趣味Web 小説 2009-03-10

田中秀臣「雇用大崩壊」の感想

田中秀臣さんの新刊。

雇用大崩壊―失業率10%時代の到来 (生活人新書)

個人的には最近のリフレ派の主張で、ココがわからない。(2009-02-04)に書いた疑問への回答があれば嬉しかったのだけれど、残念ながらさっぱりでした。

Amazon のレビューにも書きましたが、この本には、潜在的な賛同者にしか通じない書き方をしているという欠点があります。例えば、私が田中さんと意見を異にする埋蔵金の活用については、こう書かれています。

一時期マスコミ等で騒がれた「埋蔵金」ですが、これを財政政策に活用する手もあります。もともとこれは特別会計の剰余金、つまり国民から徴収した税金のうちの残りを積み立てたものです。外国為替資金特別会計や財政投融資特別会計などの中に、総額二〇~二五兆円程度が眠っています。人によっては掘りおこせば八〇兆円はあるのではないかと考えている人もいます。

これはつまり、国民から余計に取ったお金です。金利リスクや為替リスクへの対応といった理由付けがされていますが、それらはほとんど公務員の詭弁に過ぎません。ずっと使わずに持っているのであれば、国民に返すべきでしょう。

たとえば、先ごろ話題になった「定額給付金」の総額は二兆円です。それでさえも財務省は文句を言っていました。しかし実際には、二〇兆円程度は利用可能なのです。仮にこの全額を給付金として分配すれば、単純に考えて一〇倍ですから、一人当たり一万二〇〇〇円のところが一二万円になります。ちなみにわが家の場合だと、妻と子供の三人家族だから三六万円になります。

これだけもらえば、ある程度は貯金したとしても、少しは使う気になるでしょう。あるいはほとんど使ってしまおうという人もいるかもしれません。国民が国に余計に払ったものをただ返すだけで、かなり消費が刺激される。そういう形の財政政策は十分にあり得ます。

しかしこの「定額給付金」をバラマキであり、政策とはいえないと無責任に批判する人がいます。経済学的には政府の行う所得移転の典型例です。また、「埋蔵金」を赤字国債の償還に使うべきだという主張の人もいますが、なんで深刻な不況のときに不況対策には全く関係のない借金返済に使用するのでしょうか。理解に苦しみます。

私の疑問を列挙すると以下のようになります。

私は「雇用大崩壊」の主張の8割くらいには賛成します。だからまずまず面白く読めはしたのです。しかし仲間内で「いやー仰るとおり!」と言い合うだけならこれでいいですが、異論の持ち主(例えば私の父や弟)に啓蒙を期待して勧められる内容ではないと思います。

特別会計の積立金は過大だ、というなら、その論拠を示してほしいわけです。それなのに「公務員の詭弁」という結論しか書かれていない。私は、本当に詭弁なのかどうかを、自分で判断する材料がほしいのですよ。「20~25兆円」は使えるというその数字も、どういう計算に基づいているのか、知りたいわけですよ。

「特別会計の積立金は、以上の試算の結果から、20兆円ほど過大だと判断できますので、財政政策の財源として活用できます」といった書き方なら、すんなり読めるのです。

何から何まで基礎データから説き起こすのは現実的でない……それは承知しています。田中さんも全く根拠を示していないわけではありません。しかしあまりにも少ない。その数少ない根拠も、数字の出典が書いてなかったりする。私が「書籍」に求めるものと、いささかのズレがありました。

まあ、ブログを加筆再構成した本だと思えば気になりません。じつのところ、こうした書き方をしている経済書は少なくありません。ジュンク堂書店で「経済学」コーナーに置かれてる本がこれでは困りますけれども、「経済評論」コーナーに並んでいるのは、たいていこのような本です。

危機を超えて──すべてがわかる「世界大不況」講義

伊藤元重さんの新刊。田中さんの「雇用大崩壊」と同じ欠点を持つ本。潜在的賛同者以外が読むと、論拠が提示されないから納得のしようがなく、イライラすることになります。

こういう、グラフの類を一切含まず、結論だけを延々と書き連ねる本というのが世間ではよく売れるらしい。経済学コーナーと経済評論コーナーでは賑わいが全然違う。結論しか書かれていないのに納得するもしないもないと思うのだけれど、直感的に「そうだそうだ!」となったらそれで満足という人が多いみたい。

……でも、私なんかが思い付きを書いている経済関係の記事にはてブがいくつもついたりするのと同じかな。はてブで、きちんと論拠を示している経済記事が爆発的な人気を博した例は少ない。かくいう私も、本が相手だと「論拠を示せ!」と思うのに、ブログならいちいち気にしない。線引きの問題か。

ともあれ、きちんとデータなどを示したら小難しそうと思われて敬遠されたりするのだとすれば、手抜きをした方が売れるということになり、残念なことですね。

こういった種類の文章なら、「結論しか書かれていない」なんて不満はいわない。たとえ書籍の中の文章であっても。まあ個人的な基準の問題なので、いちゃもんだと思われるならそれでもいいです。

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