忙しい人は1.と補記だけ読んでください。
この1年ほど、池田信夫さんと「リフレ派」の意見のすれ違いというか、お互いにバカにしあってる様子が、どうもよく理解できなかった。
今も何をわかってるというわけでもないけれど、素朴に、「こういうことかな」と思ったことがあるので、メモしておきたい。
おそらく、すれ違いの原因は、「リフレ」という言葉の定義にあると思う。
とりあえず、この辺。
すっかりハシゴをはずされた日本のリフレ派は四分五裂状態で、そのリーダーだった竹森俊平氏は「構造改革派」に転向してしまいました。飯田泰之氏も成長理論に軸足を移し、教祖の岩田規久男氏もリフレをまったくいわなくなりました。田中秀臣氏ひとりが「屋上の狂人」状態で、今度は政府紙幣に「転進」をはかっていますが、メディアも相手にしない。でたらめな話を誇大に宣伝して他人を中傷したことで、彼らの学問的な信用は失われたのです。
ここで名前の挙がっている田中秀臣さんは、竹森さんも岩田さんも飯田さんも、もちろん田中さん自身も、相変わらず金融緩和を訴えていることに変わりなく、また欧米の中央銀行と政府の多くが歴史的な金融緩和に踏み出していることから、リフレ政策が不況対策の常識である事実が再確認された、という認識を示す。
リフレ派ブロガーの状況認識は概ね田中さんと同様のようだ。
たしかに、急激な需要縮小のため供給力過剰となり、失業者が続出する経済状況に対して、「過剰な生産力を削減して身の丈にあった経済規模を目指すべき」という考え方で経済を運営しようとしている国は見当たらない。個別の産業については縮小整理が妥当と判断したりもしているようだけど。
しかしながら、池田さんの主張も、わからないではない。
なぜなら、「デフレこそが不景気の原因であり、緩やかなインフレを実現すれば景気は回復する」といった主張を掲げて経済政策を組み立てている国もまた見当たらないからだ。デフレは不況を加速するから、0%超のインフレ率を死守しよう、というコンセンサスはあっても、「インフレで景気が回復する」とはいわない。
いや、海外でも、資源価格が落ち着くとともに明白となってきたディスインフレ傾向(インフレ率が低下する傾向)を反転させることで景気を回復させられる、と主張する人はいるそうだが、主流派とはなっていない。デフレ回避は景気回復の必要条件だが十分条件ではない。
日銀が量的緩和に踏み切って以降、日本は金融緩和をし過ぎた、それが世界にバブルの種を蒔いた云々という池田さんの主張は、私には同意できない。円安バブルがどうのこうの、というのも同様。
それでも、数年前のリフレ派の先生方の主張は、たしかに私には「緩やかなインフレ率の実現自体が景気回復をもたらす」と読めたわけで、「いま欧米の経済政策を司る人たちがそういうことをいってますか?」と問われたら、「うーん……」と首を傾げてしまう。
政策メニューに差異はないのだけれど、説明はたしかに違うかな、と。
何らかのショックがあって需要が供給より少なくなると、設備投資が途絶え、失業が増え、消費が減って、不況となる。
そこで、以下の対策を行う。
欧米ではもともと緩やかなインフレが実現されていたので、2番目の効果は(さして)見込めない。だから欧米に目が向けた議論が続く昨今、1番目の効果ばかりが話題の中心にある。……ということなんじゃないか、と私は思う。池田さんの主張するリフレ派転向説は腑に落ちない。
緩やかなインフレの実現自体を目指すかどうかは、不況への対応から景気の調整へと目標を切り替える際に、判断を左右する要因となる。例えば、2006年の日銀の量的緩和解除は正しかったのかどうか。デフレが終ってないのに何故……と私は思ったけど、池田さんは金融緩和をやり過ぎたという。
それでも、当面の政策は金融緩和で一致しているので、リフレ派の転向云々は、しばらくは重要な問題ではないと思う。