趣味Web 小説 2005-09-15

9年遅れで発見された「特異な病像」

ふと、はてなブックマークで人気を集めた勝者の非情・弱者の瀰漫」を連想しました。内田樹さんの記事もまた、佐々木さんのいうまるで弱者の愚民がファシズムを支持している――といわんばかりの意見の変奏曲だと思う。

ネット上で小泉支持を打ち出し、民主党を批判している人たちの多くは、小泉改革によって打撃を受ける側のセグメントに属していることになる。本当にそうだろうか?という佐々木さんの問題提起は興味深い。同様の状況は、日本では昔からよく見られました。なぜ社会党が政権をとれず、自民党政権が続いてきたのか? 70年安保の盛り上がりをよそに、1969年の総選挙で自民党は史上最高(当時)の大勝利を収めます。当時既に第一次産業従事者は社会の少数派。農村部だけでなく都市労働者層も、何故か自民党を支持したのでした。

社会党が戦後混乱期以来となる政権の座に着くのは、皮肉なことにソ連が崩壊し社会主義革命が頓挫してからでした。ところがそれも一時の栄華、組合員の離反を防ぐためにイデオロギー色を薄めていった全国の労組は、しかしずるずると組織率の低下を招き力を失っていきます。

私の勤務先は世間と30年ずれており、現在も組織率90%超を誇ります。しかしここ数年、脱退者・未加入者が増えています。それは無力な労組への失望ではなく、労組よりも経営陣への共感を表明する社員の増加によります。会社が赤字でもボーナスを要求、有給休暇の完全消化を推進、残業協定厳守、福利厚生制度の充実と定年延長を申入れ、要求が拒否されたらストライキ(毎年やっている)。いずれも労働者に利益の多い話なのに、常に反対する組合員がいます。しかし民主的に運営される労組は、多数派の主張に従う。私の勤務先では、労組と昇進は無関係です。上司だって元組合員、未加入はともかく脱退には冷たい職場もあると聞きます。それでも労組に不満を抱き、脱退する社員が現れる。

全国的に労組が衰退していったのは、同様の状況があったからだと思う。仮面組合員が、素顔をさらしていった。ずっと自民党が選挙に勝ってきたのです。冷戦終結とソ連崩壊を契機に自民党が分裂し保守政党が国会を牛耳る時代となる前から、労働者が資本家の主張に賛同する不思議な状況は、大きく育っていたのでした。

こうるさく権利請求する「負け組」どもを、非難の声も異議申し立てのクレームも告げられないほど徹底した「ボロ負け組」に叩き込むことに国民の大多数が同意したのである。日本人は鏡に映る自分の顔にむけてつばを吐きかけた。自己否定の契機をまったく含まないままに「自分とそっくりの隣人」を否定して溜飲を下げるというこの倒錯を私は「特異な病像」と呼んだのである。

何をいまさら。「負け組」の自愛が「正しい」ならば、「累進課税緩和と法人税減税、消費税に賛成」と主張する民主党が勝っても無意味。「所得税の累進課税を強化+法人税増税→消費税撤廃」という政策を掲げて275の小選挙区を戦った共産党を支持するのが正解。

内田樹さんは、社民党(旧社会党)と共産党が揃って敗北し、保守政党が議会の3分の2超を占めるに至った1996年、もしくは2000年に書くべきだったことを今頃書いている。そして佐々木さんが紹介した「識者の声」もまた、いつの時代の談話なのかと思う。

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