趣味Web 小説 2008-05-27

小レポートの書かせ方

限られた授業時間内に限られた事柄を伝えようとしているときに、話の枠組みの外から素朴な感想をポツンと漏らされても、教師としては如何ともし難いもの。講師準備室へ遊びに来てくれたなら、雑談の相手をする用意はあるのだけれど。

大学の講義では、毎回最後に100~400字程度の感想文を、出席票代わりに提出させることが多い。その扱いは人それぞれで、アシスタントの学生に出欠チェックさせてゴミ箱へポイ、という話も聞いたことがある。そうかと思えば、感想文を講義の理解度チェック票として、ていねいに読む先生もいる。

感想文を書く学生もまたいろいろ。何も考えず「眠い」「つまらない」「板書の字が汚い」などと書く学生もいる。じつはこれ、私のこと。多くの先生は無反応だったけど、とうとう某先生が「感想文に、飽き飽きした、などと書く信じられない学生がいるので、これからは小レポートと呼び名を変えます」と仰られた。

「声が小さくて教室の後ろの方にいるとよく聞こえない」とか「プリントの字が一部つぶれていて読めない」といった指摘も、それなりに有用ではあるでしょう。そういった意見がほしい先生もいるはずです。「寝不足でつらかった」なんて感想も、学生の息遣いを知りたい先生には興味深い情報ではないでしょうか。

そのように考えていくと、一般的に妥当とされる感想文の書き方があることは私も認めますけれども、単に感想文といったとき、そこに多様性があっていいはずだ、とも思います。ですから、「常識的に考えればわかるだろう」といった方向性は好みません。

場の雰囲気、メンバーの偏りなどのため、自然と同種の感想文がスススーッと集まって、それがバッチリ教師の希望と一致することは、決して珍しくない。しかしやはり、特定のタイプの感想文を確実に集めたいならば、教師は毎回ていねいに要件を示すべきだ、と私は思います。

福耳さんは、感想文を、まず理解度チェックに使いたい。その上で、個人的な体験や価値観に基づくプラスアルファにも大いに期待しています。

私なら、このようにいいます。

授業の最後に、いま配布した小さなレポート用紙に、感想文を書いて提出してもらいます。この感想文は、成績評価の重要な参考資料となります。まず、感想文を提出すると、出席点がつきます。次に、講義の理解度から、理解点がつきます。さらに、興味深い感想文には、ボーナス点がつきます。感想文には、ここが講義のポイントだな、と思ったことを書いてください。そして、自分の経験、身の回りのこと、あるいは関心のある社会問題などについて、今日聞いた話を応用すると、あれはこう考えることができそうだな、ということを書いてください。その他、さまざまな質問、異論、反論、感想文に書きにくい素朴な感想、板書の字が読みにくいといった苦情などは、裏面に自由に書いてください。興味深い意見にはボーナス点をつけます。全て加点法です。減点は絶対にしないので安心してください。

もう少し意図を明確化するために、「今日の話に賛成できない方もいるでしょう。しかしこれは理解度チェックのための感想文ですから、表面には、私が提示した考え方を前提とすると……という話を書いてください。異論、反論は裏面にお願いします」と言い足してもよいと思います。

補足

私がこんなことを書いたのは、福耳さんが「あれれ?」と感じた反応をした学生が、例えば経営学入門の期末試験でも「かわいそう」論を展開するのかな、と疑問を感じたから。

福耳さんは、講義の内容を理解できてさえいるなら、経営学の知見より「かわいそう」を優先するのは個人の自由、という意味のことを(コメント欄で)仰っています。現実的な目標設定です。ただ、理解はすれども賛同せず、という学生の理解度を確認する際には、工夫が必要です。自由記述の感想文ではいけません。

ようは「で、結局あなたはどう思うの」という問いの答えを書くのか、「授業の枠組みの中で高得点を狙った答え」を書くのか、という話で、自由記述の感想文は前者として理解されることが多い。だから、理解度チェックをしたいなら、ちゃんと指示しないといけない。

こういうことをきちんきちんとしていくと、限られた時間内で限られたことを教え、限定的な理解を得て良しとする他ない、教師の限界をしみじみと実感させられます。でも、それでいい。

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