趣味Web 小説 2009-09-16

福島瑞穂:編「産まない選択―子どもを持たない楽しさ」について

0.

民主党政権で少子化対策の担当大臣に内定した社民党の福島瑞穂さんは、1992年に「産まない選択―子どもを持たない楽しさ」という本を編者として刊行しているよ、という記事。はてなブックマークで話題になっているようですね。

この本はあまり売れなかったみたいで、中古市場にもあまり流れていない(日本の古本屋くらいでしか見つからない)し、市町村レベルの図書館にも蔵書されていないことが多い様子。なので、簡単に内容をご紹介します。

1.目次

はしがき i
Ⅰ 対談 産む・産まない、どちらも正しい!? 1
   「搾取」か「創造」か―出産・子育てをめぐる攻防 福沢恵子・福島瑞穂 3
   出生率という名の危険な罠 諫山陽太郎・緒方由紀子 51
Ⅱ 手記 産まないかもしれない症候群 71
   バンになんか乗りたくない 梶原葉月 73
   二十七にもなって 佐々木さとみ 83
   産みたくない理由 久々湊典子 94
   出産・育児の不安がいっぱい 清水富美子 104
   楽しければいいじゃない、産んでも産まなくても 椋野美智子 120
Ⅲ 手記 子どもって結局……!? 151
   産む・産まない……どちらの人生も楽しかりけり 山本美知子 153
   “子無き”も生きる 勝野正子 173
   産まない理由 佐藤みどり 186
   終の願いを夫婦におかず親子におかず…… 椎野礼子 202
   子ども以上のもの 高木由利 219
あとがき 236

2.Amazonに投稿したレビュー

タイトルで早合点しないでください。福島瑞穂さんの編集意図は 1)様々な「産まない理由」を紹介する 2)出生率低下論議に複数の視点を提供する 3)出産・育児環境整備への要望の大きさを示す 4)生の声を多数紹介し読者に思考の契機を提供する の4点だと後書きに記されています。

本書は3部構成です。第1部は2本の対談記事による問題の概括と興味深い視点の提供、第2部・第3部は各5人(計10人)の手記による個別事例の紹介、となっています。編者の福島さんは出産・育児の経験者で、その体験を明確に肯定しています。その一方で、他者の「産まない選択」にも理解を示し、その判断を尊重します。

手記の書き手は様々です。積極的に「子どもはほしくない」という人の他にも、不妊治療に取り組んだが体外受精までは踏み出せなかった人、「2人目はほしくない」という人、居心地のよい現状を崩す動機がない人、将来的には産むかもしれない人、などなど。

一見バラバラながら、本書は「人生選択の自由を阻害する社会はよくない」という大きな主張に貫かれています。「産まない選択」が非難され人格・尊厳を傷付けられ沈黙させられることも、「産む選択」が生涯収入の激減・個人の時間の激減・教育費等の出費増など大きなコストと引き換えになることも、どちらも改善されるべきなのです。

「産まない選択」というタイトルは、本書が編まれた1992年頃に盛んだった福祉国家構築の議論が背景にあります。編者らは、出産・育児の障壁が下がった未来に「それでも産まない」人々が社会に糾弾されることを恐れたのです。現実には、その後の17年間、体感的な出産・育児の困難は増大する一方でした。

結果的に「産まない」人は「産めない」と説明すれば納得される社会となりましたが、それでよいわけがない。「産まない」選択への理解も全く進んでいない。本書の視点は現在も有効です。

レビューが掲載されたんだけど……

なぜか分からないが、いきなりたくさん「参考にならなかった」票が入ってる。一体、このレビューの何が不満なんだろう。

3.

第1部に収録された福島瑞穂さんと福沢恵子さんの対談から、一部を抜粋。

福島
私は何で子どもを産んだかといったら、ありあまる愛情のはけ口がほしくて……。私は過剰エネルギーの人だから、エネルギーのはけ口がほしかったのよね。だからちょうどよかったのよ。
福沢
(略)私は逆に過少エネルギーだから、(略)たぶん今あるものを薄めて使わなくちゃいけない。(略)
(略)
(略)
福島
私は自分はラッキーだとは思うけど、人に勧めようとは思わないわね。(略)なぜ人に勧めないかというと、社会がいろんな人にあまりにも子産みを勧めすぎてるからよ。人が誰も勧めなかったら逆に勧めるけど、みんなが勧めてるものを私も勧めることはない。それよりは産まない選択を勧めたほうがいいんじゃないかと。
(略)
(略)
福沢
子どもがいるかどうかが「健全」や「幸福」のもの差しに使われる限り、子どもを持つ人も持たない人も不幸だと思う。子どもって人生の“必修課目”というよりは、クリエイティブな“選択課目”という程度に考えられたらなあ、と思うんだけど……。
福島
そう、それぐらいになるといいね。

