趣味Web 小説 2011-08-13

memo:わかったようでわからない経済学

1.

日本で続くデフレについて、より強力な金融緩和策に踏み出すべきか否か、という議論が何年も続いている。私は数年前から、一有権者として、より強力な金融緩和策の実施を支持する立場だ。いわゆるリフレ政策に賛成している。

abz2010さんはイギリス在住だ。そのイギリスでは、2008年秋に顕在化した金融危機に対応した金融緩和の結果、高めの物価上昇率が続いている。abz2010さんは現地の生活実感を踏まえつつ、「日本もイギリスやアメリカと同様に強力な金融緩和をすべき」といった意見に、疑問を呈されている。

筆者はリフレ政策をめぐる議論は基本的にはある種のトレードオフの問題と思ってきたし、だからこそこういう微妙なトレードオフの問題で、なぜ日銀やリフレ懐疑派が間違っていると簡単に断定できるのか不思議に思ってきたが、リスクがこんなに少ないと思っているならトレードオフの問題ではなく、「素人が見てもわかるリスクよりリターンが圧倒的に高い施策をなぜ日銀はやらないのか? きっと陰謀でもあるに違いない!」という問題となるのは当然かもしれない。

果敢な(?)金融緩和をすれば最終的には一般物価はあがるだろうし、それがイコール経済成長ならこんなに簡単な経済成長策はない。 そしてリフレ政策の副作用として心配されているバブルは金融緩和が原因ではないかもしれないらしいし、そうであったとしても金融政策以外でコントロール可能であり、又、もし間違ってリフレ政策で金利が上がっても、財政への負担増は心配する必要は無いのである。

もしこれらが全て事実と信じられるのであれば筆者も断然リフレ政策を支持する所であるが、残念ながら筆者はリフレ政策を今も支持していないし、当面支持する予定も無い。

諸外国のリフレ政策が目覚しい成果を挙げてはいるとは、とてもいえない。単純比較はできないとはいえ、失業率の推移など、日本の方がマシなように見える指標もある。英米の景気は十分に回復しているとはいえないが、「金融緩和の行き過ぎ」を批判する意見が次第に強まり、中央銀行の政策会議メンバーの中でも、金融緩和の程度を絞っていくべきと主張する人が増えてきている。

それでも、「日本のようなデフレすら許容できる」とまではいっていないと思う。実質で経済成長しても、名目値がマイナスでは楽しくない。消費に弾みがつかない。税収も低迷する。そうして借金が積み上がり、これまた将来不安の種になる。様々な社会制度の調整をするにも、緩やかなインフレの中で、上昇率に差をつける形で行う方が、デフレの中で切り下げ合戦をするより心理的抵抗が少ない。デフレはよろしくない。

とはいえ新聞の経済面や国際面で海外の経済学者や中央銀行の方々の発言(の要旨?)を読む限り、以前にも書いた通り、「緩やかなインフレ率の実現自体が景気回復をもたらす」という主張は見掛けない。「金融危機後の大胆な金融緩和によりデフレを回避し、一定の物価上昇率を実現した。相変わらず景気は不調だが、金融政策の仕事は好景気の条件(の一部)を整えること。それ以上を望まれても困る」というあたりがコンセンサスなのかな、と感じる。

かつて私は、リフレ政策を説く本から「供給制約は部分的、全体としては需要不足による不景気ならば、もっと金融緩和すべき」というシンプルな政策論理を感得したのだけれど、誤読だったんだろうな、と今は思っている。「経済」はさておき、「経済学」の初歩くらいは理解できるようになりたいのだけれど。わかったようでわからない……。

2.

いわゆるリフレ政策で実質賃金が下がるのは、短期的には本来の政策効果。実質賃金が下がるからこそ雇用の喪失を食い止められる。狭く深い痛みを減らし、広く浅い痛みを増やすのがリフレ政策だと思う。

ただ……韓国は失業率が低めなんだけれども、イギリスはそうじゃない。実質賃金が下がって雇用も回復しないのでは、何のための我慢だかわからない。「いや、デフレになっていたら大恐慌なみの失業率になっていたんだ」という可能性もあるけど、可能性の指摘だけでは納得できない。

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