趣味Web 小説 2005-11-10

経済学者に騙されない人生

要するに、経済理論はでき合いの答えを与えるものではない。どのような理論でも、盲目的に信用したりすれば、われわれは横道に迷い込んでしまうだろう。経済理論を有効に役立てるためには、われわれはその中にあるプロパガンダ的な部分と科学的な部分との関連をよりわけ、その上で科学的な部分がどの程度納得のゆくものであるかを経験にてらして確かめ、最後にその結果をわれわれ自身の政治的見解と結び合わせるようにすべきである。経済学を学ぶ目的は、経済問題について一連のでき合いの答えを得るためではなく、いかに経済学者にだまされないようにするかを習得するためである。

これはジョーン・ロビンソン(1903-1983)というイギリスの女性経済学者が「マルクス,マーシャル,ケインズ」の中で用いたフレーズで、1956年刊「マルクス主義経済学の検討」(都留重人・伊藤光晴 訳,紀伊国屋書店)に収められている。

ロビンソンが1933年に上梓した「不完全競争の経済学」は、同年刊行のE.H.チェンバリン「独占的競争の理論」と並ぶ「不完全競争」理論の名著と評価されているそうだ。後年、ノーベル経済学賞の候補として度々名前が挙がったのは、こうした正統派経済学者としての輝かしい業績による。だがロビンソンはケインズ革命に身を投じた後、中国の文化大革命を支持するなどイデオロギッシュな主張を繰り返す異端派経済学者となっていく。(根井雅弘「経済学のことば」)

……こうしてみると、経済学格言集の筆頭に紹介された言葉が帯びる陰翳に気付かされる。

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