趣味Web 小説 2011-05-17

NationalGeographicに見習うのは難しい

1.

45分間の動画全編を見たい方は16.99ドルのDVDを買ってください。そりゃ値段が高すぎるというなら、アメリカのAmazonで1.99ドルにてオンデマンド配信版を視聴できます(日本国内からでは不可だが……)。ともかく、YouTubeに無断転載されているのを喜んで視聴するような人ばかりでは困る。

2ちゃんねるでもはてブでも「すごい」という声がたくさんあるが、その何割がちゃんと対価を支払っているのか。こういう発売されたばかりの商品をネットに即上げするのを歓迎する空気を作ってはいけないよ。

というわけで、以下は公式の販促映像だけを見た感想なので、実際の本編映像とはいくらか違っているかもしれません。

2.

静かで不気味なBGMを切れ目なく流し続けて基調とする。膨大な映像素材から数秒ないし長くても1分程度のシーンを切り取って、あまり脈絡なく並べてつないでいく。映像の切替は撮影地点の市町村名を字幕で入れること(だけ)で表現し、ナレーション等は入れない。地名は出すが地図はない。客観データを入れない。

素材がすごいのだから、そのまま静かにつなげば見る者に訴えかけるものがある、という確信か。実際、狙い通りの出来になっているようには思う。

どうして日本のテレビ局はこういう番組を作らない(作れない)のか、という意見をあちこちで目にした。たしかに、日本の地上波テレビ放送では、この企画は通りにくいだろうと思う。でもそれは能力の問題ではなく、これが「独自素材が極端に乏しく、権利の取得に最大の手間とコストがかかる」タイプの番組だからだ。

私はメーカー勤務の技術者だが、「コストの大半が外部に流れていく」タイプの商品には、まずゴーサインが出ない。自社の設計技術や生産ラインを最大限に活かし、多少なりとも主張や独自性のある商品でなければ、「我が社で作る意味がない」といった評価を受ける。おそらくテレビ局も事情は同じで、横断的に映像素材をかき集めて、言葉は悪いが「垂れ流しにする」なんて番組は、やっぱり無理なのではないか。

地震って怖いね、津波って怖いね、なんてことはみなわかっているので、それだけで番組を作りたいといっても、企画書を突っ返されると思う。ナショナルジオグラフィックが製作したような映像は、その気になれば日本のどのテレビ局でも作ることは可能で、だからこそ、そういう企画は通らないのではないかと私は思う。

もともと自社の制作力・取材力が乏しく、映像を買ってきて放送している衛星系のチャンネルなら……いや、既にナショナルジオグラフィックがこれだけの映像作品を仕上げているわけだし、その字幕を日本語に変えて放送するのが精一杯だろうな。お金が無いもんね。

ちゃぶ台返し

もし4月中旬以降の段階で日本の地上波テレビ放送局のどこかがこういうドキュメンタリー番組を制作・放映したとして、視聴率が取れたか。答えはNoだろう。タイミングを考慮すれば、この番組は記録映像に16.99ドルを支払う小さなマーケットでしか、商業的に成り立たない。『魔法少女まどか☆マギカ』をゴールデンタイムに放映しても視聴率は散々で、CM収入だけでは赤字になったろう、という話と構図は同じ。

まどマギは深夜に放送してBDが売れたからいいけど、ナショジオのドキュメンタリーは「ネット受け」映像で、しかも無断転載に人が群がっている。ニッチといえどもそれなりの市場がある英語圏でなければ費用を取り戻せそうにない。だからやっぱり、日本で制作するのは難しい。……と、ここで終るのも悲しいので。

NHK総合で4/29から5/8まで視聴率の期待できない時間帯で断続的に放送されたドキュメンタリー番組群。NHKスペシャル、ETV特集、クローズアップ現代など、企画メインの番組としてうまくまとまらなかった取材映像を、素朴に、素直に編集した番組です。「で、NHKとしては何がいいたいの?」という質問には答えない。現実の一端を伝え、その先は視聴者に丸投げする、ある意味で挑戦的なシリーズ。

どこかのはてブのコメントにもあったけど、とくに宮城県歌津半島を取材した『孤立集落 どっこい生きる』は傑作だと思う。再放送もDVD化も期待できないのが残念……。

3.

関係ない話だろうとは思うが、記事を書いている途中で思い出した件について書く。

昨夏の甲子園(第92回全国高校野球選手権大会)で成田高校がベスト4まで勝ち上がった裏で、地元の成田ケーブルテレビは収入も増えないのに出張取材が続いて金銭的にとても苦労した、という話を人づてに聞いた。独自映像ばかりでまとめられた特集番組は、年末まで繰り返し放送されて視聴者をうんざりさせたという。

県大会の頃はフライのボールをきちんと追いかけることもできないレベルだったカメラマンも、甲子園での最後の試合では千葉テレビの下手なカメラマンと肩を並べる水準の映像を撮れるようになっていた。もう一生、野球の試合を撮影する機会などないのかもしれないが、その成長ぶりには感動した。他方、この使命感を会社の利益に変換する妙案があったらいいのにな、とも思った。

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