「男はつらいよ」映画第1作を見る。高度成長がほぼ終わった家庭に、日本が貧困に喘いでいた1950年代のメンタリティを持った寅次郎がひょっこり帰ってくる物語。
そうか、シリーズが安定して続いたわけだよな。だいたいその頃からずーっと日本の社会はなーんも変わってないもんね。2ちゃんねるで20代と40代の書き込みの区別がつかないわけだけど、それと話はつながってる。「男はつらいよ」シリーズ以降に生まれた日本人の価値観には大差がない。
ところで、さくら役の倍賞千恵子さんと、その妹の倍賞美津子さん、顔立ちは似てるのに、姉は生まれ育ちはともかく性格はお嬢さん風の役を得意としてきたが、妹は崩れ役を得意とするこの違い、いったい何に由来するのだろう。本人の性格の差なのかなあ。
若い頃はどちらもすっきりした美人だったんだけど、いつの間にか、とくに美津子さんの方、役柄に顔立ちが引きずられちゃったような感じで。いや、それは必ずしも悪くはなくて。このところ姉が歌手業を主とし、妹が女優業でむしろ近年いい仕事が多いのは、とてもよくわかる。あの顔だから説得力がある役が多い。
美人女優は歳を取るにつれ需要が減っていく。そもそも物語に老人枠は少なく、わずかに残されているのは、庶民的な、しょうもない中の優しさ、苦労した末の気品、あるいは加齢で煮詰まった性格の悪さを体現するキャラクター。それを表現するのには、今の美津子さんのような風貌がぴったりなんだと思う。
数少ない美人役は、八千草薫さん、吉永小百合さん、いずれ松坂恵子さんもその列に加わるのかな、ともかくあまり人数を必要としていないみたいなんだよね。
黒澤明「静かなる決闘」の看護婦役、千石規子さん、素晴らしい熱演で胸打たれたんだけど、その後の経歴を見るに、老いてから有名になった女優さんといってもいいと思う。老いると、かつては正統派の主演女優なんて考えられなかった人が、すごくいい役に恵まれるようになったりする。
倍賞美津子さんは、どっちもやってのけたわけで、いやはや、すごいよね。