学生の期末レポートの質が低くて困惑している先生の日記を読んだ。
ジェンダーの基礎知識については、そこらのジェンダー入門書を一冊読めばだいたい足りるので、最小限に止めている。それより何かを見聞きして自分の考えを自分の言葉で書いてまとめるトレーニングをした方が、学生のためになると思っている。
具体的に、どのようなトレーニングを課してきたのか、疑問に思った。
教育技術の初歩を適用するならば、まず例題を提示し、続いて標準的な解き方と、そのポイントを紹介、最後に練習問題に取り組む、という流れ。数学でも小論文でも同じ。学生時代、私は個人的な趣味として、弟が投げ出した進研ゼミの小論文講座に取り組んだが、やっぱり例題+考え方+練習問題の3点セットだった。
数学の問題に様々な解法があるように、小論文だって、唯一の模範的な構成など(通常は)ありえない。けれども、だからといって「主な考え方の枠組み」について教える必要がないかというと、そんなことはない。だいたい小学生を1000人集めたって、自力で掛け算を思いつく子なんか、いやしないだろう。
教師は問題を提示するだけでいい、あとは学生が考えるに任せる、なんてのは小学生に自力で掛け算を発見させようとするのと同様の無茶だ。掛け算を知らない小学生がいつまで経っても足し算一筋で問題を解き続けるように、学生もまた以前から自分の中にある考え方の枠組みから一歩も出ずに考察し続けるのだ。
文章なんか、何も教えずにたくさん書かせたって、さしてうまくなりはしない。いくら書き慣れても、接続詞の誤りなどは直らない。
ストーリーを説明しているだけのもの。個々の登場キャラクターについてはある程度分析できるが、物語の解釈ができてないもの。「でも」「しかし」が続いて何を言いたいのか論旨が不明のもの。ほとんど「性」について触れてないもの。途中からいきなり自分語りになって終わってしまうもの。改行すべきところで改行なし、句読点を打つべきところで無しなどあたりまえで、信じられないほど誤字が多い。
単に講義の度に学生に文章を書かせているだけなら、いつまで経ってもほとんど改善は見られないに違いない。
ストーリーの説明に終始するのは、他に何を書いたらいいのかわからないからで、この手の学生には、定番の「何かいう」技術を伝授するとともに、主張を中心に文章をまとめる文章構成の型を練習させる必要があるだろう。最初は穴埋め作文からはじめるとよい。
キャラクターの分析に注力して物語の解釈を忘れているケースは、ことによると出題側のミスである可能性がある。物語の分析を中軸に据えたレポートを書け、と指示していたのかどうか。
もちろんキャラ分析はできるが物語分析はできない、という学生の能力の問題である可能性は否定できない。やはりここでもまずは知識の拡充から入るのがふつうで、「物語」を分析する道具を授けるとよい。とりあえず「テーマ」と「モチーフ」の2語を学べば、みんな何かしら書けるようになる。
ジェンダーの授業なのに「性」にふれないのは、指示が不明確だったか、学生が何も思いつかなかったか。あるいは、かすかに関連があるから、それでいいと判断したか。何も思いつかない学生には、典型的なジェンダー論へ落とし込むパターンを授ける。判断基準がずれているなら、蛮勇を奮ってボーダーラインを示す。
改行がヘン、句読点がおかしい、これは時に教師のセンスが硬直的なだけで、世評の高い(文学)作品によりひどい(と教師には思われる)事例が存在するケースがままあるから、注意が必要。樋口一葉の小説なんか、衝撃的なまでに読みにくい。
しかしレポートは教師しか読まないわけであり、教師が俺基準を押し付けてもいいだろう。きちんと具体例を示し、AはNGなので、A'のように記述せよ、と指示する。毎年のことなので、一回くらい、きちんと説明資料を用意する手間を惜しむべきではない。
誤字、これはいちいち指摘し、減点の対象であることを学生に伝えること。多くの先生が誤字を減点の対象としていない。学生はそこに甘えている。瑣末なことだと思うなら放っておけばよく、そうでないなら、学生が痛みを感じるレベルで減点していく。
いずれにせよ、フィードバックは必須といえる。他人事だと思うと、学生は勉強しない。夏休み明けに成績表を見て「なんで?」と不思議そうな顔をする。採点済みのレポートを返却されてはじめて、学生は自分の弱点をきちんと認識し、勉強を始めるもの。
だからレポート指導は毎回行うべきだ。半期で10回くらいレポートの採点と返却を行えば、学生もそれなりに進歩する。最後の1回だけ、ではダメなのだ。
しかしレポートの採点はたいへんだ、ふつうは優秀な学生にアルバイトで採点を任せ、教師はチェックだけすればいいのだが、非常勤講師の給料だとアルバイト代を払えない。ボランティアは気紛れなので計算を立てにくい。仕方ないので、毎回の小レポートは400字以内の長さにする必要がある。
それでも、100人、200人が相手だと破綻する。大人数が相手なら、諦めて期末試験を正誤問題などの単答式にするか、文章力云々は気にしないことにするか、だ。指導できないなら文句をいってもはじまらない。