠。
B層にフォーカスした、徹底したラーニングプロモーションが必要と考える。
というわけで作成された広報資料が首相官邸ホームページで公開されています。
以下、私の解釈を示します。
理想的には全国民の支持を得て政策を実施できればよいわけですが、実際には様々な考え方が世の中に存在する以上、それは難しい。政府はこれまでA層およびB層の支持を得て構造改革を進めてきましたが、郵政民営化は最難関でした。A層は郵政民営化に賛成ながら小泉内閣の実行力を信頼しておらず、B層は郵政民営化に消極的だったからです。A層対策は「実行」あるのみ。問題はB層の説得です。
小泉内閣の主要な支持層がB層となっているのは、いわゆる有権者の主力という意味でしょう。実際、衆議院議員選挙の投票率は60%もあるわけですから、近年の大学進学率より高い。いわゆる有識者の人数は限られており、自民党に限らず、どの政党の主要支持層もIQ軸の下位領域に存在するはずです。この資料について「(有権者に)全く失礼な話」などと怒るのは、理念を優先して現実を無視する考え方。私は好みませんね。(参考:6月23日の国会審議抜粋)
さて、この広報作戦は成功したのか? 大量の造反者が出た最大の理由は、自民党支持層の慎重・反対論が根強かったからです。選挙の結果、造反組が軒並み落選すれば結果オーライですが、逆の結果となれば、B層対策の不十分が小泉政権崩壊の理由といえます。