趣味Web 小説 2011-08-12

memo:スピーカーに注目

小学校の校長先生は「スピーカーに注目!」という言葉を好んで用いていた。話し手に注目せよ、という意味である。もともとは県立高校の校長先生だったので、「スピーカー」といって話が通じると考えていたのだろう。だが小学生はみな演台の左右にあるスピーカーシステムの方を向いてしまい、校長先生はさらにヒートアップして「スピーカーに注目!」と声を張り上げるのだった。

あとで担任の先生から「校長先生のいうスピーカーとは、話している人という意味の英語です」と説明があったが、「では機械のスピーカーとはどう区別するのですか?」「校長先生が、機械のスピーカーに注目してほしい場合は、いったい何というのですか?」と質問が出た。担任の先生がどう答えたのかは覚えていない。

ともかく私たちは「スピーカー」に複数の意味があることは理解した。だが、その後も「スピーカーに注目!」といわれると、少なからぬ児童が、まずスピーカーシステムに注目し、それから校長先生の方へと向きを変えるということを繰り返した。私もその一人だった。他の人はどうだか知らないが、私は別にふざけていたわけではない。「頭でどうにか理解した」だけでは、身に付いた知識とはいえないことを体感した。

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