趣味Web 小説 2010-10-17

ルールの隙間には意味がある(こともある)

  1. 空港の税関で手荷物を検査してもらう方法補足(登大遊さん)
  2. 事故が起きてから入れる自動車保険がある?(登大遊さん)

海外から帰国した際、荷物の中に税関の検査が必要なものがあるかないか、100%確実に判断できる人はいないだろう。そこで「私には判断できないので、そちらで検査して判断してください」と白紙の携帯品・別送品申告書を提出した……というのが最初の話。税関の職員は、登さんにきちんと申告することを求め、押し問答になったという。

二番目は、自動車保険の解約について。ある保険では、電話で解約を申し出ると保険料の支払いは即座に止まるが、解約書を返送せずに放っておくと契約は継続するのだという。もし契約期間中に事故が起きたら保険料を後払いし、起きなければ解約書を返送する、という風にすれば、実質的に「事故が起きてから保険に入る」ことができる、と登さんは指摘する。

私も、こういうことを考えるのは好き。でも登さんを支持しない。

手荷物検査の件も、自動車保険の解約手続きの件も、登さんは「可能である」ことに正当性の根拠を置いている。もしそれが悪いことならばルールによって制限するべきだ、と。私はこの二分法に与しない。

携帯品・別送品の申告は基本的に旅行者の義務だろうが、全員がその義務を果たせるとは限らない。様々な事情が考えられる。旅行先でトランクを盗まれ、その後、無事に見つかったけれども鍵がなくなって開けられなくなってしまった、とか。「中に何かヤバいものが入っていたらどうしよう……」「あー、それなら仕方ないですね」と大勢が納得するのではないか。稀なケースにも対応できるよう、制度に遊びが設けられていることには意味がある。登さんのような事例だって、例えば「病気で意識が朦朧とし、自分で判断できる状態ではない」といった状況なら、職員の対応も違っていたろう。

保険契約の件も同じ。電話だけで解約できたらイタズラや嫌がらせの排除が難しい。だが、時間のかかる書類のやり取りが終るまで契約が継続し、保険料を払い続けるのは、顧客としては面白くない。第三者に勝手に契約を排除されるリスクをブロックしつつ、電話解約の利便性をも実現するのが、某保険会社の選択だったわけだ。いい話じゃないか。

登さんが指摘したのは、悪意ある顧客のため保険会社が損をするリスクである。だが制度を「悪用」する人がごく僅かなら、顧客サービスを充実して、より多くの顧客を獲得する利益の方が大きいだろう。ちなみに登さんの指摘を受けた保険会社は、電話だけで解約できる仕組みが持つ顧客側のリスクを甘受して、登さんの指摘した保険料後払いを可能とする保険側のリスクを重視することにしたそう。

純粋の民間企業は、常にサービス品質による競争に晒されているので、わざわざ、サービスが悪いとか、やり方が間違っているとか言って、違法でもないことを、重箱の隅をつつくようにしてクレームしなくても、自動的に淘汰されて、他のよりサービスが良いまたは業務がしっかりしている同業他社に負けてしまうので、違法なことを見つけた場合以外は、放っておけば良い。

保険は許認可事業ではあるが、ことに自動車保険なんてのは、激しい競争が行われている分野である。性急な回答を求めて短慮を引き出すことなく、放っておくか、せいぜい「私はこう思う」と伝えるに止めておけばよかったろう。登さんは、保険側にリスクの存在を突きつけ、サービスの質を低下させたが、有意義な活動とは思えない。企業がリスクをとってサービスの水準を維持するのは自由競争の範疇ではないか。

余談:

「電話解約後も保険料の引き落としは続き、書類で解約の確認が取れ次第、電話連絡の日付に遡って保険料を返金する」という仕組みを思いついた。でも振込手数料が問題だな。稀な例に対応するために、全ての取引について余計なコストが発生させるのでは、保険料競争に勝てないだろう。

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