趣味Web 小説 2011-12-10

ゆるく働ける会社とは? (仕事の話2)

1.

転職して半年経った。無断遅刻・欠勤、会議・休憩の時間が守れない、書類の提出期日が守れない、電話の取り方がわからない、敬語が使えない・・・そういう人たちがたくさんいた。(中略)驚くことに、利益、時価総額は、今の会社の方が桁違いに高いのだ。

ありえない話ではないと思う。例えば……

  1. 根本的にビジネスのアイデアが優れていて、現場に多少の無駄があってもやっていけるというケース。右肩上がりの新興ネット企業がオフィスをやたら快適にするような事例の変形で、利益を「だらしなさ」という形で食い潰しているわけ。(A)
  2. 「ゆるさ」を「居心地のよさ」と認識する社員が大多数を占めているというケース。こうした人々は決して社会の多数派ではないのだけれど、採用面接などでとくに注意して意図的に選別すれば、ひとつの企業を同種の性格の人ばかりで形成することは可能。こうした人々は、「ゆるい環境」でこそストレス少なく能力を発揮できるので、「ゆるさ」の維持が、組織のパフォーマンスの維持に欠かせない。(B)
  3. ある種の「ゆるさ」がハンデにならない業種だというケース。悪さをしない「ゆるさ」を解消しようと頑張るのは無駄なので、「ゆるい環境」をよしとする方が企業として効率的なのだ。以前に読んだ記事を鵜呑みにすれば、ケーズデンキなどは、この種の成功例なのかもしれない。(C)

ケースAの会社では、「ゆるさ」に積極的なメリットがないことに注意。それゆえ、業績が傾いたり、給与総額の伸びと業績の伸びのバランスが崩れると、「ゆるさ」を解消して帳尻合わせを行うことになるし、それに反対するのは、きわめて難しい。給料を下げてまで「ゆるさ」を守ることに賛成する人は、珍しいからだ。

ケースBとケースCの会社では、経営者らが意図的にそうしており、その知恵を言葉を尽くして後代に伝えていこうとしているならいいけれども、私の観察するところでは、必ずしもそうではない。「何となく、気付いたらそうなっていた」場合や、一人の天才が築き上げた環境の場合、「ゆるいままでよい」理屈が言語化されていないので、いずれ崩壊すると思う。

危機になると議論が行われ、現状を変えようという話になる。そのとき、一般人が議論すれば、ふつうは「ゆるさをなくす方が合理的」という結論になる。誰も反対しないようなことは、仮に結果がまずかったとしても、「まさかゆるさを解消したことが問題だとは思わなかった」という罠に落ち、「もっと合理化を進めよう」となりがち。

2.

私の狭い経験からいうと、現実に存在する「ゆるい会社」はケースAとケースBの合せ技だと思う。

a)

競合他社より特別に優れているところはないが、経営者が「給料を低く抑え、人を増やし、残業をなるべくさせない」方針を持っている。その結果、「優秀な人に逃げられる」苦しみを慢性的に抱えている。しかし会社の業績は低空飛行なりに安定しているから、経営方針を堅持している。すると結果的に、「細く長く、ゆるく働きたい」社員が残る。彼らは多くの給料を求めないかわり、きつい仕事の仕方を嫌がる。

こうした社員をバリバリ働かせようとしても結果は出ない。ただし、こんな彼らも、いったん給料を上げてしまうと、それを下げることには強く抵抗する。だから、会社の業績がいいとき、一時金は増やしてもよいが、基本給を増やすことには慎重でなければならない。優秀な社員が逃げいていくのは我慢せねばならない。

つまり、本質的にはケースAである。「ゆるさ」に積極的な意味はない。一見、ケースBのようだが、それは積極的な選択の結果ではない。

b)

高度成長期には「人手不足倒産」が多発した。「給料が安いかわり、社員に高い負荷をかけない」というのは、その時代を生き抜く経営の知恵のひとつだった。猫の手でも借りたい。そうしなければ業務が回らず、会社が消えてなくなる。だから、他社から弾き出された人材を吸収する手立てを真剣に考えたのだ。

バブル崩壊後の人余りの時代、そうした企業の多くは、方針を転換していった。「安い給料でこき使う」ことが可能なら、その方が都合がいいように思えるからだ。経営者だけではない。労働者の多数派だって、そう思っていた。だから、ふつうの会社では、「無能なヤツ」を追い出すことに反対するのは「変人」だった。

とにかく世の中には失業者がたくさんいる。マクロの需要不足がある以上、所詮はババ抜きだ。「ゆるく働きたい」人が、そうした人を排除しない会社に巡り合って、そこで幸せにやっている裏で、「俺なら同じ給料で2倍働くのに!」と嫉妬している人がいる。「じゃあ、そっちの人を雇おう」と思うのがふつうの経営者だ。

今も「ゆるく働きたい」人が多くを占め、古い経営方針を堅持している企業はレアだ。それなのに、当の労働者は自らの幸運をいまいち認識せず、「競合他社より給料が少ない」と文句をいっている。「無茶をいってはいけないよ」と私は思うのだが……。

c)

純粋にケースAに該当する企業など滅多になく、そういう事例を見てよだれを垂らしても、自分がそこに入れる可能性はゼロに近い。

冒頭のリンク先の記事を書いた方が、ケースAに巡り合ったなら、それは宝くじに当たるような幸運だ。ぜひ、その幸運から手を離さないでほしいと思う。

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