福島さんは弁護士という職業の特性、家族の理解と協力もあって、仕事と子育てを無理なく両立させてこられた……というのが引用部の前提となっている両者の認識です。福島さんは社会的な強者であり、ラッキーだった。誰もが福島さんのような環境に身を置くことができたら、出産・育児が人生のその他の要素を阻害する程度が相当に緩和されるので、「産む選択」をする人が増えるだろう、と。

その上で、「多くの人の願いがかなって、そうした状況が実現したとしても、社会が個人に出産を強要するようなことは絶対にいけない」という話に進むのが、この本の特色です。少子化問題を語る本の多くが、「大多数の若者は結婚・出産・育児の希望を持っている」ことを調査結果などを元に示し、その阻害要因を排除する手立てを提言して筆を置いているのとは一線を画しています。

1992年頃といえば宮沢喜一さんが首相を務め、福祉国家の建設を謳っていました。保守政党が主導する少子化対策としての福祉増強策には、「これだけ障壁を下げたのに子どもを産まないのは身勝手」となりかねない……との警戒感があったんですね。

あと個人的にちょっと興味深いと思ったのが、福島さんのバランス感覚。誰もが「出産なんてバカらしい」と言い出したら、それは反論せずにはいられない。だけど現状は、子どもを産まない女性はよってたかって問い詰められる、「なぜ産むのか」は追及されないのに、「なぜ産まないのか」は何度でも何度でも説明を求められる。それでみんな参ってしまう。法的な強制はされていないが、社会の圧力は個人の人生選択の自由を大いに邪魔している。だから「産まない選択」を社会に提示して、一方に偏ったバランスを是正したい、と。

福島さんは様々な問題について少数派の主張を唱えることが多いでしょう。でもそれは、必ずしも福島さんが偏った意見ばかり持っていることを意味しないのではないか、と思いました。

4.

産めない理由を探せばいくらでもあると思うけど、それって結婚できない理由探しに似ている。

結婚しないんじゃない、いい人がいなくてできないんです、と言い続けて、ついに、身長、学歴、収入ともに高い、いわゆる三高じゃなきゃ結婚できない、と言い出したのと同じ。そこまでくれば、いい人がいなくて結婚できない、じゃなくて、結婚したくないんだ、とわかるよね。

要するに、女も結婚しないで生きられるようになってきたから、結婚するしないを選べるようになってきたから、そして、相対的に結婚のメリットが少なくなってきたから、条件がよくないと結婚したくなくなったってこと。

(中略)

産めないんじゃなく、産まないんだから、産みたくないんだから、産めない理由として挙げるものを一つずつつぶしていったって(つぶせるかどうかは別として)、出生率は上がらないと思う。ちょうど、本当に三高の人が出てきたら喜んで結婚するかっていうと、そうとは限らないように。

それよりも、子産み・子育ての魅力が増すような方策をとったほうがよほど出生率は上がると思う。(中略)

それでも、子産み・子育てによって失うものが少ないに越したことはないんであって、私は、住宅政策や教育政策がこのままでいいと言っているわけではない。ただ、そうしたからといって、たいして出生率は上がらないだろう、と言ってるだけ。

個人的にビビッときた椋野美智子さんの記事を引用しました。過去に私が書いたことと共通点があるんです。よろしかったら以下の記事を参照してください。

この椋野さんは、厚生白書(平成元年版)の執筆者の一人で、現在は大分大学教授の椋野さんと同一人物だと思う。職業が「公務員」となっているし。椋野さんの本は以前に読んだことがあるんだけど、とってもフォーマルな文章だったから、ギャップがまた面白かったというのも少しあります。

えーと、引用した文章は、仕事ではなく私的な活動として書かれたエッセイなので、引用した文章を悪意に解釈して「これが厚労省の本音だ!」とかいうのはやめてくださいね。

はじめての社会保障 第7版―福祉を学ぶ人へ (有斐閣アルマ)

これが以前に読んだ椋野さんの著書。大学生向けの教科書らしいのですが、一般人でもスルスルっと読めます。日本の社会保障制度に関心のある方にはお勧めの1冊。

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