趣味Web 小説 2010-10-23

小山駅の中央自由通路と市民の姿

1.

JR小山駅は東北本線(宇都宮線)が南北に走り、東の茨城県から水戸線が、西の群馬県から両毛線がやってくる、栃木県南部の鉄道交通の要衝だ。小山駅は東北線に沿って作られており、水戸線も両毛線も小山駅の付近で向きを変え、南北を向く。

かつて駅の西側には工場があって、市街地は駅の西側だったので、今も小山駅は西側だけに大きく開かれている。が、旧市街は鉄道と川に挟まれて手狭であり、町の発展とともに市街地は川ではなく鉄道を越えて東側へ広がった(インフラ普及の都合らしい)。現在では面積の圧倒的に広い駅東側の方が人口が多いそうだ。

こうした状況の変化に対応し、旧国鉄は1969年に東口を開設した。これは西口側の中央改札とは別の南口改札へつながる簡素なもので、両毛線や新幹線のホームへ行くには東北線ホームを経由して西口コンコースへ向かわねばならない不便があった。だが、東京の一部の地下鉄駅を思えば、特段、不便を言い募るようなものでもない。旧国鉄の狙い通り乗降客は増え、景気のいい頃は通勤ラッシュもあったそうな。

しかしそれは鉄道事業者視点の話であって、市民の方はずっと不満を抱えてきた。会社の同僚によると、小山駅の正玄関口は西口なので、たいていのカーナビは「小山駅」といわれれば西口を終着点とするらしい。私の父が乗る車のトヨタ純正カーナビは、小山駅の東口の目の前で試しても、そこが到着地点とは認めず、きちんと(?)西口までのルートを案内してみせた。さすがにこれは理不尽な感じがする。

また工場が移転した後に商業施設や大学ができ、周辺にマンションが立つなどしたが、東口が不便な場所にあるため、駅利用者を十分に取り込むことができていない、という状況もあった。これは西口側に暮らす私が、引っ越してきてすぐに感じたことでもあった。なまじっか西口側で生活が完結するだけに、東側は「ホームから見えているだけ」の別世界という感じなのだった。

2.

その他にもあれこれあったようで、私が5月末に引っ越してきた頃には、とっくにこんな計画が具体化していたのだった。

今秋着工という話だったが、ちっとも動きが見えないのでどうなっているんだ? と思って調べてみたら、10月12日に着工したのだそう。よかった。でも、一体どこで工事をしているのだろう。

市議会の議事録などを読むと、今年になってからも延々と基礎的な議論が百出していて頭がクラクラしてくる。どうしようもない事情で期限が切られているか、あるいは現状に致命的な問題がない限り、民主的な議論というのは自然と時間を空費する方向へ進みがちだよね……という認識を再確認させられた。結局、改造駅舎の完成予想図は数年前に出た絵のまんまで工事が始まっていたので拍子抜けした。

JRはこの自由通路によって乗降客数が増えるとは考えにくく、工事に消極的だったようだ。調べてみると長期的に小山駅の利用者は減少傾向にあり、10年で1割の利用減となっている。自動車の普及に伴い鉄道利用が減るのは、都市部を除き全国共通の傾向だ。利用減に対抗して駅の魅力を上げる投資をしたって、せいぜい利用減のペースを鈍らせる程度の意味しかない。JRに必要なのは、合理化戦略だ。

JR東日本は中央自由通路を作って南口改札を廃止し、現在の東口と南口を閉鎖する案を示した。中央改札は自由通路に面して新設され、両毛線、新幹線ホームへの動線が単純明快になるという。改札を減らせば駅を維持する必要人員は減らせる。客数に比して複雑すぎる駅構造を整理することで、設備の維持・管理も容易になるだろう。しかも建設費は大部分を小山市に負担していただきますよ、という。売上げ減予想の中で、民意を楯にサービス向上を強要する行政に対し、営利企業として筋を通した感じだ。

