2月末にみんなの党が予算組み替え動議を出して、一部で話題になっていた。
いくつかリンクしてみたけれど、組み替え動議案が最もシンプルにまとまっていると思う。
あとすっごく大きな歳出削減がされているんだけど、ちょっと俺の日本語力じゃあ読解できなかった。歳入庁創設による保険料収入増による支出減。なんだかよく分からないが歳入庁を作ると保険料収入が増えて、保険料収入が増えると支出が減るんだって、しかも3兆円も!さすがだよね、マジックみたいだけど、法律が書ける経済学者がついてる政党の言うことなんだから当然信用するしかないよね。
じつのところ、私はwhat_a_dudeさんの批判を最初に読んだ。そして、この部分がピンとこなかったので、それからようやく予算組み替え動議案を読んだ。そこには、こう書かれていた。
- キ.歳入庁創設による徴収増に対する一般会計負担の削減(削減:▲3兆円)
日本年金機構の徴収部門を国税庁と統合し「歳入庁」を設置するための第一歩として、国税情報を社会保険庁徴収に活用。社会保険料の徴収率向上と人員削減の一石二鳥を実現する。
「歳入庁」創設による徴収増に伴い、徴収増額と同額の年金および医療の一般会計予算を軽減する。
……。これはつまり、来年度予算の組み替え動議という形式を借りて、自党の政権公約を国会の議事録に残す戦術かな。質問では細切れの政策しか語れないから。
2月末に議論を始めて、1ヶ月で歳入庁を作り、1年で3兆円の歳入増を実現できるかといえば、まあ不可能だろう。年金と医療への一般会計からの補助も、実質的には徴収不足の補填として機能している分があるとしても、法律上そういう話にはなっていない。徴収増は年金と医療の収支を改善するのであって、一般会計の削減には直結しない。
とはいえ、この手の野党提案について、こうした指摘は実り少ないと思う。現況を完全に前提として、今すぐ変更できる部分だけについて異論を述べる、という制約を課したなら、野党が自らの政治信条を政策に反映することは非常に難しくなる。現実味のある修正案を出すばかりでは、野党は与党の政策に対して全面的な批判をすることができない。むしろ大筋で与党の政策を追認することになってしまう。
例えば今夏に解散総選挙があって、意外にもみんなの党が勝ち、単独政権を形成したとする。そのとき来年度の予算案が、今回の予算修正案のようになるかというと、そうはなるまい。次の参院選で圧勝して衆参で単独過半数を取った後の予算でさえ、難しい。何せ変えなければならない法律が多すぎる。予算案だけでどうにかなる問題ではない。
野党の提案には、いろいろなものがある。この予算修正案は、民主党が4年かけて実現するといって半分くらい実現しつつあったが首班交代と震災でかなり後退した諸政策と同様に考えるべきではないか。つまり4年かけて半分も実現できたら万々歳というものなのだろうと思う。それくらい大きな政策変更を、たくさん含んでいる。
その上で、what_a_dudeさんの批判は、「この予算案を実現するために予めクリアしておくべき課題」のいくつかを洗い出しており、またどのような点でみんなの党と価値観を異にする人が、どの政策に反発するかを明らかにしており、参考になった。
結局、what_a_dudeさんが読解できなかった
ことの一部は、私にもわからなかった。年金については、徴収率を上げても、その結果として政府の支出が増えるのは未来のことだし、将来的に修正積立方式を放棄して完全に賦課方式に移行するつもりなら、増収分を積立金に回す必要がないから、国庫負担割合の引き上げを遅らせることができる、という話だろう。私はむしろ積立方式に近づけるべきだと考えているので、この案には反対だけれども、賛否とは別に話を理解することはできる。
でも健康保険の方はどうなんだろう。「健康保険は逆選択が働きやすい」と仮定するなら、徴収率アップで国庫負担が減るという理屈も通る。健康保険に年金のような明確な時間差はないが、健康保険を滞納している人に「ここ数年、病院のお世話にはなっていない=健康保険のありがたみを実感する機会が少ない」人が多いとすれば、こうした人からきちんと保険料を徴収することで健保の収支は改善する。しかし逆に現在の無保険者の多くが年金暮らしの老人だと仮定すると、徴収率の引き上げは健保の収支悪化を招く。いま健保の保険料を滞納しているのがどんな人たちなのかによって、徴収率向上の帰結も変わるわけだ。