趣味Web 小説 2007-04-06

福耳さんへ・2

義務教育とは教育を受けさせる義務だ、といわれてはいますけど、実際には教育を受けさせられる側も義務を負っています。日本の公立の小中学校には、知的障害者と健常者のボーダーラインどころか、紛れもない知的障害者まで通っています。(基本的に)年齢で自動的に義務教育を卒業させる現行制度、私は支持します。

15歳で解放されることを待ち望んでる子もたくさんいるんですよ。それに、不幸な人生も私は肯定されるべきだと思う。日常会話にも不自由し、年賀状ひとつ書けない私の父が大卒だったりしますし、昔からいたんですよ、そういう学生。不幸に耐えて進学すると、消極的にであれ当人が決めた人生です。講師は全てを与件として仕事をすべきだと思う。

川下の理想がひとつも実現されなくたって、いいじゃありませんか。高校の先生方は、みな粛々とお仕事されていますよね。大学も同じことだと思います。

えげつない話ですが、「世間であまり評価されない大学」の学生さんたちは、既にその中の多数のメンバーが、日頃大学の外で、劣等感を感じる体験が多いせいか、自己評価が低く、投げやりになりやすく、そして、「自分の劣等感を補償するはけ口」、自分よりさらに弱い者、「駄目な奴」と「見下せる」対象をいつも必死で探しているところがあります。もちろんそれは見苦しい感情だと思います。そうして彼らの多くは、周囲の同級生の些細なミスにも手厳しく、わざと本人の前でせせら笑って見せる。

私がかつて出会った先生方の対処法は主に2つ。ひとつは最初の授業で「私の授業では他人の間違いを笑うことを許さない」と宣言し、その通りに運営する方法。非常に難しい。教師自身が、あまりひどい回答に苦笑を抑えきれないなら、こんな宣言をしないほうがマシだといえます。

そこで、思慮深い先生はこう仰いました。「私の出した質問への回答は、私一人にその質の高低を判断する権限がある」

間髪入れず立て続けに質問を繰り出し、突然指名された生徒のしどろもどろの回答にズバズバ意外な評価を下してみせる。そして「じつは、こういうわけなんだ。ま、聞いてくれ」と評価の理由を説明する。「君たちは、何かを分かっているつもりかもしれないが、全て勘違いだ。俺は賢いという思い上がりも、自分はダメだという劣等感も、みな捨てなさい。この教室では、俺の前で横一線なんだよ」

これはひとつのパターンとなっている話芸で、様々な分野の先生方がこの組み立てで初回の講義を始められるのを私も体験しています。「誰でも答えられそうな質問+意外な回答評価+解説」このセットです。福耳さんにも絶対に使えると思う。私も冬期講習の国語で使いました。「ハイ、この漢字の部首は何でしょう?」5つの漢字を紹介し、各一名ずつ生徒を指名して答えさせ、予想通り全滅。ここで決め台詞、「君らは横一線だ!」

本当は、生徒の行動軌跡から回答を予想して、この子に正解させたいというところで絶妙の問題を振ることができたらいいのですが、難しい。でも挑戦する価値のある課題です。嘲笑ベースの暗いプライドは粉砕し、自信を喪失した子の自尊心を成功体験によって回復する、そんな仕掛けを毎回用意できたらいいですよね。

余談

世の中には生徒の指名順を機械的に決めている教師がいるのですが、身の程知らずだと思います。授業を支配する最強のツールをクラスの公知にしてしまうなんて、飛車角落ちで将棋を指すようなもの。上記の話芸の台本を書く際、指名順に縛りがあったらどれだけ苦労するか。

ただし、授業中、授業後に、誰を何回指名したかメモしておくことは必須。素人の記憶頼りでは、絶対に異様な偏りが出てしまいます。

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