日没とともに就寝した私が、余震をものともせず10時間眠った後に目を覚ますと、東京電力の計画停電が決まっていた。まず、しっかり朝食をとった。そして、散歩がてらに駅へ。JR宇都宮線は終日運休、との張り紙。一人の駅員さんが拡声器を持ち、「たいへん申し訳ございません」と連呼していた。
ドクン、と自分の中で何かが脈打った。
栃木へ引っ越してきてから9ヶ月、私は街を歩き続けた。買い物に行く際、わざわざ片道500m、往復で1kmの距離を余計に歩いてきた。そのとき、私がいつも気にしていたのは、どの道に歩道があり、どの道にないか、歩きや自転車で安全に通行できるのはどの道か、ということだった。引越しの翌日には市街地図を購入し、一週間、毎日のように丹念にチェックしていた。
何のために、私はこんなことをしてきたのか。そうだ。今日の日のためだ。私は「月曜日から平常どおりに自らの務めを果たす」と決めた。その決心を、掛け声だけで終らせないために、私は実力を蓄えてきたのではないだろうか。
正規の出勤時刻まで2時間。片道8km、往復16kmを歩き抜いてやろうじゃないか!
余裕で到達。した。何のドラマもない。拍子抜けした。
が、一日の仕事を終えて「さあ帰ろう」と思った途端、心が挫けた。毎日こんなに歩くのは嫌だ。帰途、リサイクルショップに寄り道し、1万円の自転車を買った。軟弱者には厳しい現実。しかし風が気持ちいい。雨さえ降らなきゃ、毎日これでもいいな。……いや、これも一時の感情だろう。それでもいいさ。少なくとも片道は歩いたんだ。
午後6時20分からの停電に向けて、お店のシャッターが次々下りていく。ふだんの午後6時ごろなら空きが目立つアパートの駐輪場も、今日は満杯だ。すっかり日も暮れた。さっさと寝て、明日に備えよう。