趣味Web 小説 2010-10-25

押しボタン式信号のボタンを押さずに待つ

小山駅西口ロータリーの出口には押しボタン式信号がある。私は最初、それが押しボタン式の信号だとは気付かず、ボンヤリと青信号を待ち続けるうち、意識がとんだ。

急に周囲の音が聞こえてきて、ハッと気付いたとき、急に頭の中がクリアになったように感じた。そういえば、と仕事で壁になっていた技術課題のひとつについて思い起こしてみたところ、スルスルと解決策が浮かんできたのでビックリした。

数日後、私はまた同じ場所で信号待ちをしていた。今度は、押しボタン式と知っている。だが、ボタンを押さない。押さなきゃわたれないよな。わたりたくない? いや、家には帰りたい。でも……。

1分経ち、2分経つ頃には、両側に数人ずつ信号待ちの人が集まった。と、向こう側に男の子が走ってきて、迷いなくボタンを押す。ペカッと信号が変わり、人々が歩き出し、世界に音が戻ってきた。男の子はダッシュで横断歩道をわたり終える。私が2、3歩進んだところで、ようやく男の子のお母さんが向こう側に到着した。

その後も、私は「ボタンを押さなきゃなあ」と思いつつ、押さなかった。そのまま数週間が過ぎ、いよいよ私は、自分が「本当はボタンを押したくない」ことを認めざるを得なくなった。信号待ちをしているときの、だんだん音が消えていく感じは、私の生活の中で、よいアクセントになっているように思われた。

また次第に、案外ボタンを押さない大人がたくさんいることに気付いてきた。私と行動パターンが近いのか、たびたび一緒に信号を待つ人もいた。みなそれぞれに理由はあるのだろうが、私にはうかがい知れない。

余談:

「敢えて押さずに待つ」という人は見当たらない。ひとひねりすればDPZのネタになりそうなんだけど。もうやっているかな、と思って検索してみたが、まだやってないみたい。DPZの方々は、どちらというとボタンを押したくなるタイプらしい。

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