趣味Web 小説 2011-08-20

就活の面接練習で面接官役をやるための本

就活は子どもに任せるな (中公新書ラクレ)

1.

まず私の基本的な認識を記す。(就職活動の思い出(2011-04-13)のダイジェスト版です)

もう何度目かの就職氷河期だが、相変わらず過半の就活生は面接の練習をしていない。エントリーシートを提出する前に第三者のチェックを受けている人も僅かだ。そんな就活は、運試しと大差ない。いろいろな情報に目を通して、たくさんの企業にエントリーして、落ちまくって、お金もかかって、たいへんな苦労したつもりでいて、本当は逃げている。

リンク先の記事はどれも面白いけれど、たぶん読んでも就活は楽にならない。「わかったつもり」と「できる」の間を埋めるには、一部の才人の他は、相応の苦労を要する。単純な話、親に見せられないエントリーシートを書き、親に見せられない面接をやっている内は、就活もくじ引きも大差ない。私はその苦労を逃げ、運よく内定を得た。その後、身近な人がその苦労を乗り越えて成長する姿を目の当たりにした。彼を尊敬すると同時に、自分の就職活動がどれほどひどいものだったかを理解した。

2.

鈴木健介『就活は子どもに任せるな』は実質的に「ふつうの就活本」なので、この本の致命的な欠陥は、売る対象を間違えているところだと生駒日記は書いている。

私は、この本はこのタイトルで正しいと思う。だいたい就活のために書店で本を買うのは大学の新卒くらい。高校新卒や中途採用の人で、就活中にこうした本を買って読んで勉強していたという人に出会ったことがない。大学新卒の人数は頭打ち、就活生の過半はバンザイ突撃型、そして無料のネット情報が充実してきて「書店で本を買って勉強する就活生」は希少種になりつつある……となると、就活本市場に未来はない。となれば、就活生の親御さんに本を売ろうと考えるのは当然のことだ。

就活は大学選び以上に人生への影響が大きいのに、なぜか親御さんの関心が薄い。発破をかけるばかりで、親御さん自身が勉強して詳しくなろうとはしない。でもそれは、「親御さん向け」として売られている解説書が乏しいから、という理由もあるのではないかと思っていた。高校入試や大学入試の解説書と同様に、その内容は「当人が読むものと実質的に同じ」で構わない。商品として「親御さん向け」という装いがあればいい。前書きや後書きから「人生の先輩」としてのお説教を省く、など。

補記:

ドラマとかで「お母さんには今の就職のことがわかってないんだよ」といってアドバイスを聞かない子がよく出てくる。人に聞くと、「あたしもそういった」「だって本当にわかってないんだもん」と口々にいう。そうだとして、私がよくわからないのは、そういわれて親が黙ってしまうこと。なぜ勉強しないのか。

ドラマの脚本家もいろいろ取材してそのように書いているのだろうし、実際、「昔話で説教するな」といわれたら引き下がってしまう人が多いのだろう。そうした状況を変えていくためには、やはり「親御さん向け」の就活本がもっともっと増えて、その内容が就活生当人向けと実質的に同じ内容であるという状況が、少しずつ広まっていくしかないのではないか。

親向けの情報と、当人向けの情報が違っていると、共通認識が生まれない。生駒日記は内容が同じなのが不満らしいのだけれど、同じ方がよい。

3.

かつて高校入試の指導を少しだけやった経験からいうと、ご両親が面接について勉強熱心で、ご家庭で面接の練習を繰り返した生徒さんは、さすがに見事なものだった。まあ、親だけ熱心でも子に拒絶されてご家庭での面接練習ができないケースが多くて、まず「親子で面接の練習をできる」かどうかの親力格差がものすごいのだけれど、その解決策はわからない。

ドラマ『フリーター、家を買う。』では父子の確執を乗り越えて、父が子の履歴書のチェックと面接の練習に関わるようになったことで内定が出るようになるのだけれど、私の経験と見聞きしてきたことに照らして、「リアルだな」と思った。一人で「苦労」しても成長しない。漫然と自炊していても料理がうまくならないのと一緒。

子どもの就職は保護者にとって他人事ではない。「18歳を過ぎたら何があっても知らん顔する」というなら話は別だが、実際はそんなの無理なんだから、自分の人生を左右する大問題なんだ。とはいえ、口先だけで発破をかけ続けたら「何もわかっていないくせにグチャグチャいうな!」と喧嘩になるだけ。田中秀臣『偏差値40から良い会社に入る方法』などの良書を読んで、ちゃんと勉強して真剣に取り組むべき。

そして鈴木健介『就活は子どもに任せるな』は、面接練習で面接官役をやるのに非常に有用な本。だから売る対象は少しも間違っていないよ。

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