いつものことではあるのだが。
Twitterの反応やはてブの反応も大筋で2chに同調。これ、スレ立てした人の誤解が拡散しているという事例。疑問を呈している人を含め、元の情報や他の専門家の意見を確認しようとする人が(ほとんど)いないらしい。情報発信力の大きな人の誤解をベースにみんなで騒いでいる。
それもさ、単に驚き戸惑っているだけならまだいいけれども、自分の不勉強を少しも不安に思わずに、他人に対して「死ね」といえてしまうのだから、ゾッとする。
ポイントは、新しい放送法が通信分野も扱うこと。そこで第二条を改正し放送の定義を拡げている。
「放送」とは、公衆によつて直接受信されることを目的とする無線通信の送信をいう。
「放送」とは、公衆によつて直接受信されることを目的とする電気通信(電気通信事業法(昭和五十九年法律第八十六号)第二条第一号に規定する電気通信をいう。)の送信(他人の電気通信設備(同条第二号に規定する電気通信設備をいう。以下同じ。)を用いて行われるものを含む。)をいう。
うるさい語注を略すと、ようするに「無線通信」が「電気通信」に変わったわけ。そして話題の第六十四条は、現行法の第三十二条と一字一句同じ。
協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、協会とその放送の受信についての契約をしなければならない。ただし、放送の受信を目的としない受信設備又はラジオ放送(音声その他の音響を送る放送であつて、テレビジョン放送及び多重放送に該当しないものをいう。第百二十六条第一項において同じ。)若しくは多重放送に限り受信することのできる受信設備のみを設置した者については、この限りでない。
焦点は、「放送の受信を目的としない受信設備」という記述の解釈。「NHKの番組は視聴していません」と抗弁しても、テレビにアンテナ線をつないでいれば受信料を徴収される、という体験から敷衍して、(NHKオンデマンドを受信できる)WWWを利用可能なパソコンからも受信料を徴収されてしまうのでは? と不安になるらしい。
NHKオンデマンドは子会社がNHKから番組を買って提供しているサービスで、そもそも協会の放送たりえない。それにNHKオンデマンドは会員制サービスであって、「公衆」は受信できない。だから大騒ぎしている人には、「杞憂ですよ」といいたい。
「今はそうでも、将来、NHKオンデマンドが本体サービスになったら? 誰でも自由に番組を視聴できるようになるかもしれないよ? そういう可能性はあるじゃないか。不安だね」と突っ張られたら、私の知識では論駁は難しい。でも法律の改正というのは必要最小限にとどめた方が安全確実なのであって、生命に関わる重大な問題でもないのだし、小さな可能性にいちいち対処するべきなのかどうか。
それに、たいていの人は既にテレビ放送の受信設備を持っているのだから、NHKと契約しているはず。であれば、パソコンは2台目以降のテレビ受像機と同じ扱いになるので、ほとんどの人に追加の負担はない。これは携帯電話のワンセグ放送受信機能と一緒。
おそらく改正案がストレートにヒットするのは、「有線放送」は「放送」ではないので受信料を支払う義務はない、と突っ張ってきたケーブルテレビ利用者の一部ではないかと思う。放送法における「放送」は「無線通信」なので「有線放送」の上位概念ではない、という主張を支えてきた法文が消えてしまうわけなので。