趣味Web 小説 2010-10-27

memo:犯罪肯定描写の是非

『俺の妹がこんなに可愛いわけがない』という小説がテレビアニメになったら、作中の「18歳未満への販売を自主規制しているはずの商品を、中学生が勘違いや手違いではなく堂々と購入して楽しむ」描写が、ネットの一部で大いに問題視されたそうな。そのログなどを読んでいて、個人的には奇妙に感じた。

作品の内容をよく確認せず商品画像を提供してスタッフロールに名を連ね、自主規制によるゾーニングが機能していないこと認めたようにも取れる状況を作り出してしまったメーカーの「問題」は私の関心外なので脇に置くとして、「どうして原作の小説は問題視されなかったのか」ということに、まず興味を持った。

ところで、未成年の飲酒・喫煙シーンは、リアルな時代の様相を切り取るために避けられない場合に限って認める、というような自主規制、あるんじゃなかったっけ。実写ドラマなどで、冒頭や末尾にそういう注意書きを見ることは珍しくないように思う。その精神を敷衍すると、現実にゾーニングは不完全にしか機能していないので、中学生が商品を手にする描写はあってもおかしくないと思う。が、原作を読んでみたら、アニメ版と同様、著者はその状況を肯定的に描いているのだった。これには面食らった。

まあでも、よく考えてみると、「悪いやつなら暴力によって打倒していい」とか、「軽犯罪くらい別にいいでしょ。青春だよ、青春」的なメッセージは、様々な作品の中に認めることができる。それらに感化されて実行に移せば、当然たいへんなことになるわけだ。が、あまり問題視されていない。こうしたことと、何が違うのだろう。あらためて考えてみると、私にはうまく説明できないことに気付いた。

私が面食らったのは、「中学生が商品のゾーニングを無視して何が悪いのか。そんなルールを守ることより、自分の好きという気持ちを貫くことの方が大切なのだ」と堂々主張する作品を私が見慣れていなかったから、に過ぎないのかもしれない。まあ、飲酒や喫煙と違って法律で規制されているものではないからな……いや、暴力による問題解決は実質的に法律で禁止されているよなぁ。でも殺人まで全肯定する作品は見たことが……あるような気もするなぁ……すぐには思い出せないけど。妹を守るためにひどい養父を殺しちゃって、そのこと自体には最後まで少しも反省なんかしない、とか。別に成人指定の漫画じゃなかったはずだよ。

あるいは『ゴルゴ13』とか、どうなんだ。私が最初に出会ったのは小学生の頃だったが。ゴルゴって、別に悪党を倒しているわけじゃないからね。とくに罪のない人も、たくさん撃ってる。『北斗の拳』だって、明らかに殺人者を肯定的に描いていないか。ああいう世界だからいい、って説明でみんな納得しているのかね。わからん。あるいは、主役が自殺を全面的に肯定する作品はあったかな。あったような気もするけど、これもちょっと、すぐに作品名が出てこないな。

ともかく、殺人を肯定的に描いてしまう作品もあるのに、商品のゾーニングがどうとかこうとか、問題の大きさが全然違うような気はするな。

しかし、また別の話で、どうして(こうして騒動になった後も)原作はろくに問題視されないのに、テレビアニメの方ばかり「規制強化の口実にされる」とビクつく人がたくさん現れるのか、という最初の疑問に帰ってくる。原作はベストセラーだそうで、書店へ行ったら目立つ場所で平積みになっていた。

「それはやっぱり、商品の届く範囲が違うじゃないか」といってしまうなら、逆に「なぜ小説より漫画の方が厳しく規制されるのか」といった、規制に抵抗する側の論拠のひとつが、怪しくなるように思う。

とくに結論はありません。

余談:

テレビアニメでは、下着規制とか、乳首規制というのもある(あった?)そうな。以前、そういう話を知ったときには、ポカンとした。その規制をやっているという局が、昼過ぎに放映している実写映画では、どちらも規制なしに出ている。整合性が取れていない。登場人物の設定年齢の問題なのだろうか。謎だ。

あるいは、ゲームでは18歳未満にセックスさせないという自主規制などがあるとか、実際にはないとか、そういった議論などを目にしたときも、非常に違和感があった。18歳未満に販売禁止というゾーニングをした中で、さらにそういう規制をするという話題だったからだ。

その何が不思議かというと、例えば『この文庫がすごい!』というムックには官能小説大賞というのがあったと思うけれども、そこでは少年少女が登場してセックスを愉しむという内容が無造作に紹介されていたと記憶している。そういう作品を褒めると規制の口実にされる、みたいな空気は全くなかったと思う。

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