趣味Web 小説 2006-11-02

SANKEI EXPRESS に勝算ありや?

昨日に引き続き SANKEI EXPRESS(通称EX)の話題。

ちなみにサンケイエクスプレスは“創刊前夜”というPRブログがある。ここのコメント蘭を読んでみたら、首都圏では駅売りをしないということがわかった。

これはずれてないか? 来年から始まる団塊世代の定年退職は、駅売りを主体とする夕刊紙、スポーツ紙の直接的な危機につながるであろうことは目に見えているわけで、新聞社としてはこれに対応したターゲットの差し替えが急務なんじゃないの? 駅売りを主体にしたタブロイド紙にすればいいのに。

私はこの見方に同意しない。

現行のスポーツ紙や夕刊紙は大衆紙に分類されます。具体的には、公営ギャンブル(競馬・競輪・競艇 他)、パチンコ、風俗案内、芸能ニュースなどの情報がレギュラー紙面となっているのが特徴。日刊ゲンダイや夕刊フジは1面が政治経済メインですが、内容を問わなくとも形式で大衆紙と判断できます。

一方、EXはタブロイド版の高級紙を志向しています。「高級」といっても、ようするに一般紙のこと。夕刊紙、スポーツ紙の読者が乗り換えることは、そもそも想定していません。

衰退産業の夕刊紙、スポーツ紙の穴を埋める商品は何か? EX副編集長がズバリ書いている通り、それはフリーペーパーでしょう。

有料紙として創刊されたEXのターゲットは、あくまでも宅配需要の掘り起こしにあるのです。その算段は経営陣の言葉として明快に示されています。私なりに要約すれば、次の通り。

新聞を読む平均時間が15分にまで減少している中、ブランケット版40ページの新聞は明らかにオーバースペックです。ニュース媒体の選択肢が無料ニュース(テレビ+ネット)と有料の分厚い新聞しかない中、後者が支持を失い新聞無読層が増加したのは当然。EXはコンパクトな新聞を目指し、有料紙の活路を切り拓く!

ではなぜ、関西ではEXの駅売りが行われるのか。

産経新聞は大阪・奈良で大きなシェアを持ち、全部数の約半分を稼ぎ出しています。つまり関西圏において産経新聞は宅配中心の一般紙として営業しており、月額1680円とバカ安の宅配一般紙を不用意に展開することは、自らの利益を食いつぶす可能性が高い。京都市内のみ宅配事業を展開し、他の府県では駅売り限定という初期戦略には、十分な理由があるわけです。

逆に関東地方で産経新聞の宅配シェアは低く、月額2950円の朝刊紙という低価格戦略も東京新聞(朝夕刊セット3250円/朝夕刊統合版2550円)に勝てず不振。1部100円の戦略価格によって駅やコンビニでの販売に活路を見出している状況です。よって関東でEXの駅売りをするのは自滅路線、宅配一本でスタートするのは当然といえましょう。

全国展開の一般紙で最初にカラー紙面を導入、レイアウトを工夫して図版や表組みを見やすく、文字を大きくし、ページ数も抑えて……と、産経新聞はもともとEXと同様のコンセプトで編集されてきた一般紙です。現状に満足している読者への配慮からEXほど大胆なことはできなかったわけですが、産経本紙を好む購読者にはEXを歓迎する素質があると考えてまず間違いない。

EXは客観報道とやわらかいニュースからなるニュートラルな紙面を心がけ、産経本紙の保守色を極力排除しています。これもまた、じつのところ産経読者の多くが歓迎するところと思われます。産経本紙と競合する領域にEXを投入すれば、産経本紙のシェアが食われることは容易に想像がつくわけです。

重量級として知られる日本経済新聞なら、コンパクトなタブロイド版を創刊してもこんな心配は無用でしょう。しかし産経では事情が違います。

さて、EXは果たして新聞無読層に浸透するでしょうか? 私は「極めて困難」と考えます。可能性があるとすれば、一人暮らしを始めた新社会人や学生さんですね。紙面構成も分量も新聞初心者に優しく、何より価格が安い。あと品のない広告を入れない方針なので、小中学生向けのNIE(Newspaper in Education)活動にも適しています。

EXが浸透するのは、むしろ既存宅配紙の購読者層ではないでしょうか。となると不安は宅配網。シェアの低い全国紙である産経は、ごく一部の地域を除いて他社の宅配網に依存しています。だから委託先の購読者を奪うことになれば委託契約を破棄されかねません。

というわけで、EXは売れなきゃ廃刊だし、売れても物理的にシェア拡大を制約される可能性を否定できません。私の予想が外れ、新聞無読層の取り込みに成功してくれることを期待しています。

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