私は基本的に功利主義に与するので、「無条件で成立するルール」なるものに正当性は認め難い。
『仮面ライダーOOO』という作品があって、公式アカウントがtwitterのハッシュタグを#OOOと設定したのだという。ところが、オープンソースのオフィススイートを開発しているOpenOffice.orgが、#oooというハッシュタグを何年も前から使っていた。
ハッシュタグとは、twitterの検索機能を用い、特定の話題について触れているつぶやきを一覧表示するため、同じ話題に興味のある人同士でつぶやきの末尾にくっつける文字列のこと。twitterの検索エンジンは大文字小文字を区別しないので、#OOOは#oooと区別されないのだった。
結局、仮面ライダーOOOの公式アカウントは、ハッシュタグを#KROOOに変更したとのこと。
そもそもハッシュタグは自然発生的に生まれたもので、現在もtwitter運営に「管理」されてはいないそうだ。話題のテレビ番組などが始まると、ワッと複数のハッシュタグが誕生し、次第に淘汰されていったり、複数のタグが並列で残ったりする。このあたりの人情の機微は、私にはよくわからない。
『ハーバード白熱教室』の感想は#nhk_harvardに集約されたが、将来、サンデル先生以外のハーバード大学の先生を特集するNHKの番組が登場したらどうするのだろう。そもそも『ハーバード白熱教室』という番組タイトルに問題があるのだが……という話はともかくとして、仮面ライダーOOOのハッシュタグも複数あったし、OpenOffice.orgの方でも、用途などに応じて複数のタグが使い分けられており、問題の#oooは使用頻度が低下していたそう。
Togetterにまとめられただけが唯一の流れではないだろうが、当初は公式が云々ではなく、仮面ライダーOOOのファンが実態として#OOOを使っていることが問題視されていた。その後、なぜか「公式アカウントが」という点に大勢の関心が集まってしまい、公式が騒動の翌日に#KROOOにタグを変更したら話題は収束していったのだが、なんかヘンな感じがする。
この問題を「問題」と認識した人の多くが「早い者勝ち」ルールを正当と認めていたのは、ある意味で当然の話だろう。だから、コメント欄にタグ被りを批判する意見が多いことをもって、多数決的に判断することには疑問がある。
前振りばかり長くて、じつは本題についていいたいことは、あまりない。
功利主義的に考えると、「みんながルールを守ればいいのに」という主張の妥当性は怪しくなる。ルールの周知徹底にもコストがかかるからだ。
もし「ハッシュタグ#OOOは公式アカウントが使用したがために広まった」という見立てが間違っていて、「#OOOは自然発生的に大勢に用いられ、人気のハッシュタグになった」のだとすれば、少数派であるOpenOffice.orgの話題をつぶやきたい人々の方が、利用率の低下した#OOOから撤退して、各言語版のハッシュタグ(例えば#ooojp)や#OpenOfficeに統合する方が低コストかもしれない。
そもそも#OOOのような3文字のハッシュタグはtwitterの利用者が増えるにつれタグ重複が起きやすくなり、OpenOffice.org界隈でも「#oooに固執するのは茨の道」という認識があって、#OpenOfficeの利用がかなり広まっていたそうだ。これは私には納得のいく判断に思えるわけで。
オンラインゲームの『ブラウザ三国志』のハッシュタグがbotに乗っ取られた跡地、だという。いまブラウザ三国志のユーザーは主に#bura3というハッシュタグを使っているそうだ。けれども、しかし#3gokushiから単純に想起されるのは『三国志』ないし『三国志演義』ではないだろうか。
たまたまそのハッシュタグを最初に使ったコミュニティがブラウザ三国志だったとして、ふつうの三国志ファンがどんなハッシュタグを使えばいいのか、疑問に思う。いくつかのタグで検索してみたが、うまく引っかからない。「三国志」「三國志」で検索するとたくさん出てくるが、どれもハッシュタグがついていない。現状、ふつうの三国志ファンはハッシュタグでつながりたいとは思っていないらしい。しかし将来もそうなのだろうか。twitter、そしてハッシュタグが普及したとき、「twitterで#3gokushiといえばブラウザ三国志のことである」という事実を啓蒙し続けるのが「正しい」のだろうか。
件のbotはふつうの三国志関連の雑多なウェブ上の記事を1日数回程度の落ち着いたペースで発信しているに過ぎない。この程度のアカウントに席巻されてしまったというなら、#3gokushiでブラウザ三国志について書いていたユーザーも大した人数ではなかったんじゃないか。とすると、ブラウザ三国志のコミュニティの主力が#3gokushiから#bura3へ移動したことは、一概に受難とも言い切れず、「より自然な姿への移行」のようにも感じるのだ。
結局、公式が#KROOOへ移行した後も#OOOは仮面ライダー関連で使われ続けているのだが、#KROOOが一番人気かな? という状況にはなった。今回の事例は公式アカウントを「改心」させるという戦略が意味を持っていたのかもしれない。
しかしtwitterは「現在」に焦点を当てたメディアであり、一時的であれ、いまはOpenOffice.orgより仮面ライダーOOOの方が、つぶやき需要はずっと大きい。ハッシュタグはみんなの共有物と考え、「タグとコミュニティの関係は自由競争によって柔軟に変化する」という文化で運営する方が、合理的なすみわけにつながりやすいのではないか。
少なくとも、そういう可能性はあるよな、と思ったりした。