需要ある限り、誰かが書く……というのは、2ch などを見ればよくわかる。一人が考えを改めても、代わりの一人が現れるだけ。だからゲーム脳の問題も、森先生が「改心」したって解決にはならない。最近では岡田尊司さんの「脳内汚染」がベストセラーになっていますよね。
気が滅入るような本の紹介はこれくらいにして、お勧めなのは以下の本。Amazon では「タイトル・目次が誤解を招く」という声が出ていますが、全然わかっていないんだなあ。これは「テレビゲームはヤバイ」と思っている人々に確実に読んでもらえるよう工夫をこらしているんですよ。最初から「ゲーム脳なんて嘘っぱちだ」と直感するような人を想定読者としていません。「ゲーム脳」批判はこうやるべし、という一冊。
ところで、ひとつ注意しなければならないのは、「ゲーム脳理論に対する批判は、単にテレビゲーム擁護の心の発露でしかない」という可能性に目を向けること。「ゲーム脳理論」が間違っていても、テレビゲームが脳の健康を損なうものである可能性はある。
例えば遺伝子組換作物については、ずいぶんていねいに試験が行われているにもかかわらず、「よくわからないから忌避しておこう」と考えている人が多い。そして「よくわからないけど気持ち悪い」という考え方を堂々と述べて、ほとんど誰も「そういう非科学的な態度は危険だ」といわない。「数十年間食べ続けた場合の臨床データがない」なんて、言い掛かりもいいところ。通常の交配による新種だって、意外な毒性を持つ危険はある。なのに、そっちは通常の安全試験で納得するのだから。→関連リンク集
「ゲーム脳理論」が正しいかどうかは、じつのところ重要なことじゃない。私は厚生省の基準をパスした遺伝子組換作物は「安全」だと認識しているけれども、そう思わない人がたくさんいる以上は、遺伝子組換作物は人々に嫌われ続ける他ない。テレビゲームはどうです? やっぱり少なからぬ人々が遺伝子組換作物と同じくらい、嫌っている、不信感を持っている。ひとつのいい加減な仮説が潰されたって、「けっ、俺は騙されないゾ」という思いを再確認するだけかもしれない。
「ゲーム脳理論」にブチ切れた人は、おそらくテレビゲーム排撃派が無意識的に抱いているであろう「最悪」と「もっと最悪」を意識的に選択するという考え方に、よく思いを致さなければならない。「ゲーム脳理論」を歓迎する土壌は、分野を変えればあなたの中にもきっとあるはずなのであって、単純に森さんの主張は疑似科学だからダメ、といって通用するのだろうか?
人権擁護法案に反対したり、PSE 法に反対したり、著作権法の改正に反対したり、のまネコを潰したり、そういった活動には常に(私などから見ると十分な内容の)批判があったにもかかわらず、「数十年間食べ続けた場合の臨床データがない」と同等の反論の前に無力化されていった経緯があります。これは「2ちゃんねらは馬鹿」という話ではなくて、日銀の量的緩和策がなす術もなく解除されてしまったのだって同じことなんです。