私は自分で物語を書くつもりはありませんが、作家が小説作りの苦心惨憺を記したエッセイなどは好きで、これまでに10数冊は読んでいます。あと、あとがきなどで執筆の様子が書かれているのも好きです。
なるほど、そういう表があると書きやすいのでしょうね。でも実際にこんなことしてる人は珍しいと思う。アイデアを書き溜めるノートを持っている方は結構いるみたいですが、プロットは頭の中、いきなり原稿用紙に向かっている人が過半、という印象です。
数年ぶりにシリーズ作品を書く際、キャラクターを忘れてしまったので編集者にリストを作ってもらった、なんて述懐は何度も目にしてきたし。だから、リンク先記事のような面倒なことを実際に行っている現場があるとすれば、複数人でシナリオを分担するケース。映画、テレビドラマ、ゲームなどに限られそう。
作者死亡で未完になった小説の巻末には、しばしば多少のフォローがありますが、しっかりしたプロットどころか、結末が書かれているのすら見たことがない。取材メモは残しても、物語の先行きはメモにしないらしい。
リンク先記事の紹介している表を順番通りに並べてみると、こうなります。説明の都合かもしれないけれど、ちょっと変な感じ。
最初の「マンダラート」はアイデアを3×3のマスで整理する表。アイデアを整理して、着想を得るもの。
常識的には、次は「テーマ設計表」ですよね。いきなり「5W1H表」が書けるなら、既に物語は出来上がっているわけで。うーん、でも3番目が「対人関係マトリクス」だから、これはキャラクター先決めの物語作法を想定していて、「キャラクター設定表」を「使える」形で再編成しよう、という提案なのかもしれないな。
「主人公―ライバル対照表」は物語の点検に用いるもの。アンバランスを設計段階で発見します。
「ストーリー構成表」と「プロット細分表」はプロットを整理する手法。だらだら書くより、ちゃんと整理した方がいいよね、という。
こうして眺めてみるに、やはり物語の作者が使うというより、「批評家や卒論を書く学生が物語の分析に用いるべき7つの表」なんじゃないか、と思いました。
「グイン・サーガ」は12月9日発売の130巻で途絶。薄い本で、なるほど絶筆とはこういうことか、と。そして、フォローはほとんどなし。栗本薫さんも「いきなり原稿用紙」タイプだったんじゃないかなぁ。
ちなみに「グイン・サーガ」は外伝21「鏡の国の戦士」であらかじめ本編より未来の世界を描いているので、そんなに無茶苦茶な未来はないと、わかってはいるわけですが。それにしても2009年刊行の各巻で1981年刊の外伝1「七人の魔道師」の時代にほぼ追いついたのには感動しました。
小説の「書き方」を諄々と説いた本も面白いんだけど、そもそも「どうやって物語のアイデアを案出するのか」というのが、作家を目指す方の多くが一番知りたいことではないかと思う。阿刀田高さんの「アイデアを捜せ」は、まさにその問題に焦点を当て、出し惜しみせずに書かれた珍しい本だと思う。
ネタバレを厭わず、実際に発表された作品を例に語っているのがすごい。「作家の頭の中」を開陳したエッセイ集としても一級品の面白さなので、興味のある方はぜひご一読を。Amazonにレビューも書いてます。(私は阿刀田ファンゆえ、紹介の文句は適当に割り引いてください)