趣味Web 小説 2011-11-01

非関税障壁は既得観念と関わりが深いのが厄介

1.

経済政策形成の研究―既得観念と経済学の相克

重商主義か……。こうした主張に大きな支持が集まって、私の視界の中では、ネット世論はTPP反対が主流になった。が、TPPに賛成する側にも『経済政策形成の研究』で松尾匡さんが反経済学思考として整理した考え方に沿っているものが多い。世論調査ではTPPは賛成が反対を僅かに上回っているが、賛否が割れる場合、損をする側に寄り添う方が「票になる」ので、国会がTPPに慎重な空気なのは自然。

私は、TPPとは関係なく、関税は一方的に撤廃すべきだと思う(ただし激変緩和措置は支持する)。関税は誰が負担しているのかといったら、消費者が負担している。このところ、またまたバターが品薄になっている。関税がやたら高いから、天候不順で国内生産が落ちるたび品薄になる。食糧安保とかいうけど、経験的には、国産にこだわる方が、商品の供給は安定しない。また、世界的に食料価格が上がっているとき、「国産品だけは値上がりしない」と考えるのは幻想。これは2008年に世界中の農業国が経験したことだ。

2.

はてブの関心は非関税障壁に集中している様子。

これは、「貿易の障壁を下げる利益」と「自分たちの価値観を一部譲って、みんなで合意したルールを受け入れるつらさ」の比較の問題。比較の片方が主観的なものだから、強硬な反対論が出るのも理解はできる。TPPで「日本のルールは素晴らしいので、全参加国のルールを日本と同じにしましょう」という合意が得られればよいが、痛み分け以外の結果は考えにくい。

非関税障壁については、相互性が確保される限りは、一方的に損をするということはない。ルールを共通化することに、私は基本的には賛成。でも、非関税障壁は価値観や強固な思い込みに根ざしているものが少なからずあって、「そんな独自基準を守ることに客観的には価値がないよ」といっても通じないのはわかる。でも、価値観対立の溝は埋まらないので、客観的に語れるところでしか議論は成り立たないのだけれど。

「自国の不合理な制度を、国際的に合意が得られる合理的なものに置き換えたい」という論者はどの国にもたくさん存在している。日本人が絶対に譲りたくない箇所について、日本の制度が素晴らしくて、外国の制度がダメであることを客観的にも説明できるなら、光は見えてくるはず。

既に合意ができている部分については、参加の遅れた日本の意見は通るまい。だが、報道を見る限り、国内でTPP亡国論の根拠となっているような種類の非関税障壁については、現時点で交渉のテーブルに乗っていない。議論があるとしても、それは今後の話であって、ならば「もう遅い」論は成り立たないと思う。

3.

非関税障壁を下げることを前提とするならば、アメリカが怖いなら、FTAよりはTPPの方がいい。非関税障壁をそのまま残すなら、交渉は無用。でも、一方的に関税の段階的撤廃への歩みを進めるなどして、「全体として貿易の促進には前向きであり続ける方がいい」とは思う。

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