趣味Web 小説 2009-11-04

memo:たしかに価値観の衝突でも議論は成り立つ

1.

ただ――先方のコメント欄に書込んでゐる間に氣附いたんだが――議論の目的が「面白さ」であると云ふ點、價値觀の衝突は「止揚」なる結論でしか解決出來ないと云ふ點、私は異論がある。

私にしてみれば、二つの意見が衝突した時、理論的・實證的な理由で一方が勝ち、他方が負ける事は「ある」(後略)。

これはその通りだと思う。

或程度は互ひに共通する價値觀があるものと看做して、我々は一つの社會を作つて、一つの國家の下で暮してゐる。ならば、そこで我々は、價値觀に關する議論を、限定的であつても、出來る筈である。それは一種の神學論爭になるが、神學論爭が理性拔きの感情論だけで行はれ得るものと期待してはならない。寧ろ、限定的である事を自覺して、我々は理性的に「神學論爭」としての價値觀の論爭を行ふ必要がある。そして、そこでは、科學の單純な論爭と異つて、ややこしい檢討が要請される事になるけれども、愼重に檢討を進める努力をしても良い筈だ。場合に據つては、相違する價値觀を互ひにすり合はせる努力だつて、して良い。實は、それが多くの人に認められない事であるのだが、自分の價値觀に拘らねばならない場合しかないだなんて、それこそあり得ない話だ。しかも、案外「我々の價値觀」は、より上位の價値觀の下にある事が多く、その時には、より上位の價値觀(我々が互ひに認めてゐるものであるならば)に、より合致する下位の價値觀(その次元で議論してゐるならば)を、我々は受容れなければならない。

まあ、同意できる。

何んなにマイルドな口調で語つてゐたとしても、一方的に喚き散らしてゐる主張なら、それは論戰を仕掛けてゐるのと同じだ。聲の大きさで、他人を壓倒する結果を期待してゐるのなら、それは暴力的な行爲だと言つて良い。論爭・議論ならば、主張は客觀的に批判され、評價されて、判定されなければならない。

このあたりは、異見のあるところ。

2.

私の書く文章は一方的に喚き散らしてゐる主張に該当するものが多い。聲の大きさで、他人を壓倒する結果を期待してゐることも否定できない。そういう気持ちはある。だから暴力的な行爲だと言つて良いと私も思う。

じゃあ何に同意しないのかというと、論戰を仕掛けてゐるのと同じという判断ですね。たいていの人は、たいていのテーマについて、とくに何も考えを持っていない。そういう人たちにこそ、何かを訴えたい。既に自分と異なる考えを持っている人を説得するのは、きわめて難しい。だから議論しない。

形式的には特定の個人の文章への異見表明であっても、本意は違う。いや、ホントのホントをいえば違わないんだけど、同じ時間を割くなら、議論をするより、第三者に向けてスピーカーの音量を大にして一方的な発信を続ける方が、「より多くの賛同票を得る」には効率がいい。

そうしてどんどん勢力を広げていけば、いつか、異論の持ち主を説得しなきゃならない。どちらかが論争に勝つのを待っている(それまでは判断を保留する)人々を味方につけるには、論争をやって、勝つしかない。でも、一般のブロガーは、そういう場所には到達していない。

ただ、こっちが「議論しません」という姿勢だからって、「議論なんて無意味」なんてことをいう必要はない。そうやって勇み足をするから、「そりゃおかしいだろう」という話にもなる。議論が必要なら、価値観対立だって、たしかに野嵜さんのいうとおり、一定の客観性を持った議論にはなるもの。

3.

私がいろいろな「議論」を見ていて思うこと。きれいに勝敗がついたのに、負けた側が納得していないケースは、議論に「失敗」しているのではないか。双方が認める共通の上位価値観に遡って決着をつけたとしても、じつは負けた側にとって、それは真の上位価値観ではなかった、というような。

具体的には、例えば、人権というのは大きな概念だから、「人権の尊重」は上位の価値観だとみなされやすい。ところが、個々人にとって、「人権の尊重」は必ずしも上位の価値観ではなく、下流で判断に困ったときに持ち出す程度のものだったりするわけです。

だから「応報思想」が真の上位価値観である人が、「人権の尊重」を持ち出され、「それでは死刑には反対ですよね」と負けて、もやもやします。「そんなに俺、人権とか気にしてないんだけどな。明らかに証拠も揃ってて、本人も人を殺したと認めてるのに、死刑を選択しないのが正しいなんて納得できないな」と。

このような、形式的には下位だけど個人にとっては上位という概念が世の中には多い。結論こそが重要で、いまそこに付随している理屈は全部後付けだから交換可能、ということだって、そう珍しくもない。

ブロゴスフィアではそもそも「議論する必要がない」から、双方言いっ放しで終るのが大半。3.でいっているのは仕事上の会議とかの話です。例は違うけど。

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