どちらの意見にも不同意。急進的な大改革を志向する、一種の「根本病」だと思う。過去、根本病で組織が疲弊した事例には事欠かない。放言の自由を守るためにも、この手の意見が話題になったら、批判の方も盛り上がってほしいと思う。じゃあお前がやれ、ってことになるから困るんだけど。
根本病は普遍的に見られるもの。例えば食糧問題について、以前こんなブックレビューを書きました。
日本国内での食糧増産を提言する本です。現時点では少数派に属する著者の主張が強く前面に出ており、初心者の「1冊目」としてはお勧めできません。初心者の「1冊目」は、網羅的な構成を有し、幅広い意見を落ち着いた筆致で紹介する本が望ましく、例えば末松広行「食料自給率のなぜ」がその条件を満たすと思います。
本書は一般向けにわかりやすく書かれています。「世界的に食料の需要が増える一方、供給は頭打ちとなっており、食料価格の高騰は続く、日本は減反をやめ食糧を増産すべき」という論理が一貫しており、リズムよくすらすら読めます。裏付けとなるデータも豊富です。
ただ、本書には著者が自明と考えて説明していない「前提」がいくつかあることに注意してください。そしてじつは、その「前提」が実際には必ずしも自明ではないために、政府が食糧の増産を「目指す」ことに消極的な意見、反対する意見が出てくるのです。
著者の主張の特色は、「今すぐ」食料の増産を目指すべき、とする点にあります。その理由は、農業従事者の平均年齢が高く、近未来に農業人口が急減すること。しかしこの議論には、「農業技術の継承には非常に時間がかかる」「農業への新規参入は難しい」といった前提が隠れています。いずれも手強い反論がある事項です。
より根本的には、著者は「社会を予め調整して状況の変化に備える」計画経済と同様の考え方を採り、自由経済の「価格による調整」を忌避しています。資源配分の歪みを嫌う市場重視の立場とは対立する考え方です。
海外の食料価格が高騰した現在も、国産品価格とは3~8割の価格差があります。強引に食料自給率を上げれば、税金による補助と合算した真の食料費は激増します。著者の提案は国民の大きな負担を伴うものだけに、著者の議論の「前提」は絶対ではなく、様々な異論がありうることに注意しながら読んでください。
私は基本的に市場を信頼する考え方に与し、「一部のエリートが社会を善導する」というタイプの意見には懐疑的です。政府の役割は市場がよりよく機能するような制度と環境の調整にとどめ、市場の直接操作には慎重になってほしいのです。
私の意見をまとめると、計画的に日本語を滅ぼすとか、天下り式に政府が「簡単」な新日本語を制定し普及させるとか、そういう意見には賛成できない。個々人の自由な判断の集積の結果、日本語使用者が減っていく、「簡単」な新日本語が普及していく、それを待つことに何の不都合があるのか。
この本は、議論のある集団が、議論のない集団より、おかしな結論を出しやすい可能性を示していて面白い(ただし著者は何も証明していない)。その問題について、人々の自然な判断より、エリートの計画の方が優れている、と考える根拠は何か。