市議会では南口改札の閉鎖に対し議員から何度も何度も怒りの声が出ている。市もJRに南口改札存続の申し入れを行ってきたそうだ。しかしJR側の主張に理があって、JRと市の協議は2005年、南口改札閉鎖で妥結した。同年、市議会へ報告・説明がなされ、以後毎年、議会に同じ説明を繰り返てきた。まあ、これだけが問題だったわけでもないのだが、何ともつまらないことで5年も工事が棚上げにされてきたものだと思う。

以前、暮らしていた西東京市でも、私が転入して間もなく、最寄のひばりヶ丘駅で改装工事があった。素晴らしく開放的な駅になり、工事中の不便への鬱憤はスカッと晴れた。次に暮らした豊島区でも、大塚駅の改装工事があった。これも工事の前後で駅の印象が一変するほどのもので、なるほど便利になったなあ、と思う。が、後で調べてみると、工事の前後で乗降客数の増減傾向に変化はない。鉄道事業者が「駅舎改装は税金でやれ」という理由はよくわかる。経営上、無駄な投資なのである。

3.

自転車につきましては、東西、自転車の通行を確保したいということで、現在の南口自由通路か、これから整備をいたします中央自由通路、いずれかにはどちらかには通れるようにしたいということで、市としては考えております。それで現段階では整備がされることにより動線が明確化し、それと西口と東口の駅前広場が直接直近で接続されると、かつ東西にエレベーターを設置する中央自由通路での自転車通行を可能とすることが、最も費用対効果の面ではよいものと考えておりまして、中央自由通路での通行可能とすることで、今JRに強く要望しているところでございます。

特に、これ全国の事例を調べさせていただきました。8件自由通路が自転車通行が可能となるところがございまして、ただその自由通路が可能になった背景というのは、いろいろ駅の両側にある踏切があかずの踏切で、その改修に伴って自由通路をつくって、その際に代がえ措置、いわゆる保障として自転車を通行可能とした背景がございますけれども、小山市としてはその実態として、そういうふうな自由通路に自転車が通行することが認められているという実態を見てみましたら、ルールがちゃんと、自由通路に乗った段階では、自転車に乗らないで歩行して歩くということをやっておりまして、ルールを守っていただきまして、ルールを守れば危険性は、JRが言うように危険性はないということが確認できたものですから、その辺のことを強く訴えて、今後もJRの情報をかち取っていきたいなということで今取り組んでいるところでございます。

JRが「官僚的」にNoといった件について、市民の要望だからと全国の事例を調べて懸命に食い下がっていく小山市職員の奮闘に感心する。議会で文句をいうだけの議員さんは気に食わないが、必要悪なのかもな、とは思った。とはいえ、JR側を慎重にさせるのは、結局のところ「ルールを誰が守らせるのか」という問題があるからだろう。事故が起きればJRの責任問題になりそうだ。

この他にも「平成22年 建設水道常任委員会 06月16日-01号」はなかなか読みどころが多かった。

例えば、そもそも自由通路事業とは「JRの私有地によって市街地が分断されていて不便だから、JRにお願いして市の施設として自由通路を建設する」ものだから、結果としてJRに多少の利益があるとしても、行政側が建設費を負担するのが当然なのだ、といった基本的な構図の説明とか。市議は建設費のJR負担分をもっと増やせないかと食い下がるのだが、JRとしては自由通路など建設費が全く利益に見合わないもの。工事のため長期にわたり通常業務に支障が生じるのだから、むしろ補償金をほしいくらいだろう。だが市当局はJRをどうにか説き伏せて工事の承諾を取り付け、異例の工事費一部負担まで勝ち取った。

ほら見ろ、やればできるじゃないか、わがままなJRの言い分をハイハイと聞いてちゃダメなんだ、もっと強く出ろ、と市議たちは議会で説教をしている。それはじつは、検討委員会などで市民代表らが好き勝手に言ってきたことと真っ直ぐリンクしている。無理を通す使命を果たして不可能を可能にした市職員や、地元対策として経済合理性を超えた決断をしたJRを誰も褒めず、上から目線の「使えない役人ども」への注文ばかり並ぶ議事録にはウンザリするのだが、これが市民の姿なのだと思う。

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