入社して半年ばかりたった男の子が、「来月友達と旅行行くんで1週間休んでもいいですか?」とかいってきた。
急にそんなこと言い出したから「ちょっと、さすがに一週間は無理でしょ」って注意したら、酷く怯えたような、物悲しいような恐ろしい顔で私のこと見てたけど、今考えるもっととソフトな言い方すればよかった。
とくに立て込んだ予定も入ってなかったから休ませてあげたい気持ちもないことはなかったけど、そんな習慣はなく、そもそもだれも有給休暇を消費しない社内環境で、上司や他の同僚が聞き耳立ててる状況ではやっぱり無理だよ。そんな恐い顔しないでよ。
あっても使えなくてさらにへんな罪悪感を植えつけるような制度なら最初から無くなって欲しいよ。
一読、ゲンナリする。不景気ってのは嫌だね、こんな会社をさっさと辞められないんだもん。
私は新人研修のときに、偉い人から「新人のみなさんは、ぜひ自由な発想で、会社のおかしなところを指摘してください。我が社では中途でも多くの方を採用していますが、とくに分けて新卒も採用しているのは、社会人の色に染まっていない、皆さんの若い感性を大いに取り込みたいと考えているからです。素朴な意見、取り繕わない正直な意見を大歓迎します」というガイダンスを受けた。
だいたいさ、自分が勇気がなくてできないことを、まだ空気を読めてない新人がやってくれるのって、すごく嬉しいことじゃない? これ幸いと新人をダシにして、前例をどんどん作っちゃえばいいのに。「部下ばっかり休んでいるのもどうかと……」とかいって、そのうちに自分も休みを取るようにするの。
有給休暇なんてのは、誰かが戦わなきゃ使えるようにはならないんだ。私の勤務先でも、「GWと有給休暇を組み合わせて半月連続で休む」というのは、ちょっと気後れする人が多くて。「新婚旅行に行かなかったので、銀婚式の記念に」とか「この機会に自動車の免許を合宿で取ろうかと……」なんて理由を作って、一生に一度の思い出作りくらいのつもりで使うというのがパターンだった。
ところが、中国からやってきた新入社員が、正月休みでいきなり半月休み、次のGWでまた半月休んでみせた。その後も毎年、年2回、半月連続の休暇を取り続けている。「うわっ、スゲー」と話題になったんだけど、3年経ったら「とくに理由はないけど」別の社員が半月休んだ。そうして少しずつ、その中国人の社員のいる職場だけだけど、半月連続で休むのに「言い訳はいらない」という常識が形成されていった。
私の勤務先ですら、労働者が当然の権利を行使しているだけなのに陰口をいう人がいる。「スゲー」じゃなくて、「何だアイツ……」っていう。不思議に思って、「あの……彼が休んで何か困ったことでもあったんですか?」と訊ねたが、答えはなかった。
念のため、書いておきたい。実際問題、誰も有給休暇を取っていない会社というのは、それを前提に給与水準と人員配置が設定されている。急に社員全員が有給休暇を消化したら、売上が落ちて、翌年の給与は減ることになるだろう。これまでの仕事の仕方には無駄があったはずなので、生産性を向上させれば……なんてのは理想論で、現実にはそうはいかない。
そういう意味では、休みを増やすより給料を維持したい人が、直感的に反発することには3分の理があるとは思う。もしずっと1人だけが有給休暇を消化し続けるなら、実質的には一種のフリーライダーになるわけだからね。
有給休暇取得の戦いに必要なのは、「無責任さ」というより「鈍感さ」かな、と思っている。