趣味Web 小説 2009-04-09

「外れ年」の新入社員たち

新入社員って年によってかなり態度が違うのだけれど、多分、空気で動いているからなんだろうな。新入社員の中で影響力の強い人の性格に引きずられる、みたいな。配属されてバラバラになった新人は、集団の持っていた個性が落ちて、これといった特徴がなくなってしまう。

私が連想するのは、スキー板のお化けみたいなものを使うムカデ競争。テレビのバラエティ番組でときどき見かけるこの競技では、どういうわけか先頭の人の技能・性格が大きな意味を持つ。メンバーが同じでも、並び順を変えて先頭を交代するだけで、前進速度が1割くらい変化する。

新入社員のような、右も左もわからない集団は、拠り所となるものを求めている。ムカデ競争の2番手以降が、視界を奪われて前の人に盲従する他ないのと同じだ。足は板で結ばれているのだから、板を動かす速さは誰が決めてもいいはずだが、実際には前方視界が開けている先頭の一人だけがペースを作れる。研修中の新人の場合は、空気を作る能力を持つ者が、先頭の一人にあたる。

今年の新入社員はあまり挨拶をしない。背後から挨拶されても無視するし(ひょっとしたら自分が挨拶されているのかも、だったら返事しなきゃまずいよな、という感覚がない)、スーッと視線を外す内向的な先輩社員や、尊大に構えて返事をしない先輩社員に対して、一方的に挨拶することもない。

先輩社員がみな挨拶に積極的なら話が違うのだろうが、これがバラバラ。傾向としては、挨拶は必要最小限にしよう、という感じの人が多い。だから、「新人は新人らしく」と考えて「研修中くらいは元気よく挨拶していこう」という年と、「先輩の真似をしよう」という年に分かれる。

ふだんは会釈ですませている先輩社員たちも、新人には興味を持って「おはよう」と挨拶してみることがある。期待しているのは、元気な返事。1年分の元気をもらうんだ、と楽しみにしてる人もいるくらい。が、今年の新人は、目線が外れている場合、挨拶を無視してしまう。先輩社員は衝撃を受け、「外れ年」と囁きあう。

自分に対する挨拶じゃないのに返事をしてしまうのは、本人は恥ずかしいかもしれないが、それで怒る人はまずいない。挨拶を無視して相手を怒らせるリスクを重大視すべきである。……が、ロッカールームなどで自分が会釈以上の挨拶をされることが年に1回もないくらいなら、リスクはきわめて小さい。そうなると「恥ずかしさ回避」の優先順位が上になる。

何かと気にされ、声を掛けられることの多い新人と、お互いに見飽きた古株とでは前提条件が違うのであって、背後から挨拶されたときの対応を、先輩社員から学んではいけない。

私も挨拶無視にグワーンとやられて、こういう話をしようかな、と思った。でも、30秒程度の会話で、ニュアンスをうまく伝える自信がない。「無視すんなコノヤロー」と解釈されるのは堪らない。いや、そういう気持ちは強烈に持っているのだが、それは伝えたいことではない。結局、黙っていた。

彼らには1~2年くらい、「外れ年の人」という先入観がついて回ることになる。まあ、配属先では個人の言動が注目されるので、単純に各個人がそれで不幸になることはないだろう。「意外と……礼儀正しい!?」なんてね、かえって評価されるかも。

それでも、最初にネガティブな印象を持たれるのは、つまらないことだと思う。

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