趣味Web 小説 2009-12-29

自分の作り話に泣かされる

仕事納め。昼のお弁当のオマケに蕎麦が出た。もちろん、お弁当の蕎麦だから、コンビニ弁当方式。ビニールパックされたつゆをぶっかけで食べる。問題は、このつゆが残ること。

オマケなので、蕎麦はPETの透明な容器に入っている。会社は事業所だからゴミの廃棄は有料。お弁当由来のゴミは全て弁当業者に引き取ってもらう。なので蕎麦のPET容器も会社のゴミ箱とは別枠で、弁当業者の用意したビニール袋に捨てることになっている。前述の通り、容器にはつゆが残っているが、そのまま蓋をして捨てる。通常なら、何も問題はない。だが今日は。

「うわっ」と声を上げてしまった。ビニール袋の底部の溶着に不備があったらしく、角にたまったつゆが床のカーペットに滴っているのだった。「どうしたの」「ほら、あれ……」「あー、たいへんだ」「雑巾を持ってきます」ここまではいい。

私は(周囲の人の利益より自分の感情表現を優先させがちな)無防備系社員なので(クビにならなきゃいいでーす、昇進とか興味ないしー、みたいな)、だんだん眉毛がハの字に。つまんないことに気付かなきゃよかった。誰かがやらなきゃならないことだとはわかってるけど、なぜ昼休みにこんなことをする羽目に……悲しい……。

「あれっ、何かのバツゲーム?」別の人がやってきた。
「いえ、ちょっと袋に穴があって。気付いたので掃除してるんです」
「そう、でも……」私の表情が気になってる様子。ふと、悪乗りしてみたくなる。
「じつは、小さい頃を思い出しまして。年末になると、母に「コラッ、これは*月*日にお前が味噌汁をこぼしたシミじゃないか。あっちは*月*日にジュースをこぼした跡だねっ! ちゃんと責任を取って完全にキレイにするんだよっ!」って、絨毯の掃除をさせられていたなあ、と。でも、汚したときにすぐ掃除しても残っちゃったシミなんて、年末にどうやったところで全然落ちないんですよね。朝からはじめて、ずーっとゴシゴシやって、夕方、日が暮れてくると無性に悲しかったのを覚えてます……」

「なーんてウソですよっ!」というはずだったのが、ホントに涙がこぼれてきたので笑ってしまった。何だこれ。

こうなるともう、何をいっても信じてもらえない。「なんて可哀想な人なんだー! みんなが昼寝してる昼休みに幼少期のトラウマを刺激されてしまうなんてっ!」という感じで一緒に掃除を手伝ってくれたんだけど、気まずかった……。

私は優しい両親に育てられたせいか、よその子が、とくにお母さんに冷たくされているのを見ると泣けてくる。でもまさか、自分の作り話に30秒もかからず泣かされるとは思わなかった!

こういう能力も、安定して発動してくれるなら、いろいろ使い道もあるんだけどね。何かこう、例えば、「いま自分が真剣に仕事に取り組まないと地球が破滅する」みたいなお話を作って、バリバリ成果を出すとかさ。でも、実際にはどうでもいい場面でしか発揮されないんだよね。残念だ。あー残念だ。

ていうか、そもそも小さい頃のつらい思い出なんて作り話、聞かされても少しも面白くないぞ。なんでそんなのがジョークになりうると判断したんだろうか、半日前の自分。プロの芸人でもスベるのだけれど、一応は勝算があってやってるわけでしょ。こっちは脳内スキャンしても何も出てこないもんな。謎い。

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