趣味Web 小説 2012-02-20

前提が変われば結論も変わる

1.

私はFF14のプレーヤーではない。メカAGさんの記事に興味を持ち、FF14の公式フォーラムを読んだ。そして、原案でも新案でもプレーヤーに選択の自由があるのは同じなので、「自由の価値」が問われるような話題ではないと私は思った。

2.

FF14はオンラインRPGだ。オンラインRPGとは、サーバー上に構築された世界にプレーヤーがログインし、仲間になったり、お喋りをしたりしながら物語を進めていくゲームのこと。そしてFF14はワールド(≒サーバー)を自由に選択することができないタイプのオンラインRPGなので、ワールドの違うプレーヤー同志は交流できない。

このところFF14はプレーヤーが漸減傾向にあって、ワールドの人口密度が低下しているという。とくに危機的なのがEUタイムゾーンのプレーヤー。自分がログインできる時間帯には、広大なワールドに他のプレーヤーが少ない。誰とでも仲良くできるならいいだろうけど、そうではない。だから、一定以上の人口密度を全てのタイムゾーンで確保しないとゲームの存続にかかわる。

そこで吉田さんが示した解決策は2つ。

  1. ワールドを統合し、1ワールドあたりのプレーヤー数を増やす。
  2. EUタイムゾーンプレイヤー推奨ワールドを新設する。

日本とアメリカのプレーヤーは、ワールド統合によってコミュニティを十分に形成・存続できるようになるだろう。欧州のプレーヤーは、それだけでは足りないので、とくに新ワールドを設定して、そこに集まってもらうことにする。どちらも納得のいく話だと思う。

3.

ただ、私がざっと読んだ感じ、原案には大きな問題があった。それは、ワールド統合のタイミングで、いったん全員のフレンドリストなどがクリアされることだ。

具体的には、コミュニティを完全に存続するためには、コミュニティ全員で特定のワールドを選択し、そこでコミュニティを再生しなければならなかった。これはたいへんな手間だと思う。

しかし原案発表時点では、技術的課題のためワールドの統合はコミュニティ情報の白紙化とセットだった。どんな統合の仕方をするにせよ、コミュニティをプレーヤーの意思で復元しなければならない。この手間をなくす妙案は存在しなかった。だからこそ、吉田さんたちは、大胆な提案に踏み切ったのだと私は思った。活動が停滞しているコミュニティは、どのみち滅びてしまう。そういう前提での決断だったのではないか。

ところがその後、技術的な進展があった。従来の所属ワールドに留まり、座して統合を待つ判断をしたプレーヤーのコミュニティ情報を、維持できるようになったのだ。こうなると、判断の前提がひっくり返る。ワールドの移動を希望する人以外は現在のワールドに留まってもらうのが、最小のコストで最大の幸福を実現する方法ということになるだろう。

なお、前述の通りFF14はワールドを移動できないオンラインRPGだから、ワールドをまたいだフレンド関係をシステムがフォローすることはない。ワールドの移動を選んだ人は、新しい世界で、白紙の状態から人間関係を構築していくことになる。

4.

つまり、私には「技術的課題がクリアでき、議論の前提が変わったので、判断を変更した」というシンプルな話のように読めた。

原案へのプレーヤーの反発に関するメカAGさんの見立ては考えすぎで、「コストとメリットのバランス」というありふれた議論ではなかったか。人口密度の低下はたしかに問題だが、全プレーヤーに既存のコミュニティを再構築するコストを支払わせるのは間違っている、と。他の作品ではコミュニティ情報を引き継いでのサーバー統合の例があったことから、「FF14でも同じことができないはずがない」という話にもなった。

補記:

ところで、吉田さんが「新設ワールドだけでなく、どのワールドにも移動できるようにする」というのは、システム構築の手間が変わらないなら、最大限プレーヤーの自由に任せたいということだと思う。

5.

こういうことって、よくあると思う。ペーペーの私が提出した実験報告書が、職位の高い人たちの議論をひっくり返してしまったときは、とても怖くなった。それまで「それは無理」という前提で話していたのが、「可能です」になったので、封印されてきたアイデアがなべの底が抜けたようにドカドカと降ってきた。「そうか、組織というのは、こうなっているのか」と私は思った。

職位の高い人たちは全知全能の神ではない。彼らの「できる」「できない」という議論の前提は、私みたいな末端の社員の報告書ひとつにかかっているんだな、と。私は「できるはず」といわれてダメ元で実験をしていたのだけれど、なかなか結果が出なかった。その間、上司は会議の場では「今のところ、できていない」と言い続けるしかなかった。私は「解決の目処が立ちません」と報告し続けたので、上司も「問題解決の目処が立たない」を公式発言とする他なかった。

「こうしてほしい」「**ではできていた」と声を上げるのは、客として間違っていない。だが、物事には個別の事情がある。「できそうでできないこと」はたくさんある。そして「できない」が「できる」に変わることも。「できるはず」といういいかたは、個人的には避けていきたい。

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