趣味Web 小説 2006-04-18

「現代の経済政策」(渡辺経彦 1969年)を読む

すなふきん (2006-04-18 07:34)

このデータを拝見する限り過去の大型景気が政府の財政政策主導で今回のは民間主導というマスコミの主張を裏付けるものはとりたてて見当たらないんですが・・・。輸出が突出してるというのは言えますけど。

私の知る限り、過去の大型景気が政府の財政政策主導とマスコミで吹聴されているというのは、すなふきんさんの勘違いです。高度経済成長真っ只中に刊行された経済書を何冊も読みましたが、民間投資偏重を戒め、経済発展を公共投資の増加にもっと振り向けるべき、との主張が目立ちます。医療福祉や住宅補助の充実、上下水道の整備などが喫緊の課題だ、と。

財政政策主導と敢えていうならば、財政規模を小さく小さくしてきたことが大型景気の原因だ、ということのようです。

面白いのは、そうした論者が減税も主張していること。「庶民から富を収奪している独占資本」の課税を強化すれば十分足りるはず、なのだという。ともあれ、50~70年代の岩波新書をどんどん読んでいくと、田中角栄さんが人気を集めた理由がよくわかる感じがします。田中さんが日本の首相となったとき、金日成さんから(社会主義革命の)同志として祝辞が届いたという逸話を読んだことがありますが、なるほどな、と。

バブル崩壊後に2度あった景気回復と比較しての論評であれば、おっしゃることはよくわかります。しかし過去の大型景気となると、それは違うのではないか。

高度経済成長は復活できる 良い経済学 悪い経済学

ちなみに岩波新書には珍しく独占資本という言葉が出てこない「現代の経済政策」(渡辺経彦 1969年)では、高度経済成長を支えたのは日本人の高い貯蓄性向が民間投資を支え続けたため、と説明しています。そして政府部門は常に税収を低く見積もって予算を抑制し、減税を繰り返し、高度成長の邪魔をしなかったに過ぎない、とも。その結果が狭い家に物をどんどん詰め込むがごとき経済発展だったというわけ。

同書は旧来の景気循環理論や経済成長の考え方に対する新古典派の批判と、その輝かしい成果としての「黄金の60年代」、そしてベトナム戦争という政治的要因などによるインフレのために新古典派の理論自体が批判を浴びた理不尽までを描いており、面白い。物価の安定と失業率の抑制は両立困難なので、緩やかな物価の上昇を許容し、失業率を抑制すべき、といった提案(当時はまだ定説ではなかった)の好意的な紹介もあります。

最も驚かされたのはポール・クルーグマン「良い経済学 悪い経済学」所収の「アジアの奇跡という幻想」とほぼ同趣旨の解説なされていること。これが新書版の啓蒙書、しかも1969年の本。自分がどれだけ遅れているか、あらためて身にしみました。

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