政治に多少の関心を持っている方々には、通常国会で行われる総理大臣の施政方針演説の文字起こし版は、ぜひ読んでみていただきたい。こういうものを知らずに「総理が何をしたいのかわからない」などと批判するのは滑稽ではないか。
世評に反して、歴代の総理は、それぞれに力の入った演説をしてきたように思う。これから作り上げたい国家の姿を語り、具体的な政策や、その背景にある世界観などを説いてきた。いま再び読み返すと、歴代の総理が果たせないままに終った夢の跡に悲哀を感じる部分も多い。とまれ、賛否は脇へ置き、まず虚心坦懐に目を通していただければ……。
施政方針演説はけっこうな分量があるが、政策を網羅的に扱っているので、個別の政策課題の説明は意外なほど簡潔にまとめられている。私の場合、「えっ、これだけ!?」と拍子抜けした箇所がずいぶん多い。
ところで、臨時国会や特別国会では所信表明演説が行われるけれども、これはたいてい実務的な内容で、個人的には施政方針演説ほど面白くない。
自民党政権の施政方針演説は、総じて政策を列挙した実務型(安倍演説は例外的)。それを「ビジョンがない」と批判してきただけのことはあって、民主党政権の演説は、各論が総論に収斂する構成になっている。
読み物としては民主党政権の演説の方が面白いが、うまくまとまらない部分は大胆に省略しているので、施政方針演説で言及されなかった政策が国会で論議の的になることも多く、施政方針演説としての体をなしていない感じもする。これは安倍総理が最初の所信表明演説で一言も触れなかった「道路特定財源の一般財源化」をいきなりぶち上げて政権が早々に暗礁に乗り上げた例にも通じているように思う。